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転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜  作者: 春風悠里


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37.秋

 夏休みはラビッツとたくさんデートに行った。どうしても護衛は必要だったけど、満喫したと思う。


 魔法で動く仕掛け満載のアスレチック・ワールドや、幻影迷路まである遊園地。植物園ではしゃべる珍しい花なんかも見た。魔法世界を二人で存分に楽しんだ。


 デートの終わりには小さくキスをさせてくれる。


『ラビッツ』

『……ん』


 いつもの終わり。

 あの深いキスを知っていると少し寂しさもあるけど、目をつむって待ってくれるのが可愛すぎて尊さまで感じる。


 ――学園に戻る前、王宮の静かな書斎で父に呼び止められた。


 父は椅子に腰掛け、静かに俺を見た。金糸のように輝く髪、碧眼は鋭く深い。俺も同じ金髪で碧眼なのに、父の纏う空気には遠く及ばない。


「ずいぶんと入れ込んでいるようだな」


 低く、重みのある声だ。どこか探るようでもあり、少しだけ心配も滲んでいた。前世とは違って父親との距離は遠いものの、家族の絆は感じている。


「そうですね。ラビッツに恋してます愛してます離れてる時間が辛くて仕方ないです今すぐ彼女の元へ飛んでいきたい」


 一瞬、父の眉がぴくりと動いた。まだまだ子供のような話し方をするとでも思われたんだろう。


「そ、そうか……」


 引かれたのは気にしない。


 何が起こるか分からないからな。前世だっていきなり人生が終了したわけだし、正しく現状は伝えたい。


「ゴホン。もうすぐ秋だ」

「はい」

「そして冬がくる」

「はい」


 父は立ち上がり、窓辺へと寄った。王の風格が漂っている。その佇まいを見ると、いつか国王陛下になることへのプレッシャーを強く感じる。


「お前にはこれから……例年の行事の遂行をする義務が生じる。夢結びの儀だ。学園にいる間は、学園で行う」

「父上がそうしたようにですよね」

「そうだ」


 このゲームが「泣きゲー」と言われるゆえん、それが始まってしまう。


「それで……だな。秋になると、もしかしてなんだが……」

「知っていますよ」

「……なんだと」

「秋になれば、あの少女が現れる。父上の時と同じように」

「……!!!」


 父の顔に驚きが広がる。


 ゲームのニコラは、それとなく父親から聞かされていただけだった。だから、その時が来るまで心を痛めながらも傍観者に徹していた。


 十二月は夢結びの月。

 人の願いが光となる。


 伝統的に王家の者が「光の塔」にて人々の願いを空へと昇らせる。夢結びの儀だ。願いの数だけ空に光が灯り、夜空をその色に染め上げる。


 ただ、それだけだ。

 願いが叶うわけではない。


 叶ってしまったら、世界中から人が殺到するだろうしな……。


 空へと光を導く力は王家直系の者にのみ宿る。


「セイナ・ラミエル。父上の同級生。彼女を今も見守っているのが顧問だ。父の剣の講師として王家に勤めていたこともある、グラン・アスフォード」

「ああ……そうだ」

「当時の学園警備隊の隊長、セイナ。花火の魔道具が暴発し、顧問とともに命を落とした。発電装置を利用して盛大な花火を打ち上げようと思った生徒が放置した改造魔道具による悲劇。おかしな気配を感じて様子を見に行った直後の悲しい事故だ」

「ああ、そこまでは有名だな。入学してまだ日も浅かった」


 彼女たちの死を悼んで、夢結びの儀はあそこで行われた。父が卒業するまで。


「亡くなったはずの彼女が、秋頃から突然現れ――それまでの記憶がまるで彼女と共に過ごしたように塗り替えられる。そして夢結びの儀が執り行われると、彼女の存在は忘れられる。秋から冬にかけての記憶だけがわずかに残る。そうだったはずです」

「そうだな。私だけがハッキリと覚えている」


 王族はこの世界で、特別だからな……。


 その事故が有名だからこそ、旧校舎から追い返された生徒はたとえ姿を見たことがなくても、その少女と結びつける。


「彼女が亡くなった翌年からは、父上の前にしか姿を現していない。彼女と約束したはずです。卒業までに彼女を空へと還すことができなければ、いつか自分の子供をこの場所に送り込むと。その時になら、果たせなかった心残りを解き放てるかもしれないと」

「なぜ、それを。まさかもう……」


 ゲームで知っているだけだ。


「僕が、女神の加護を強く受けているからです。知っているんですよ。まだ彼女には会っていませんが顧問にはお会いしました。あの、存在を濃くするネックレスを顧問に渡したのも父上ですね」

「お前はどこまで……」

「今度こそ、終わらせる」

「ニコラ」

「楽しい記憶を持って空へと還れるように、全力を尽くします」


 父は静かに頷いた。


 空気が変わったような気がした。確かな信頼を感じる。


「……頼んだぞ」

「はい」


 彼女の最後の記憶を、悲しみではなく幸せで満たしたい。俺だけでは無理だ。皆の力が必要だ。


 夏は終わった。

 これから冬へと向かう。


 ――どうか願いの光が、彼女の魂を導くように。



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