【第3話】婚約破棄? ええ、舞台はこちらで用意しました
学園大広間。
正面には王家の紋章。
左右には貴族席。
逃げ場のない、完璧な“公開の場”。
――なるほど。
これは完全に、
「悪役令嬢を断罪するための舞台」だ。
地下アイドル時代なら、
炎上後の謝罪会見みたいなもの。
(……懐かしいわね)
私は背筋を伸ばし、中央へ進んだ。
視線が突き刺さる。
好奇。嫌悪。期待。
王太子アーヴィンは、すでに壇上に立っていた。
その隣には、エミリア。
彼女は不安そうに手を握りしめている。
――ああ。
殿下は、彼女を「守っているつもり」なのだろう。
「公爵令嬢ルクレツィア」
王太子が、朗々と声を張り上げた。
「君との婚約を、ここに破棄する」
ざわめき。
「理由は明白だ。
君は己の立場を笠に着て、
多くの者を傷つけてきた」
正論だ。
反論の余地はない。
だから私は――
一礼した。
「はい。仰る通りです」
会場が、静まる。
王太子が、わずかに目を細めた。
「……随分と素直だな」
「ええ。否定はしません」
私は顔を上げ、真っ直ぐに言った。
「ですが殿下。
その“断罪”、最後まで聞いていただけますか?」
一瞬の沈黙。
貴族たちが、息を潜める。
「……許可しよう」
(よし)
マイクは、握った。
⸻
「私は、確かに傲慢でした」
静かな声で、言葉を紡ぐ。
「人を見下し、
恐怖で支配し、
好意を力でねじ伏せた」
視線が痛い。
「それは、許されることではありません」
ここで一拍。
「――ですが」
私は、エミリアを見た。
「殿下は、彼女に選択肢を与えましたか?」
ざわっ、と空気が揺れる。
王太子が、眉をひそめた。
「どういう意味だ」
「殿下は、“守る”という言葉で
彼女の人生を決めてはいませんか?」
私は続ける。
「彼女の意思を、
一度でも確認しましたか?」
沈黙。
エミリアの手が、震えた。
私は、彼女に向かって静かに言った。
「エミリア。
ここで、あなた自身の言葉を聞かせて」
彼女は、俯いたまま――
やがて、一歩前に出た。
「……私は」
声が、かすれる。
「殿下に、感謝しています。
でも……」
顔を上げる。
「私は、誰かの“所有物”ではありません」
会場が、凍りついた。
「自分で選びたいんです。
誰を信じて、
どんな人生を歩くのか」
王太子の顔色が変わる。
「エミリア……?」
彼女は、首を振った。
「優しさだけでは、息ができません」
その言葉は、鋭かった。
⸻
私は、最後の一押しをする。
「殿下」
静かに、しかしはっきりと。
「婚約破棄は、結構です」
ざわめき。
「ですが――」
私は、一歩下がった。
「それは“私が捨てられた”結果ではありません」
胸を張る。
「私が、身を引きます」
貴族たちが、どよめいた。
「反省し、退く。
それが、今の私にできる最大の責任です」
視線を王太子に戻す。
「殿下は、
“悪役令嬢を断罪した王太子”として語られたいですか?」
間。
「それとも、
“誰の人生も奪わなかった王太子”として残りますか?」
完全な、沈黙。
王太子は――
何も言えなかった。
⸻
婚約は、破棄された。
だが。
断罪は、なかった。
誰も、拍手しない。
誰も、罵倒しない。
ただ、理解しただけだ。
「……彼女は、変わった」
その一言が、すべてだった。
数日後。
私は公爵家を離れ、地方へ向かった。
行き先は、芸術学院。
歌。
演技。
人の心を読む技術。
全部、前世の遺産。
夜、宿の窓から星を見上げる。
(刺されて死んで、
悪役として終わるはずだったのに)
小さく、笑った。
「……人生、分からないものね」
私はもう、
偶像でも、
悪役でもない。
自分の人生を、
自分で選ぶ。
――それで十分だ。
⸻
翌朝。
学院の掲示板に、新しい講師名が貼り出されていた。
ルクレツィア・ヴァルフォード
私は、深く息を吸う。
(次のステージも――)
きっと、悪くない。
⸻
【完】
読んでくれてありがとうございます!
ルクレツィア、婚約破棄イベントを知略と有能ムーブで完全勝利しました。
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