魔女と弟子 《最後の一年》
「ルーナ話がある。こっち来い。レントは先に帰っていろ。」
午後の訓練の後に、急にラピスから呼び出された。レントは心配そうに私を見てたが、黙って指示通り家に帰っていく。
何か怒らせる事をしたのか、ビクビクしながら近寄ると、不機嫌そうな顔で私を見ている。
「何故、そんなに怯えている。ただ、話があるだけだ。」
レントが見えなくなったのを確認して、ラピスが問いかける。
「ルーナ、お前準備は出来ているのか?」
問いかけの意味が分からなくて、首を傾げる。
「あと半年で、レントは17歳になる。そしたら、お前はここを出ていくだろう。心の準備は出来ているのか?」
ラピスの言葉にハッとする。
「まさか、別れるのが嫌だとか、ここに残ろうとか、何かおかしな事を考えてはないよな。」
私はラピスの顔を見ることが出来ずに、視線を逸らす。
「お前が役目を終えて、ここを出る事は決定事項だ。何があっても変わることはない。今までの魔法使い達もそうしてきた。ルーナ、わかっているよな。」
最後は優しい口調で諭すようにラピスが告げる。
「…大丈夫だよ。ちゃんと、わかってるよ。」
最後の日まで、あと半年。ちゃんと覚えている。神殿のことも何も情報がない中で、今のままでは、別れは確実にやって来る。
そんな事は、ラピスに言われなくても分かっている。分かっているんだけど…。
ラピスは、気づいているんだ。私が、希望を持って、悪あがきしようとしてること。
「わかってるならいい。それなら、早めに準備をしておけ。余計なことは考えるな」
ラピスが、私の頭をガシガシと撫でる。
「…ラピスは、私と離れるの寂しくないの?」
私の頭を撫でるラピスの手が一瞬止まる。ラピスの顔を見上げると、優しく見つめる視線がそこにはあった。
「そうだな。うるさいお前が居なくなるのは、静かになって昼寝もしやすくなるからな。ちょうどいいかもしれん」
「ちょっと、酷い。」
いつもの調子で答えるラピスだけど、表情は少し寂しそうにも見える。
「ルーナ、俺もルドもお前の幸せを願っている。ここを出て、普通の人間として、好いた者と結婚して子供を生んで、寿命が来たら年老いて死ぬ。そんな普通の幸せを生きて欲しいんだ。」
でも、外には誰もいない。
「一人で外に出ても幸せになるとは限らないよ。一人で寂しくて、不幸になるかも」
涙を堪えて、じっとラピスを見る。
「王家がお前を保護する事になっているから大丈夫だ。お前は幸せになれる。誰よりも幸せにならなければ駄目なんだ。」
それ以上は、何も言えなかった。ラピスが悲しそうに笑うから、私は、何も言わずに、ギュッとラピスを抱きしめる。
すると、ラピスは、いつもより優しく頭を撫でてくれた。




