35.ラッキースケベ1
夏休みがやってきた。
王宮に戻るのは二週間が経ってからにすると伝えてある。課題に即した参考資料も学園の図書館にはある。皆と協力しながら課題やレポートを終わらせるつもりだ。他のメンバーもベル子とリューク以外は家へと一度戻るようで、皆して一緒に二週間で終わらせたいと気合いを入れている。
今まで何度もラビッツにお願いをしてきた。
『どうしても、ポチの部屋が気になります! 俺が行っちゃいけない理由を教えてください、ラビッツさまぁ!』
『言わないったら言わないし、行かないったら行かないの』
他のメンバーに聞いてはいけないような空気を感じたので、リュークにしか話は振っていない。リュークは、
『ラビッツがいいんならいんじゃないか? 俺が浄化できないのはまぁ……元持ち主への同情かな。残ってしまったあの願いを誰かが叶えてやってもいいんじゃねーのと思ってさ。やる気が出ないと、浄化できないからなぁ』
と言っていた。
もう気になって仕方がない。
最近はラビッツもやり取りに疲れたのか、少しずつ情報が漏れていた。
『呪いが発動すると……たぶん、私だけ酷いことになるのよ。たぶんニコラもキツイと思う』
『ラビッツと俺が!? よく分からないが、そんなのをずっと学園に置いておくのも、さすがに問題だろう。俺たちが卒業したら、他のパトロール隊に見つかるだろうし』
『それは、そうかもしれないけど』
『もう、管理だけ俺のとこでなんとかしようか? 王宮のどこかの部屋に置いておこう。侍従に取りに行ってもらうよ』
『ま、待って。そこまで大事にしなくても』
『でも、リュークにすら無理なんだろう?』
『そうだけど、もう少し待って』
と、少しずつ心が動いている様子だった。
思念の内容が気になるのもあるけど、正直リュークにすら浄化が無理なものが学園にあるというのは、かなり気持ち悪い。あまりいいことには思えない。
『どうしても、どうしても知りたいのなら……一応、大雑把な呪いの内容だけはリストで見ることはできるけど。部屋に置いてあるし』
『ラビッツから聞くことは?』
『口にしたくない。でも……行かないで。どうしても行くなら他の物には触らないでね』
ということで、俺は皆がまだ来ないだろう朝早くに、ポチの部屋にやってきた。心配させないよう、誰にも伝えていない。ひっそり確認するだけだ。リストを読んだら、すぐに戻ろう。俺が来たことは言わないまま、処分方法を考えようと思う。
そして――、「ポチの部屋」とプレートがぶら下がっている扉を開けるとそこは。
「なんだこれっ!」
中央には円形のテーブルがあり、その上にはガラスのケーキスタンドにおもちゃのスイーツが飾られている。テーブルを囲む椅子は色とりどりのパステルカラーで、フリル付きのピンクのクッションが置かれている。
窓辺にもふわふわクッションが積まれたソファがあり、レースのカーテンもメルヘンだ。
壁にはハートや蝶のステッカーが貼られ、天井からは星型のクリスタルが吊るされている。光が当たると虹色の光がキラキラと反射する。
「女の子の部屋だ……」
もしかしたら、ここにあるメルヘンな家具は、顧問に許可でももらってオリヴィアが取り寄せたのかもしれない。安っぽくないんだよな。トラと悪ノリしたのかな。
呆然としながら俺は、そこに置いてあったベッドに座ってしまった。
そう――、座り込んでしまったんだ。
「来ないでって言ったでしょ、ニコラ!」
「え」
なぜか簡易な試着室みたいなところから、カーテンを開けてラビッツが登場した。
「ど、どうしてこんな早朝に!?」
「しかも、他の物に触らないでって言ったじゃない!」
「さ、触ってないけど……」
「ベッドに触れてるでしょ!」
もしかして、これ思念品だったのか!?
