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転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜  作者: 春風悠里


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34/53

34.プール2

 青く澄み切った空の下、俺たちは全力で遊んだ。


「水を使った、かっこいい必殺技考えよーぜ!」

「ニコラ、はしゃぎすぎ」

「灼熱スプラッシュ!」

「ま、待って! 今、炎出したでしょ!」

「この辺だけ温泉になったぞ!?」

「やっぱりニコラ王子はおバカ王子にゃんね」


 と、自分たちの考えたかっこいい必殺技を披露もした。一緒にいることが当たり前になった仲間しかいないから、確かにはしゃぎすぎたかもしれない。


 ベル子の「水割り」はまるでモーゼの海割りのようで(モーゼはラビッツにしか通じないけど)、どうしてそのネーミングなんだと笑った。オリヴィアの「レインボーシャワー」は綺麗だったし、リュークは「水面ダッシュ」とか言いながら忍者のように走っていた。ルリアンは「水球です〜」とふわふわさせて、ラビッツは「アクア・トルネード」と小さな水の竜巻を作ってから、「子供っぽいかなぁ」と恥ずかしがっていた。


 我が嫁は、最高に可愛い。

 早く本当の嫁にしたい。


 一通り遊び、管理人室にいる職員に報告すると「ご苦労様、学園からの差し入れだよ」と「学園長の気まぐれバーガー」をドサッとくれたので、そのままプールサイドへと戻って皆でモグモグと食べた。ルリアンがなぜかレジャーシートまで持ってきていたので、ピクニック気分だ。


