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転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜  作者: 春風悠里


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32.夜のデート

「お待たせ」

「じゃ、行くか」


 月明かりの中で見る彼は新鮮だ。いつもとは違う特別感があって、まるでデートのような気になる。


「許可、取れたのね」 


 彼の持っている杖は学園支給の折り畳みのものではない。安定して二人乗りができるくらいの大きさだ。ふわっと浮かび上がり、深い青の木目がほのかに光った。


「バッチリさ。後ろ乗って」

「ええ」


 彼はこれから行うことについて、事前に学園の許可を取り、私にも一度報告に来てくれた。自前の杖を使う申請はこれから行うと言っていたけれど、全ての手続きを終わらせてきたらしい。私の杖の出番はなさそうだ。


 ドキドキしながら、彼の後ろに横乗りする。落ちないように、ぎゅっとしがみつく。


 ひと蹴り。


 杖が夜空を滑るように上昇し、眼下の学園が遠ざかる。下では寮の灯りがキラキラと灯っている。


「……綺麗」

「だよな。びゅんびゅん行こーぜ!」


 もうっ!

 ロマンチックな言葉の一つや二つ、くれたっていいのに。


「まずは……っと」


 彼が手を前に掲げると、あちこちから虹色の強い光が立ち昇った。頭上には夏の星座が瞬き、眼下には虹色の灯りが散らばる。視界いっぱいに光が煌めく光景は、とても幻想的だ。


「えーっと。あっちに三、向こうには五……。思ったよりもあるな」

「そうね。虹色にわずかには発光しているわけだし、見つけられなかった生徒は夜に探すことにしてもいいのに」

「綺麗すぎて、皆昼間には見つけられなかったことにしそうだ」

「……それはそうね」

「夜のイベントにしてもいい気がするけどな」

「確かに」


 運営側が大変そうではあるわね。

 ――って。


「虹色の光、消えちゃったわね」


 まったく数えてなかった。


「この季節だしな。冬――夢結びの月のようには、いかないな。数は覚えた。生徒会から聞いた残りの数と同じだ。近づけば見えるし、行こう」

「……よく覚えているわね」

「この頭、記憶力いいんだよな。ちょっと血筋がいいからってずるいんじゃねーのって、自分に嫉妬するよ」


 ふとした瞬間に、彼の能力の高さを感じることは多い。もう少し、かっこよく見せればいいのになんて思う。ひけらかすタイプではないのは、分かっているけど……。


 それに、どうしてこんなに綺麗な景色が広がっているのに、いい雰囲気にならないんだろう。


 ……私のせいなのかな。可愛げのあることを言えないからなのかな。


「じゃ、びゅんびゅん行っくぜー!」

「わわっ」


 ニコラが覚えていたらしい場所へと急降下していく。


「速いわよ!」

「えーっ。だってほら、飛ばした方がラビッツがくっついてくれるじゃん?」


 そんな悪戯っ子みたいな顔して……。かっこよく決めてほしい気持ちと、こんなニコラも可愛くて好きだなんて気持ちがせめぎ合う。


「子供っぽい」

「そんなこと言うなよぅ」


 すねたような顔をしながら木の上に引っかかっているボトルを取ると、地上へ降り立ち木の下へと置いた。


 もう一度ひょいと杖に飛び乗り、私がしがみつくと待っていたように次のボトルへと向かう。


「うーん、こっちのボトルは頑張れば見つけられるな」

「そうね。見つけたボトルの場所を書き込んでいくわね」

「よろしくな」


 夜空を滑るように移動しながら、ニコラの記憶を元に次々とボトルを見つけていく。


 風が頬を撫でるたびに、熱気が少しずつ抜けていくようだ。空気は澄んでいて、星の瞬きが近く感じた。


「ラビッツ、いい匂いだな」

「えっ?」

「さっきからドキドキする」

「も……もうっ。そんなこと言われたら掴まりにくい」

「ははっ」


 こうやって私だけが意識しているわけじゃないって思わせてくるのに。それなのに、彼はいつも通りだ。軽い口調で笑うだけ。


 ――ずるい。


 べ、別にね?

