魔女と弟子 《一年目》
大怪我をして、ラピスに抱えられ帰ってきたレントは、頭から血を流し意識がなく、ぐったりとしている。
レントの部屋まで運んでもらい、傷口を確認する。頭の他にも、身体中に浅いものから深いものまで、たくさん切り傷がついていた。
私は、急いで傷口を水魔法で綺麗にしながら、治癒魔法をかけていく。少しずつ傷口が塞がっていき、出血も止まる。
傷口が塞がると、レントの顔色も良くなり、呼吸も安定してきた。
レントの治療が終わると、ラピスの方も怪我してないか確認するが、ラピスは大丈夫なようだ。ひとまず二人とも無事でよかったぁ。
「いったい何があったの。まさか、結界に何かあったの?」
結界の中なので、普通は敵も魔物もいないし、こんな大怪我する筈がないのに、自分の精神状態が影響して、結界に何かあったのでは、と不安になって聞いてみれば、ラピスは気まずそうにしながら、謝った。
「すまん。ここまで怪我させるつもりは無くて、ちょっとだけ、やり過ぎた」
つまり?
「俺が、やった…」
「えぇぇぇ。どういうこと?もしかして、ケンカしたの?」
ルドともケンカしてたなと、思い出して聞いてみれば、ラピスは「すまん」と、また謝った。
「水龍とケンカなんて、下手したら死んじゃう。なんで、ケンカしたの?」
「あいつお前に酷いこと言ったんだろう。最近、二人の様子がおかしいから、レントに聞いたんだ。お前のこと泣かすから、ちょっと反省させようと思って、やり過ぎた。」
私の為に、ケンカしたってこと?
別にレントは、本当の事を言っただけで、悪くないのに申し訳ない。
「ラピス、私の事を心配してくれたんだね。ありがとう。心配かけてごめんね。でも、レントは悪くないんだよ。本当の事を言っただけで、私が勝手に落ち込んでただけだし、酷いことなんて言われてないよ。」
ラピスは、私の頭をいつものように、ガシガシと少し乱暴に撫でた。
「今回は、すまん。俺が悪かった。レントにも謝る。だから、ルーナお前も1人で泣いたりするなよ」
「別に泣いてないよ。そんな子供じゃないんだから。500年生きてるんだよ。立派な大人なんだから大丈夫だよ」
「そうか。まぁ、俺から見たら、ちっちゃい子供にしか見えないけどな。」
泣いてるところは誰にも見られてないのに、ラピスには、泣いてたことバレてて、恥ずかしくて嘘をついた。
「レントは大丈夫みたいだし、ルーナお前も、もう大丈夫だな。俺は帰るぞ」
そう言うと、また、ガシガシと頭を撫でてラピスは帰っていった。
♢♢♢♢
レントの傷は治したけど、夜になっても目を覚まさなかった。
ラピスの攻撃に対抗するため、魔力をかなり消費したらしい。
「本当に、生きててよかったぁ。」
頭から血を流し意識のない彼を見て、心臓が止まるかと思った。結界の中で、死ぬことはないと分かっていても、冷静ではいられなかった。
(レントがいなくなるのは、嫌だな)
もう一度、息をしてるか確認する。生きてることに安心して、涙が出てきた。
そっと、レントの頭を優しく撫でる。
すると、レントの目がゆっくりと開いた。目を覚ました彼の、真っ赤な瞳が私を見つめる。
数週間ぶりに目が合った。それだけで、とても嬉しい。
「大丈夫?気分はどう?どこか痛いところはない?」
「……どうして、泣いてる?」
私の問いかけには答えず、手を伸ばして私の涙を親指で拭いながら、レントが心配そうにこちらを見ている。
「それは、レントが生きてるから嬉しくて…。怪我して帰ってくるから心配した!治療したけど、目が覚めないから不安だったんだよ。本当に生きててよかったぁ。」
余計に泣き出した私に驚いて、レントの手が離れていく。私はその手を両手で掴んで、そのままギュッと握りしめた。
「ラピスから事情は聞いたよ。やり過ぎたって謝ってた。レントは悪くないの分かるけど、本当に心配したんだからね!ラピスが何かしてきても、次は絶対に逃げてね。対抗しちゃだめよ」
レントは困惑しながらも、泣きながら訴える私の言葉を聞いていた。それから、ゆっくりと体を起こすと、真っ直ぐに私の目を見て言った。
「心配かけて…その、ごめん。治療までさせて…俺から構うなって言っておきながら、こんな迷惑かけて悪かった。ごめん」
ごめんと頭を下げるレントの姿に、何だか胸の奥がモヤッとした。こんな風に謝って欲しい訳じゃないのに、もっと自分の事を大事にして欲しいし、周りを頼って欲しい。レントが大切だってことを分かって欲しい。
「謝って欲しいわけじゃないよ。迷惑だなんて少しも思ってない。」
どうしたら、私の気持ち伝わるの。
「レントは、いずれ別れるなら構うなって言ったけど、やっぱり無理。レントのこと大切だから、いつも笑ってて欲しいし、仲良くなりたいよ。最後の時まで一緒に居たいから、やっぱり放っておけない。これからは、レントが嫌がっても、無視しても、絶対に離れないよ。これは、決定事項です。」
唖然と聞いていたレントが、突然声をあげて笑った。こんなに笑ってるの初めて見たかもしれない。
「あんなに酷い態度に、放っておけと言われて、今回も迷惑かけられたのに、それでも仲良くしたいのかよ。本当に、魔女はお人好しだな。俺の負けだよ。降参だ。あんたの好きにしたらいいよ。」
「あと2年と少し、別れの日まで私の全てで、レントを大切にしてあげるから、楽しい思い出たくさん作ろうね。」
この日から少しずつ、レントも私と話してくれるようになった。時々、素っ気ない態度のこともあるけど、でも、確実に私たちの関係は変わったと思う。
別れの日まで、あと約2年。最後まで笑っていられますように。




