40.アナザーストーリー2
「パトロール隊の活動、すごく楽しそうだね」
「ああ。顧問の言ってた通りになったな」
ニコラとは学科が違うことだし、俺はパトロール隊室に入る前に、いつもこの旧校舎の屋上へ寄ってセイナに会っている。入口近くを上から眺めながら雑談し、パトロール隊のメンバーが集まった頃に俺も部屋へと入る。
案外皆、上は見ない。
「先生も、トラちゃんのことは意外だったみたい」
「そうなのか?」
「ネコキャラがいるとは聞いてないな……とかなんとか言ってた。なんだか寂しい。先生だけは、私と同じものを見てるんだってずっと信じてたのに」
「前世を覚えていると」
「うん」
「俺も寂しいよ。俺の知ってるニコラとラビッツとはさ、やっぱり少し違うんだよ」
「あははっ、寂しい同盟だね」
伊達に幼馴染をやってたわけじゃない。というか、ニコラは隠さなさすぎる。『飯の美味い世界でよかった』とか、隠す気があったら言わねーだろ。
「ま、バカなままだけどな」
「いいな、羨ましい。私には仲のいい友達なんていなかったから」
「そうなのか?」
「うん。学園でも、仲がよくなる前に……ね」
こんなに毎日のように会っているのに、まだセイナについて何も知らないんだなと思う。
「変な丁寧語を使うからか? 今はなくなってきたけどな」
「し、失礼だよぉ。だって、私すぐに距離感間違えちゃうから。それで引かれちゃって、ひとりぼっちになっちゃうの。だから、気をつけようとしてるんだよ」
「そんな理由か」
「うぎゅぅ……」
金持ちの愛人の子。
母親も奔放。
父親の金でお手伝いさんが世話をしてくれたものの、愛に飢えている。だからこそ、距離感を間違えるんだろう。
家庭教師もつき頭はよく魔法の才能もあったので、学園に入って学園警備隊の話を持ちかけられ、ニコラの父親と共に活動し……死亡、か。
「ま、話したいように話せばいいさ。皆、いい奴らだしな。距離感だっていくらでも間違えたらいい。フォローしてやる」
そういえば、ルリアンも丁寧語で話す。あっちは祖父母にそう教育されたらしい。家族相手でも誰に対してもそうするようにと。もう癖だと言っていた。
「うん。その時が来たらそうするね」
「皆に姿は見えなくてもさ、参加したらどうだ」
「……そんなの、リュークくんが誰もいない空間に向かって話す、変な人になっちゃうよ」
「事情を皆に俺から伝えればいい」
「それだけは駄目。皆、私に同情しちゃう。前の時と同じになっちゃう。バルトくんの時に天に還れなかったのは……きっと、そういうことなんだよ」
それでもさ。
パトロール隊の話をする時、いつも羨ましいって顔をするからな。
「そっか。じゃ、ひっそりとついてきな。近々、面白い企みがあるらしいしさ。その時になったら一緒に来いよ」
「だから、私のことが見えるのはリュークくんだけなんだってば」
「話しかけたりしねーよ。でも、近くで見た方が楽しいだろ」
セイナが迷っている顔で「うぎゅー」と言いながら俺を見たり、ぎゅっと目をつむってみたりと表情をコロコロと変える。
「私、旧校舎以外の場所だとふわふわしちゃうんだよ。先生はほんとに生きてるみたいだけど、私は違うの。透けてふわふわするの」
「分かった。ふわふわするんだな。心の準備をしておく」
「う、うぎゅぅ。行くかどうかは分からないからね!」
「ああ。どうせふわふわしているなら、俺の肩にでも乗っとけ。肩車してやる」
「うぎゅ〜……っ」
どこか不安気で、でも期待しているように見えた。
◆
それから、セイナはたまに俺たちの活動に参加するようになった。
台車レースの時も一緒に遊んだ。
「俺の速さについて来れるかな!」
「リュークくん、はっや〜いっ」
セイナは俺の台車に乗ってはしゃいでいた。重さはまるで感じなくて、確かにふわふわしていた。
好きなお団子発表の時も俺の隣でふわふわしていた。
「俺はピリ辛団子だ。甘い団子が多い中で辛さが光ったな」
「私はトラちゃんと一緒! 炭酸レモン団子が食べてみたいと思いましたっ」
交流立食会では、ドレスがなくて恥ずかしいからと入ってこなかった。
――だから翌日、俺たちは旧校舎の屋上で待ち合わせをしたんだ。




