少女が魔女になった日②
気がつくと、少女は知らない扉の前に立っていました。隣には、魔法使いが笑顔でこちらを見ています。
「ここが、これから一緒に住む僕らの家だよ」
魔法使いがドアノブに手を掛けると、ガチャリと音がして、ゆっくり扉が開きます。中は真っ暗で何も見えません。
魔法使いがパンッと手を叩くと、部屋の中が一気に明るくなりました。
魔法使いに、そっと背中を押され中に入ると、玄関のすぐ前には奥に続く廊下があり、右側には二階に上がる階段がありました。
「部屋の中を案内したいけど、夜も遅いし、今日は取りあえず休んで、明日これからのことを話そう。」
そう言うと、魔法使いは「こっち」と二階に上がり、一番奥の部屋へ案内してくれました。部屋の中は、ベットとクローゼットがあるだけのシンプルな部屋でした。
初めての場所に、眠れるか不安でしたが、疲れていたのでベットに横になると、直ぐに規則的な寝息が聞こえてきました。
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少女が目覚めると、すでに夜が明けて外は明るくなっていました。身支度を整えて一階に下りると、いい匂いがしてきます。
匂いにつられて、廊下の奥に進むと、キッチンがあり、魔法使いが朝食を作っているところでした。
「おはよう。よく眠れたかな?」
少女に気づいた魔法使いは、声をかけてきました。
「おはようございます。寝坊してしまいました。ごめんなさい。朝食作り手伝います。」
「大丈夫だよ。あとは、並べるだけだから、運ぶのを手伝ってくれるかな?」
魔法使いは、出来上がった朝食を指差して隣の部屋に運ぶよう伝えます。
準備が整い、二人とも席に着いて一緒に朝食を食べます。魔法使いの作った料理はとても美味しく、特にスープが絶品で、おかわりまでして、魔法使いを驚かせました。
朝食後は、片付けを手伝い、これからの事について、話し合うことになりました。
「これから3年かけて魔法について学んでもらうんだけど、まずはお互いの事を知らないとね。」
魔法使いは、そう言うと少女に向かって、自己紹介を始めました。
「昨日も名乗ったけど、改めて僕の名前はルドルフだよ。よろしくね。君の名前も教えてくれる?」
少女は、昨日会ってから一度も魔法使いに自分の名前を告げてないことに気づき、慌てて自己紹介を始めます。
「私は、ルーナと言います。14歳になったばかりです。よろしくお願いします。」
魔法使いは、ルーナという名前を聞いて少し驚いた様子でしたが、直ぐに笑顔になり、何事もなかったように話し始めます。
「ルーナ…か、すごくいい名前だね。君にぴったりの名前だ。これからは、ルーナちゃんって呼んでもいいかな?僕の事は、ルドって呼んでくれる?」
「えーと、ル…ドさん?」
家族以外の異性を愛称で呼ぶのは初めてで、緊張しながらも名前を呼ぶと、ルドはとても嬉しそうに微笑んでいました。
それからは、二人でお互いのことを色々話しながら、気づいたらお昼の時間になっていました。一緒にお昼を食べながら、楽しい時間を過ごし、ルーナの緊張も少しずつ解けていきました。
午後は、家の中を案内してもらい、それが終わると、二人は居間の方へ移動して、これからの事を話し始めました。
要約すると、これから3年の間にルドの知り得る魔法全てを使えるようになること。
そのためには、時間がないので明日から直ぐに魔法について学んでいくことが伝えられました。
ただ、ルーナは平民で、読み書きが出来なかったので、読み書きも同時進行で学んでいくことになりました。
翌日から、午前中はルドと魔法について、午後は読み書きと薬草について学んでいきました。
数日は家族と会えない寂しさと、勉強の日々に、辛くてベットで一人泣くこともありました。
しかし、そのうち、そんな暇もないくらい忙しくなり、夜は疲れから横になると悲しむ間もなく眠りにつきました。
読み書きは、前から興味があったので、1ヶ月もあれば上達して、図書室にある薬草図鑑や魔法書初級が読めるようになりました。
魔法は流石に難しく、最初に魔力を感じることから始めました。
ルドの手を通して魔力の流れを感じることから始めて、少しずつ一人でも自分の体を巡る魔力を感じることが出来るようになっていきました。
1週間くらいで、掌に小さな水の玉を出せるようになると、ルドは驚きながらも「うちの弟子は天才だ」と、喜んで頭を撫でてくれました。
3ヶ月経つと、魔法だけじゃなくて、簡単な薬の調薬も教えてもらいました。
半年経つと、ルドとの生活にも慣れてきました。ルドはルーナの事を、''ルーナちゃん''から''ルーナ''と呼ぶようになりました。
一年経つと、初級魔法は難なく使えるようになり、中級魔法も使えるものが増えてきました。
薬も回復薬や風邪薬など作れる物も増えてきて、ルドと一緒にお弁当を作って薬草採取にも行きます。
この頃には、二人でいるのが当たり前になり、ルーナが寂しいと思うこともなくなりました。
二年経つと、中級魔法も使えるようなり、上級魔法にも挑戦していました。
定期的に国から生活物資が届く代わりに、ルドの作った薬を渡していますが、今はルーナの作った薬も一緒に渡していました。
ルーナは、魔法の楽しさや薬作りなど、いろんな知識を教えてくれたルドに感謝して、ルドの事を「師匠」と呼んでいましたが、ルドは呼ばれる度に恥ずかしがって顔が赤くなるので、それが可笑しくてルーナは師匠呼びが止められないのでした。
ルーナが出来ることが増えてきた頃から、ルドは研究室に籠ることが多くなってきました。
いつもは笑顔で楽しいことが好きなルドが、真面目な顔で難しいことをブツブツと呟いています。
ルーナが声をかけると笑顔を見せてくれますが、笑顔に陰りが混じります。
「師匠、ずっと研究室にいるけど、何の研究をしているの?私にも手伝えることはある?」
ルドが心配で、ある日ルーナは声をかけました。
「心配かけてごめんね。ちょっと、難しい魔法に挑戦しようと思ってさ。いろいろ試してるんだけど、まだ上手く出来なくてね。」
ルドは笑顔で答えますが、表情には疲れが見えました。これ以上追及されたくないのか、ルドはヒラヒラと手を振るとそのまま研究室に入って行きました
三年経つ頃には、ルーナは魔法も調薬も全て一人で出来るようになりました。ルドから教えられることも無くなりました。
ルーナは、ルドから懇願されて師匠呼びは止めて、今では''ルド''と呼ぶようになりました。
そして、ある日の朝のことです。
「やったぞ!やっとだ!これで憂いはなくなる」
ルドの大きな声に起こされて、ルーナは飛び起き、急いで廊下へ出ると、ルーナと目が合ったルドが両手を広げて走ってきました。
そして、そのままルーナを抱えてぐるりと回転します。何が起きたのか分からず目を丸くするルーナに「ごめんごめん」と、可笑しそうに笑いながら、ゆっくり降ろしてくれました。
「ルーナ、今日は魔法の練習も調薬も全て休みにして、一緒にピクニックに行こう」
最近は、ずっとルドが研究室に籠っていたので、二人でいる時間も減っていて、寂しく思っていたルーナは、ルドの提案に目を輝かせて喜びました。
「それじゃあ、早く準備して、お弁当作って出発だ」