「わ、悪い。他の物には触らない……が、ラビッツ、なんでそんな姿――」
「わっ。きゃぁぁぁぁ!」
「ラビッツ!?」
突然どこかから滑り落ちてきた石鹸で転んだぁ!?
「と、止めて!」
またもや突然どこかからマッサージボトルが落ちて、中のオイルがぶちまけられてラビッツが滑ってきたぁ!?
白いビキニ姿のラビッツを止めようとするものの――、ぬるぬるだ。どうにか俺の両手両足で挟むようにラビッツを止めて、制服のシャツを脱ぐ。
「なんで脱ぎ出してるのよ!?」
「制服がぬるぬるになるし」
「あー、もう! 思考までやられてるわね!」
「と、とりあえず床は危険だ。どうにかベッドに上ろうって、ぬるぬるで滑るな!?」
「ベッドはもっと危険よ!」
つるりと滑ってラビッツに覆いかぶさってしまう。俺の手はいつの間にか、その柔らかい肌に――。
「これ、やばいぞ! 何かがおかしい!」
どうにか態勢を整えて上半身の下着のシャツも脱ぐ。
「だから脱がないでってば!」
「ぬるぬるで気持ち悪いんだよ。うわっ、また滑った!」
またラビッツに覆いかぶさってしまう。
「あーもう! 呪いが発動してるのよ!」
「どんな呪いだよ!」
真っ赤な顔で、ラビッツが俺を見上げた。上気した頬はやけに色っぽい。ゲームで見た白の水着を身に着けただけの彼女は、どうしようもなく艶めかしくてたまらなくなる。
「……っ。仲を深めたい男女が……ラッキース、ス、スケ……べが、その……」
「悪い、ラビッツ。もう少し大きな声で言ってくれ」
「も、もう! 仲を深めたいとお互いに思ってる男女にえ、えっちなことが起きるのよ!」
「なんだそれ!?」
「分かんないわよ。仲のいい女の子とチャンスが欲しいと思いながら進展しなかった男の無念でも、こもってんじゃないの!?」
「ひっどいな!? そんなんで呪いの思念品になってたら男の数だけ思念品が出来上がるぞ!」
「分かんないってば。想像力の豊かすぎる男だったんでしょ!」
前世の俺かよ!?
まずいぞ。もう呪いが発動してるって!? こんな無防備なラビッツに俺はもう……。
――コンコン、ガチャ。
「おはようございまーす」
「ルリルリ、誰かいる気配がする」
「ええっ、いないと思ってすぐに開けてしまいました」
「あ」
ルリアン&ベル子と目が合った。
「二人ともっ。あのね、これは――」
「はわわぁ、お取り込み中とは思いませんでした! すみません。が、頑張ってください〜!」
「ラビちゃん。いつかニコラさんを連れ込むと思ってた。頑張って」
「ち、ちがぁっ!」
――バタン。
扉は閉じられた。
「なんでこんなに早朝に来るんだ!?」
「早朝に、来れそうな女子でこの子たちの願いを叶えてあげていたのよ!」
だから、パトロール隊の部屋にはいつも皆がいたのか! 俺の知らないところで、ここに来ていたんだな!
カタカタカタカタカタカタ。
「なんかこっちに向かって来る!?」
「そっちも思念品よ! ゼンマイを巻いて動くネズミ人形よ!」
「なんで勝手に動いてんだ!?」
「周りにしゃべっている人がいると、楽しくなって動くのよ!」
ホラーだな、もう!
「ラビッツ、コイツの解呪法は! ラッキースケベを繰り返すしかないのか!?」
「……真実の愛によって解呪されるらしいわよ」
「なんだそれ!?」
「詳しくは分かんないわよ。それがこのアイテムに残された思念よ!」
カタカタとネズミが向かって来る。
この状況を打破する方法は一つしか思い浮かばない。
「ラビッツ……転移はできるか」
俺の言葉に、ラビッツは――。




