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転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜  作者: 春風悠里


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33/53

33.プール1

 ボトルフェスが終わってから、学園には相変わらずの穏やかな日々が戻った。


 あの翌日はボトルを探しきれなかった生徒向けに、ラビッツのメモしたマップを元に場所が掲示され、無事に全員がボトルを入手した。フェスが終わったあとは、相手を見つけられなかったり見つけてもらえなかった生徒が生徒会へと報告し互いの名前を教えてもらう。それはそれであとから受け渡しが行われ、交流が生まれる。

 

 あの夜のきらめきは、ずっと胸に残っている。ラビッツに頬にキスしてもらって、これから新たな関係が生まれる――、と思ったものの。


『あれは、と、特別だったから。忘れて……ん、忘れてもらっても困るけど、気にしちゃ駄目なんだからね!』


 と翌日に言われ、俺はどう動いていいのやら少し戸惑ったままだ。


 ま、ツンデレだからな!


 普段の態度からも、かなりの恥ずかしがり屋さんであることは理解している。少しずつ進展していることは確かだし、好意も感じている。焦らないようにしよう。


 パトロール隊への小さな頼まれ事なんかもある中、一ヶ月が過ぎて六月の雨の時期も終わり、学園は一気に夏の色に変わった。プールの水面も、陽を跳ね返してきらめいている。


「いやっほーい! プールだ!」

「気持ち悪いプールにゃんね」

「これを処理したら、プールだぜ!」

「応援はするにゃん」


 ……トラも俺に律儀に突っ込むよな。


 この学園に水泳の授業はない。が、水魔法の練習のためのプールはある。水泳のためではないせいか、正方形だ。申請を出せば個人でも使用できる。人数制限はありつつ、他のグループと一緒になることが多い。水は自ら魔法で生み出さなくてはならず、一ヶ月に一度の全体清掃に駆り出される。ただの遊びでは使わないでねということだろう。


 夏の季節になると申請者は多くなり……今、目の前にあるプールの中には、くらげもどきがたくさん蠢いている。


 本日、土曜のおやつの時間に生徒の何人かがパトロール隊の部屋へと駆け込んできた。


『パトロール隊の皆さん、すみません! 幻影魔法で遊んでいたら消えなくなっちゃって。プールを管理している職員さんにも許可はとったので、よろしくお願いします。お任せする形で、僕たちはもう全員プールからあがりました』


 リュークが浄化魔法を使えることは、いつの間にかもう有名だ。剣術科で色々あったのだろう。ゲームでもそうだった。


 そして、思わずラビッツと顔を合わせた。


 そう……このイベントは、ゲームだとルートに入っている女の子と二人きりの時に起きた。共通イベントではない。個別ルートだ。


 が、休みだというのに俺たちはパトロール隊の隊員部屋に全員集合していた。もう皆、課題まであそこでやっているし、誰もが入り浸っている。リュークが部屋で誰かと二人きりなんてことは、そうそう起こらない。


 もしかしたら、リュークの恋愛イベントを阻止していたのは俺たちだったのかもしれない……と危惧しながら、緊急性はなかったのでのんびりと更衣室で水着に着替えてやってきた。


「よぉし! ちゃっちゃと片付けようぜ! リューク、頼んだ」


 ポンッとリュークの肩を叩く。


「水の中だからな……自前の剣じゃないし、少し時間はかかるぞ」

「私も微力ながら、お手伝いします〜」


 ルリアンも浄化魔法を使えるからな。


 リュークが幻影クラゲの群れの中にドブンと入り、学園から借りた剣に力を宿す。さすがに自分の剣を錆びるリスクに晒したくはないらしい。


 光を帯びる剣と、ふわふわと漂う幻影クラゲたち――その姿は、うようよしている全体を見なければ幻想的だ。


「……いくぞ」


 水面がわずかに震え、クラゲたちが剣の浄化の光に触れると淡い光の粒となって弾け、静かに消えていく。


「きりがないな。もう少し力を込めるか」


 光が強くなり、まさにお掃除といった具合に隅からクラゲが消えていく。


「クラゲさ〜ん、こっちにもおいで」


 ルリアンが呼びかけると、ふよふよした透明クラゲがプールサイドに座るルリアンの膝の上に乗り上げた。幻影のはずなのに、本当に実体化しているように見える。


「よしよし。まだ遊びたいんだね、楽しいもんね」


 ぴちょぴちょと頭のあたりをなでる仕草をすると、嬉しそうに飛び跳ねて――、ルリアンの温かく灯る淡い光に溶けるように消えた。そして、またもう一匹がルリアンの膝に乗る。


 浄化能力を持つメンバーはルリアンとリュークだけ。どうして王家の血を引いてる俺ができないのかはさておき、浄化したいという強い意思がなければ発動しない。あの思念品たちをリュークだけが一発で消せるのは、それが理由でもある。


 ルリアンは……やさしすぎる。


「だんだんクラゲたちに愛嬌を感じてきたにゃん。オリヴィアにゃん、一緒に入るにゃん」

「……猫なのにプールに入れるのかしら」

「にゃーに不可能はないにゃん。普通の猫じゃないにゃん」

「それは見れば分かるけど……」


 恐る恐るオリヴィアが入った。

 マジか!


 ん?