 少しずつ日が落ちていく。


「空が赤くなってきましたね」


 誰もが自然と空を見上げた。


 まるで絵画のようだ。雲の端が燃えるように輝き、プールの水面にもその色が映り込んでいる。風が少しだけ涼しくなり、さっきまでの自分たちの笑い声まで遠く感じる。


「ずっと、こうやって皆と遊んでいたいです」


 ルリアンの言葉に、誰もがうなずく。


「うん。すごく楽しかった」


 ベル子もよく笑うようになった。無表情キャラだったんだけどな。そんなゲームとの違いが嬉しい。


「今から卒業するのが寂しくなるわね」

「卒業してからも、毎年集まるのもいいかもしれないな。王宮にプールつくっとくぜ!」

「……夏しか集まれないにゃんね」

「俺の炎で温泉にしておこう」

「加減が難しそうにゃん。普通にお湯を入れる方がいいにゃん。そもそもプールにする必要性を感じないにゃん」

「……トラはほんとに律儀に突っ込むよな」

「ニコラ王子がおかしいだけにゃん」

「まぁでも……」


 リュークがポツリと呟いた。


「皆で集まれたらいいよな」


 卒業はまだ二年以上先なのに、その表情にはほんの少し影が差して見えた。気のせいだろうか。


 ルリアンがバーガーの包み紙をまとめ始め、他のメンバーも手伝う。もう終わりの時間だ。もうすぐ夜になる。


 俺は、皆に気づかれないようにそっとラビッツに耳打ちした。


「ラビッツ、このあと少しだけ時間あるかな」

「? いいわよ」


 夕焼けに照らされた頬はほんのり赤く染まっていて、どこか色っぽい。髪に残る水滴が光を受けてきらめいている。


「来年も誰かクラゲを量産してくれないかなー」

「私もそう思っちゃうわね」


 皆と笑い合いながら、俺たちは帰路へとついた。


 ◆


 寮の手前でラビッツと二人で道を外れる。辺りはすっかり暗くなってしまった。


「それで、どうしたの?」

「ものすごく待たせてごめん」


 ポケットから小袋を取り出す。中には手作りのビーズの指輪。


「納得いくのが、なかなか出来なくてさ」

「そうかなって思ってたわ。はめて?」

「あ、ああ」


 躊躇いもなく左手を出してくれるラビッツに胸が高鳴る。


「……すごい。フラワーリングね」


 赤とピンクのコスモスを模した小さな花の輪が、ラビッツの薬指を彩る。


「これ以外に、練習でいくつ作ったの?」

「え」

「知りたいんだけど」

「んっと、じゅっ……いや、はち、いや、ろ、ろくくらいかな……」


 つい引かれるかなと少なく告げてしまう。


「やっぱりね。ニコラらしい。でも、思った以上だわ。それも全部ちょうだい」

「いやいや、もうこれがベストだから。他はなかったことにしよう」

「……思念品になっちゃうかもしれないわよ?」


 否定はできない。ラビッツにつけてほしいと心を込めながら作っていた。


「大丈夫だ。そうなっても、いつかは消える」


 誰の記憶にも残らなくなれば。


「可哀想じゃない。使い倒してあげるわよ」

「ええー……」

「それから、私からも」


 ラビッツが鞄の中からフェルト人形を取り出した。


「三つもある!?」


 俺っぽい人形とラビッツっぽい人形と、ウサギ人形だ。


「ニコラが全然指輪をくれないから、待ちくたびれて三つも作っちゃったのよ」

「すみませんでした……」

「いいわよ。う、嬉しかったし。それに、私も指輪と交換で渡したかったから。途中からは出来上がるまで待っててって気分になったわ」

「そ、そっか」


 俺の指輪と同様に、作るたびに上達しているのが分かる。たぶん、ウサギを最初に作ったんだろうな。


「ほんとはさ、出来上がったら初デートの約束をして、その日に渡そうと思ったんだ」

「初デートは、この前の夜の空中ドライブでしょ。違うの?」

「あ、そうだな。確かにそうだ。えーっと、二回目のデートで渡そうと思ったけど、あまりにも待たせたから早い方がいいかと思ってさ」

「そうね。忘れられたのかなって少し心配になったわ」

「ごめん」

「……三つも作ったんだから、指輪もたくさんちょうだいね」

「分かったよ」


 ラビッツが薬指に光る花を眺め、ふっと微笑んだ。その笑顔だけで、今日までの全部が報われた気がした。


 ――恋ってすごいんだな。


 相手の喜ぶ顔だけで幸せになれる。


「じゃ、帰るか」

「……ええ」


 並んで歩き出すと、互いの指が当たった。それだけ近い距離を並んで歩くようになった。そっと握っても離されない。


 そして、ふと思い出す。

 ラビッツにムードづくりをしろと言われていたことを。


 互いのプレゼントを贈り合ってすらいいムードになれなかったのなら、結婚するまでこれ以上進展しないんじゃないのか!?


 いい雰囲気にしないと、と思った瞬間から突然焦りだす。


「ララララララ、ラビッツ」

「突然歌い出して、どうしたのよ」


 このままだと、寮へと辿り着いてしまう。しかし、いい台詞は何も思い浮かばない。


 ムードってどうやって作るんだ!? ラビッツは既に呆れ顔だぞ!


「ニコラ?」

「えっと、あー、うー、た、たくさん指輪を作った俺に免じて、目をつむってください!」


 訳の分からない言い回しをしてしまった! ああっ、しかめっ面で睨まれてしまっている! だんだんと無表情になり――、


「はい。閉じたけど?」


 なんだと!?

 閉じた!?

 ど、どうしたらいいんだ。

 キスしてもいいのか!?


 ドキドキしながら顔を寄せる。唇まであと数センチ。胸の奥で心臓が跳ねる。耳まで熱くなる。そのぷっくらした唇が、鮮明に目に入る。手のひらは汗ばんで、息が乱れて。


 頭の中で「本当にいいのか?」と自問自答し続ける。あと少し。ほんのわずか。


「おそいっ」


 間近でラビッツが目を開くと、ふわっと俺の唇に彼女の唇がかすめた。


「もうもうっ。したいなら、さっきのいいムードだった時にしなさいよ!」


 えええ!?

 それはいつだ!?


「だ、大サービスなんだからねっ! 指輪くれたからなんだからっ。次はちゃんといい雰囲気にしてよね!」

「ま、待ってくれ。なんで涙目なんだ」

「恥ずかしいからに決まってるでしょ! このバカぁ! もう行くから!」

「あ、その前に!」

「なによっ」

「えっと、デートの場所はどこがいい?」

「ニコラが決めた場所がいいの! もう今度こそ行くんだから!」


 パタパタとラビッツが寮の方へと走り去っていく。本格的に俺は、ムードづくりについて考えた方がいいのかもしれない。


 恋人がいる男って大変だな!?


 そう思いながらもニヤけてしまうのは、仕方ないだろう。俺は今日、寝るまでニヤけている自信がある。


 

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