魔女と弟子 《二年目》
もうすぐレントの15歳の誕生日。レントが、この森に来てから一年くらい経つんだな。
生まれた日から、毎年勝手にお祝いしていたけど、今年は一緒にお祝いできるし、楽しみだな。
プレゼントは、何にしようかな。どんなものが喜んでくれるかな。
あとは、誕生日ケーキは作れないけど、アップルパイなら作れるから、パイを焼こうかな。料理が壊滅的に駄目な私でも、アップルパイだけは、何故か美味しく作れるんだよね。
ラピスにも、協力してもらって、当日はサプライズでレントを驚かせよう。考えるだけで楽しみ。ワクワクがとまらない。
それからは、毎日レントに内緒で、プレゼント製作に、飾り付けの用意など頑張った。
何度か怪しまれたけどバレてないはず。
いよいよ、明日は本番当日。
ラピスにも、明日は夕方まで、レントを帰さないよう伝えてあるから、その間に全部準備しなきゃ。明日は朝から忙しくなるよ。
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【レント視点】
最近、魔女の様子がおかしい。何だかソワソワして、落ち着かないというか、挙動不審だ。
ラピスに聞いても知らないと言うし、また俺が、何かしたのか不安になったが、変わらず話しかけてくるから、嫌われてはないはずだ。
魔女の態度は気になるが、あの過保護なラピスが動かないなら、大丈夫なんだろう。
そう、思っていたのに、今日は朝からラピスも様子がおかしい。
チラチラ俺を見ては、何か小声で言ってる。何て言ってるのか聞こえないが、いつものラピスらしくない。
ちょっと不安になってきた時、ラピスから信じられない提案があった。
「レント、今日は俺に勝てるまで勝負しろ。俺がいいと言うまで、続けるからな」
勝つまでって…無理じゃないだろうか。
魔法を本格的に初めて、まだ一年の俺が勝てるわけがない。半年前もボコボコにされた。
やっぱり俺、魔女に何かしたのだろうか。
「おい!さっそく始めるぞ。俺はなるべく手は出さないから、さっさと来い!」
結局、そのまま勝負は開始され、夕方まで続いたが、俺は一度もラピスに傷ひとつ付けられずに終わった。
家に戻ると、魔女が笑顔で出迎えてくれた。
ボロボロの俺を見て驚いて、ラピスに注意していた。ちょっと、心がスーとした。
お風呂に入って、夕食の準備をしようとキッチンへ向かうと、魔女がそのまま食堂へ案内した。
「レント!15歳の誕生日おめでとう!」
食堂の中に入ると、振り返った魔女が、満面の笑顔でそう言った。
(……そうか。今日は俺の誕生日か。)
母親が死んでからは、誕生日なんて祝ってもらったことなかった。孤児院でも、同じ月生まれの子と一緒に祝ってもらったから、俺だけの誕生日は、久しぶりだった。
「驚いたでしょ?少し前から内緒で準備してたの。」
様子がおかしかったのは、誕生日を祝うためだったのか。わざわざ準備してくれたのか。
「はい、これは、私からのプレゼントだよ。最近よく本読んでるでしょ?だから、ブックカバー作ったの。」
それは、赤、青、水色の花が刺繍されたブックカバーだった。
「丘の上の花畑のように、たくさんの花は刺繍できなかったけど、幸せの花束ってことで、レントと私とラピスと三人の瞳の色を合わせたの。」
家族以外から、手作りのプレゼントなんて、初めてもらったな。
「あとね、夕食は私が作ったの。でも、大丈夫だよ。サンドイッチだから、挟むだけだから、味は保証出来ます。それと、誕生日ケーキの代わりにアップルパイね。アップルパイだけは、ちゃんと作れるの。だから、安心して食べてね」
ラピスが朝から変だったのも、これのためだったのか。
「夕方まで帰すなって言われてたからな。アレしか思いつかなかった。まぁ、なんだ、俺からもお前に特別に俺の鱗をやろう。龍の鱗なんて貴重だからな。」
鱗なんて貴重なもの受け取れないと言ったけど、定期的に生え変わるらしく、たまたま抜けたものだからと言うので、受け取ることにした。
魔女は、そんな俺達のやり取りを嬉しそうに眺めていたが、俺と目が合うと近寄ってきて、そのままギュッと抱きしめてきた。
「レント、生まれてきてくれて、私と出会ってくれてありがとう。」
生まれてきてくれて、ありがとうなんて初めて言われたな。
誰からも望まれず、ただ利用されるだけの存在で、俺自身はいらないものだと思ってたのに…。
(あぁ…幸せで泣きそうだ)
15歳の誕生日は、人生で初めて生まれてきてよかったと思えるものだった。