 トラの猫泳ぎ、可愛いな!?


「疲れたにゃん。抱っこしてにゃん」

「はいはい。あら、水の中だと抱っこが楽ね。最近、トラのせいで二の腕の筋肉がついてきたのよね……」

「にゃーのお陰で強くなって、いいことづくしにゃん」


 オリヴィアがトラのせいでムキムキに!? ベル子が触りたいと言って、オリヴィアの腕をペタペタしている。仲よくなったものだ。皆、隊員部屋に入り浸っているからな。


「クラゲさん……真っ二つにしちゃ駄目かな」


 ベル子がさらりと怖いこと言ってる!?


「どうやって切るんですか?」

「バリアで縦にドンッと」

「はわわっ。か、可哀想です〜!」

「でも、消えるかもしれない」

「確かにそうですけど〜」


 幻影魔法は既に存在するものを形作ることはできない。つまり、人間のコピーなんかは作れないものの、あやふやな何かをふわっと見えるようにすることはできる。


 普通は少し時間が経てば消えるものの……生徒たちの楽しい気持ちが、あの数々の思念品のようにこの世に留まらせてしまったのだろう。


 つまり、楽しい気持ちを興ざめさせることをしても、消える可能性は高い。この世界は前世でいうところのホラー現象は多いものの、そうやって工夫次第で簡単に消える。


「……ニコラ」


 ラビッツが俺の腕をそっと触った。最近ボディタッチが増えてきている。その度に俺はドキドキだ。


「おう。ラビッツ、水着可愛いな」

「が、学校の指定のだし」


 ラビッツも他のメンバーも、水魔法練習用の紺の水着を着ている。泳ぐことが目的じゃないせいか、フリル付きでミニスカのような水着だ。


「ところでラビッツ、すごく聞きたいことがあるんだが」

「うん、たぶん聞きたいことは分かるわ」

「あの水着は一体どこに……」

「やっぱりそう思うわよね」


 ゲームでのリュークの個別イベントでは、どのルートでも学校指定ではない水着だった。正直、少し期待していた。


 いや、学校指定のもいいけどね!?

 

 期待が大きかっただけに……っ、くっ。いや、少しだけだ。少しだけしか期待はしていなかった。二人きりじゃないしな。うん、それはそうだよな。


「さすがにパトロール隊全員いるしね」


 やっぱり、そうだよな……。


「でもね、あのゲームの水着は女の子メンバーでお買い物に行った時に買ったのよ」

「なに! それはどこに!?」

「……ポチの部屋かしらね」

「なんでだ!?」

「…………」


 なんでそこで黙るんだ!?


「思念品があれからまた増えたのよ」

「増えたのか!?」

「受け取ってもらえたってことで、追加がね。噂も広まって、ルリアンに続々と相談が集まっているわ」

「なんてこった」


 そして、なんで俺は知らないんだ!?


「で、色々あって水着はポチの部屋に置いてあるわ」

「どうしてそこに繋がるんだ!?」

「色々あるのよ。そっちは害がないから皆で遊んでるだけだけど……ただ、ニコラはあの部屋に行かないでね」

「なんで俺だけ除け者なんだ!? 何もかも意味が分からないぞ」

「あんたがあの部屋に入ると、発動してまうかもしれない呪いがあるのよ」

「……リュークの強制浄化は?」

「リュークでも無理だったわ」


 なにぃぃぃ!

 それはかなりヤバイ代物なんじゃないか!? ゲームの主人公だぞ! リュークで駄目なら誰の手でも無理だろう。残った思念の願いを叶えてやらない限り。


 その品が存在すること自体をこの世界の誰もが忘れた時も消えることは消えるが……何年先になるやらだからな。


「その厄介な品の思念の内容は?」

「言いたくない」

「え」

「言いたくないけど、行かないでね」

「え」

「他のメンバーも言わないと思う」

「ものすごく気になるんだが……」

「だから、誰もあんたに教えていないのよ」


 気になるぞ!

 気になるんだが!?


「ラビッツさまぁ! 教えてください!」

「聞いたところで違う葛藤が始まるだけよ」

「土下座しようか!?」

「いらないわよ」

「王子の土下座だぞ!?」

「もう! とにかく入らないこと。それに、詳細までは分からないの」

「……そんなにヤバイ代物なのか」

「単に、ルリアンがこれ以上は思念を読みたくないって言っただけ」

「気になる〜!」


 今すぐプールサイドをゴロゴロしたい!


「ジャンピング土下座でもしようか!?」

「しつこーい!」


 やいやい話していると、突然拍手と歓声が上がった。


「お二人さーん、終わったぞー」


 いつの間にやら、プールの中には何事もなかったかのような穏やかさが戻っている。


「いっぱい切った」

「ベル子、くらげ切ったのか!?」

「可愛くなかったから平気。ザクッ、ザクッと」

「はわわぁ、スッパリでした。切れ味抜群でした……」


 見たかった。


 うむ、綺麗になったプールはやっぱり格別だな。水面がきらきらと光り、青空と白い雲が映り込んでいる。まさに、夏だ。


「よっしゃ、泳ぐぜーっ!」


 俺とラビッツも中へと飛び込み、水しぶきが舞う。仲間との笑い声が響き渡る。


 ――やっぱり夏は最高だ!


 

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