 突然キスされても困るんだけどね?


「次は……あの木の根元か。ベンチに挟まれて死角になっているな。降りるよ」


 静かに着地する。

 ボトルを拾い上げ、少しずれたところに置くと、私はマップに書き込む。ペンを走らせる音が夜の静けさの中に響いた。


「これで終わりだな」

「そうね」

「やっと落ち着いて空のドライブができる」


 いつも通りの彼の悪戯っぽい笑み。でも、私への愛がこもってるって分かってる。すごく瞳がやさしいから。


 直視できないくらいに。


「デートじゃないかもしれないけど、もう少し俺に付き合ってほしい」


 探るような笑顔に心が浮足立つ。


「べ、別に、デートでもいいんじゃないかしら」

「え?」

「ちゃんとプランを立てて計画して、二人きりなんだから……デートでも、いいんじゃない?」


 どうして私はこんな言い方しかできないんだろう。お膳立てを全部してもらって、私は地図に書き込むだけ。おまけみたいな仕事だ。こんなにしてくれるニコラに、他の女の子ならもっと――。


 私の頬にそっとニコラの指が触れた。


「可愛い」


 どうしたらいいか分からない。

 今なら、私。

 キスだって――。


「あ、夜のドライブをする前にっと」


 ニコラがゴソッとポケットから袋を取り出した。私はつい、睨んでしまう。


「あれっ。なんでそんな怖い顔をしているんだ!?」

「なんでもない。それ、なに」

「ほら、俺が最初に作ったビーズの指輪だよ」

「あ……」


 シンプルなつくりだ。金色の小さな一連ビーズに青の小さなガラス玉が一つ。おそらく相手が実際につけることを想定していない。金の髪で青い瞳の王子様にもらった記念品、そんなイメージで作ったんだろう。


「ほんとはさ、これをボトルに入れるのをやめた理由、嘘ついたんだ」

「え?」

「最初に指輪をあげる子は、やっぱりラビッツがいいなって思ってさ」

「そ、そう」


 頬に熱が突然集まってきた。大丈夫よね、夜だから分からないわよね。


「だからこれをはめるのは、今だけな」

「……どーゆーこと?」

「サイズが知りたいんだ。ちゃんとラビッツ専用に作るよ。生徒会長とお揃いのものは、やっぱりあげたくないしさ。この指輪、俺の小指にちょーどいいんだけど――」


 私の手を取って、スルッとはめられる。もっと、ロマンチックなやり方があるでしょう!?


「やっぱり小指にはガバガバか……となると」


 少し躊躇うように私の手をとりながら、じっと見つめられる。


 まったくもう!


「将来の練習でもしたら?」


 彼の持つ私の手は……左側だ。私の言葉に応えるように、やや緊張した様子で指に通される。


「ちょうどいいな」

「そうね」


 左手の薬指。


 私たちは婚約をしているけど、親同士の取り決めだ。婚約指輪もまだない。まだ成長期。もう止まったと思うけど……これから背だけでなく指も多少は大きくなる可能性もないとは言えない。


「じゃ、このサイズで作る。ラビッツのことを考えて」

「わ、分かったわ」


 待ってると言おうとして、緊張して言えなくなる。指輪を外された薬指が寂しい。まだはめていたいと、我儘を言いたくなる。


「行こう」

「うん」

 

 風が髪を揺らし、星が瞬く。

 この時間が、ずっと続けばいいのに。


 そう思っても、止まってなんかくれなくて――。


「今日はありがとな」


 寮の前でお礼を言う彼の腕を、引き止めるように掴んだ。


 だって、絶対にしてくれない。自分からはしてくれないもん。そんな雰囲気だって、つくってくれない。


「今日、綺麗だったから! お礼!」


 ニコラの頬に勢いよくキスをして、寮の中へと走る。


 今の自分の顔は――、見たくない。



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