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転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜  作者: 春風悠里


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47/53

47.始業式前夜

 あれからずっと、パトロール隊の活動を終えるとリュークは必ず旧校舎の屋上へ寄っていた。


 屋上で空を見つめるリュークを下から見上げ、俺たちはいつも先に寮へと戻った。


 冬が過ぎても。

 春が訪れても。 


 始業式の前日、俺はそこへと寄った。いつも通り柵に肘を置いているリュークの視線が、扉の開く音を受けてこちらに向いた。


「明日は始業式だな」


 なんでもない言葉のはずなのに、声が震えていたかもしれない。リュークの視線が空へと戻る。


「……そうだな」


 何も言えない。

 言えることなんかない。

 それでも、何か話さなければと思った。


 こんな時、ゲームの中のニコラだったなら何を言うんだろう。親友として何を……。


「あいつがいなくなったら、世界が暗くなるんだと思ってた。何やってもつまんなくて、やる気が起きなくなると思ってたんだ」

「……ああ」

「でも、違った」


 リュークはずっと無理をしてくれていた。なんでもない顔をして、皆との雑談に応じてくれていた。


「相変わらず、生徒は馬鹿やったりするしさ。駆け込んでくる奴もいるし。ルリアンはお人好しで文句も言わずに対応してやって、ベル子はますます毒舌になっていくし、オリヴィアもトラも楽しそうだし、お前もラビッツも俺に遠慮してんのは分かるけどなんか通じ合ってるしな」


 うぅぅ。そうかもしれないが、さすがにこの状況ではラビッツといい雰囲気にはなれない。秋から進展なしなんだよな……。


「俺たちがリュークに遠慮しなくなる日は、すぐそこのはずだ」


 はずだと……信じたい。


「楽しいと思う瞬間なんてないと思ったのにさ、俺笑ってるなと思う時があってさ」

「……ああ」

「世界は暗くならない。ただ、一緒に明るい光を見たい大切な女の子が消えちゃったんだなって」

「…………」

「世界が明るいほど、辛くなっていくんだ」


 何を言えばいいんだろう。

 俺は何を言えば……。


「明日が怖い。怖いんだよ……」


 弱々しい声に、視界が滲む。

 かける言葉が見つからなくて一緒に空を見上げる。目の中の水滴が乾くのを待ちながら。


 トラの時みたいに、セイナが降りてきてくれればいいのにな……。


「リューク!」


 突然、ラビッツの声が屋上に響いた。


 お、大泣きしているぞ!?

 すごい顔だ。

 話を聞いていたな!?

 

「私だって、リュークが無理していること分かってた……っ」

「あ、ああ」

「明日も無理しなさいよ!」


 涙でぐしゃぐしゃになった顔なのに、視線だけは強くてまっすぐだ。


「あの子は絶対に来るんだから。だから、ちゃんと笑ってなさい!」

「…………!」

「悲しい顔をしている人のところになんて、誰も戻ってきたくないでしょ? 楽しい場所に――笑ってるみんなの中に、きっとあの子も加わりたいんだから!」


 リュークがくしゃっと笑った。


「ははっ。ラビッツはラビッツだな」


 空気が変わった。

 リュークに、穏やかな笑みが戻った。


「俺さ、あいつがいなくなったらニコラとラビッツを見るのも辛くなるのかなって思ってたんだ」

「うっ……」


 俺も、そうかなと思ってた。


「でも、それも違ってたな。心強いよ。二人がいてくれてよかった」

「リューク……」


 ラビッツも俺たちの近くまでタタッと走ってきた。


「リューク、大丈夫だから」

「おう」

「大丈夫だぞ、リューク」

「おうよ」


 リュークが俺とラビッツを引き寄せた。まるでラグビーの円陣のように。


「よっしゃ、気合い入れるぜ!」


 不安はなくならない。でも、不安をかき消すような声を出すことはできる。


「絶対来いよー!」


 きっと届く。


「絶対だからねー!」

「待ってるんだからなー!」


 屋上から俺たちは空に向かって、声を張り上げ続けた。


 この世界のゲーム名は、


『星が空へと昇る世界で 〜Last Memory〜』


 幼い日の約束。

 俺たちの願いは、仲間たちの願いと重なり合い、光となって天へと昇っていった。


 俺とラビッツ。

 トラと顧問。

 命の最後の記憶を抱えたまま、俺たちはこの世界に辿り着いた。


 ――セイナだって、きっと。


 もう一度、この場所へ辿り着けるはずだ。


 

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