魔女と弟子 《二年目》
最近のレントは、よく笑うようになったと思う。しかも、私に声をかけるようになった。
初めてレントから「おはよう」って挨拶された日は、感激してしまって、日課の薬草採取も忘れてしまったほど嬉しかった。
以前の私に対する態度からは、考えられないくらいの進歩だ。
朝起きて、身支度を整え廊下に出る。1階に下りると、朝食のいい匂いがしてくる。
(今日も美味しそうな匂い。)
食堂へ向かうと、ちょうど朝食を並び終えたところだった。
「おはよう」
「おはよう!レント。あっ、今日はパンケーキだ。やった、私これ一番好き」
席に着くと、後ろから欠伸をしながら、ラピスが入ってきた。
「…朝から元気だなルーナ。パンケーキくらいで、そんなに喜べるのはお前だけだな。」
「おはようラピス。ラピスだって甘いもの好きなくせに。」
三人席に着くと、一緒に朝食を取りながら、今日の予定を話し合う。これも、以前はなかったこと。
以前のレントは、黙々と食べて、直ぐに出て行ってしまうから、声をかけることも出来なかった。
でも今は、食事の時間もだいぶ賑やかな時間に変わったな。
こんな普通の日常が、幸せで心地よい。レントも、同じように思ってくれてたら嬉しいな。
♢♢♢♢♢♢♢♢
今日は、定期的に国から生活物資が届く日なんだけど、その中に王家の紋章入りの手紙が入っている。
何か緊急なことがない限り、王家から手紙は届かないから、凄く嫌な予感がする。
読んでみると、国で感染症が流行っていて、少しずつ死者も増えてきているため、至急、薬を納品して欲しいと書かれていた。
私は、急いで準備を始める。取りあえず作り置きしてある回復薬や解熱剤など、有るもの全て納品しておいた。
足りない薬草もあるから、まずは薬草を取ってこなくちゃ。必要な薬草は、家の近くで採取できる物ばかりだから、採取後すぐに作り始める。急いで…早くしなくちゃ。
なるべく多くの薬を届けてあげたい。
――― コンコンコン
ドアをノックする音に、ハッと顔を上げると心配そうな顔をしたレントが、ドアの前に立っている。
「何度かノックしたけど、返事がないから、勝手に開けてごめん。その…お昼も食べてないだろ。大丈夫か?」
えっ、集中し過ぎてお昼過ぎてるの気づかなかったな。窓の外を見てみると、外は真っ暗で夜になっていた。ちょっと、まずいかも…。
「ごめんね。集中してて気づかなかったの。今、ちょうど終わりの工程だから!今すぐ出るから、ラピスには黙ってて!」
うわー、食事も取らずに1日薬を作ってたなんて、ラピスに知られたら怒られちゃうよ。
これまでも、何度か薬作りに集中しては、寝食忘れちゃって、その度にラピスに怒られてたんだよね。怒ると本当に怖いんだから。
「俺が何だって。ルーナお前、また食事も取らずに薬を作ってたな。次やったら部屋ぶっ壊すって言ったよな。」
ひぃぃ、怒ってるぅぅ。
えー、何でラピスがここにいるの?夜はこっちに来ないのに……て、私か、私が部屋から出ないからラピスが呼びに来たのね。
「ごめんなさい。もうしません。ちゃんとご飯は食べるから、二人に心配かけて、ごめんなさい」
部屋を壊そうとするラピスを必死に止め、ひたすら謝る私の様子に、レントは笑いを堪えている。
「レント見てないで、助けて!」
「いや、それは無理。」
「レントに助けを求めるとは、反省してないな、お前。」
「反省してます。ごめんなさい。」
それからラピスからのお小言を聞き、ひたすら謝って、ラピスを落ち着かせてから遅めの夕食をみんなで食べた。
食後、二人には感染症の事や薬が必要なことを説明して、しばらくは薬作りに専念することを伝える。もちろん食事や休憩はきちんと取ることと、無理をしないことを約束させられたけど、二人に心配させないことも大事よね。
「わかった。家の事は俺がするから、魔女は薬に集中してくれ」
「ありがとう。全部任せちゃうけどお願いします。」
取りあえず、今日だけでも、かなり用意出来たから先に納品して、明日は早起きして、朝から作れば、また多めに作れるかも。
そうだ。納品の時に、何の薬が一番必要か手紙も出しておこう。そうしたら効率よく薬が準備できるしね。
明日から忙しくなるし、早めに休もうかな。感染症が早く落ちついて、みんなが不安のない生活に早く戻れるように、頑張らないとね。




