29.生徒会長たちと
中央広場に設けられたテントは、白い布地に金の縁取りが施されている。さすがはこの学園が用意したものだ。たかがテントなのに、シャレオツである。
……王家からの寄付金もあるしな。
ラビッツと並んで歩きながらテントに向かっていくと、会長と副会長の姿が見えた。二人とも椅子に腰かけ、机の上にはボトルの記録用紙や確認リストが並んでいる。
「……あの二人、仲よさそうだな」
ボトルも並んでいたしな。
ゲームでは気にしていなかったものの、生徒会長が男性で副生徒会長は女性、両者とも真面目そうな空気をまとっている。
「そうね」
俺たちが近づくと、生徒会長がすぐにこちらに視線を向けて立ち上がった。
「ニコラ様、何かトラブルでもありました?」
俺たちが一番乗りだったらしい。回収したボトルはまだ一本もないようだ。
「いいや。ボトルの持ち主が生徒会長のだったんだよ。ノクス君、お疲れ様。大変そうだね」
「あ、僕のでしたか。ありがとうございます。大変ではないです。やり甲斐がありますね。それにしても、偶然にしてはすごいですね。実は僕のボトルもニコラ様のだったんですよ」
「……それは奇遇だね」
やっぱりか。ゲームの強制力には抗えなかったらしい。おそらく開始早々、すぐ近くにあったボトルを選んだのだろう。なぜ俺のは、運営サイドへと飛んでいったんだ。
ちなみにヒントは「王子」とだけ書いた。
「私のボトルは、副生徒会長のでした」
ラビッツも俺と同様に、中の宝物を見せてボトルだけを返却した。彼らがボトルに触れると、わずかに残っていた淡い光も消える。そうしてまた、このボトルたちは来年のフェスを待つのだろう。
「あら、なんて偶然」
副生徒会長がにこにこして自分が選んだらしいボトルを見せた。真面目そうに見えたものの、笑うと八重歯が見えて人懐っこい印象に変わる。
ゲームでは生徒会長の横に佇んでいるだけだったからな……。
「私もラビッツ様のボトルだったんですよ」
「えっ」
「少し待っていてくださいね」
記録用紙にサラサラと記入していく。
「はい、こちらですよね」
生徒会長と副生徒会長からそれぞれボトルを渡されたので、スッと触れた。淡い光が同様に消える。
「宝物、ありがとうございますね。フェルトの小さな熊さん、可愛らしくてとても好きです」
可愛いな!?
俺も欲しいぞ!
「気に入っていただけたなら嬉しいです。私も、サラナさんのポストカードの絵がとても素敵で心が洗われました。湖面のグラデーションが美しくて、見ているだけで心が穏やかになりますね」
お、ラビッツが外向けの物腰になったな。こっちのラビッツもいいよなー。
そして、やはり女子のは凝っている。俺のが女子に渡らならなくてよかった。そうなったら申し訳なさすぎる。
「ノクス君、俺のは見なかったことにしてくれ」
「え、いえいえ、自分の刺繍に比べれば」
「すごく上手いよ。俺のは……ネタに走ってしまったんだ」
「光栄です。ニコラ様のキーホルダー、好きですよ。鞄につけますね」
「つけなくていいよ!?」
「はははっ」
冗談なのかどっちなんだ!?
って、あー! 鞄に本当につけてる! 生徒会長のがボトルの刺繍ハンカチだと分かっていれば、俺もボトルの木彫りにしたのに。
俺の名字はスタッドボルトだからな。ボルトの木彫りキーホルダーだ。我ながら上手いこと考えたと思ったものの……恥ずかしいな。なんでこのゲームの製作者はこんな名前にしたんだろうな? 設定資料集には書いてなかったんだよな。
「あれ、こっちに向かって来る生徒がいるな」
「早い生徒は早いですからね。ところで、ニコラ様。もしお時間があればですが――、」
「いいよ、やるよ」
「え?」
「早くボトルの持ち主を見つけられたからね。時間が余っている。探しにくいところに隠れているボトルを見つけやすいところに移動させてほしいんだろう?」
「は、はい。その通りです。すごい……ですね。まさか先を読まれているとは」
やっぱりな。
ゲームでも、さっさと持ち主が見つかってしまったばっかりに、生徒会長に手伝わされたんだよーとリュークに訴えていた。普段は、生徒会の他のメンバーが自分たちのボトルの持ち主を見つけ次第行っている。
翌日までに見つからなかったボトルの在処は、顧問がひっそりと学園長に伝え、生徒会が案内をしている。生徒会側からすると、『どういう方法か分からないけれど、見つからない場合は学園長が翌日に教えてくれる』という認識なのだろう。
「隠れているのを探すのも楽しいからな。これは絶対に見つからないだろうってボトルだけを移動させるよ。……それから、明日の朝も一度声をかける」
「ありがとうございます! そうですね、探すのも楽しいので、見回りリストをお渡ししておきます。あ、一日中じゃなくていいですからね。無理のない範囲でお願いします」
「そうするさ」
「こちらの用紙はまだあるので、返さなくても結構です」
「分かった」
なるほど。
リストを見ると、確かに見つけにくいところが列挙されている。発電装置と鉄柵の間の看板の裏側、ジョウロの中、どこかの窓が開いていた場合に校舎に入り込んでいるので学生たちの会話に注意、寮の屋根の上、木の上もか……。横に追記された年が書かれている。おそらく、過去に翌日の朝まで見つからなかったボトルの在処のリストだろう。
「じゃ、俺たちは行くよ」
後ろに並んだ生徒にも愛想笑いを向けつつ、立ち去る。
「まずはどこから行きたい? ラビッツ」
「……任せるわ」
「それならとりあえず、湖かな。森の奥までは飛ばないはずだけど」
「先生が、ボトルの飛んでいる時だけバリアを張ってくれているのよね」
「そうそう。ただ、確かに木々の中に隠れていると見つけにくいだろうしな……」
あんなところに探しに行く生徒もほとんどいなさそうだ。
「一応、あんたに伝えておくわ」
「へ?」
「私は今、不機嫌なの」
「な、なんで!?」
俺、なんか失敗したのか!?
よく見ると視線がジトジトしている!?
「私、ニコラからプレゼントもらったことないんだけど」
「えっ?」
「どうして生徒会長に先を越されないといけないのよ」
「え、あ、え……」
睨まれている。
嬉しいけど、返す言葉がない。
「え、えーと……そうだな。じ、実は、ボルトキーホルダーの前に、ビーズアクセサリーのキットを買って作ったんだよ」
「ビーズ?」
「ああ。出来上がってから相手は男というか……ゲームを思い出して生徒会長だと気づいて作り直したんだ」
「そうなの」
「それじゃ駄目かな。いや、駄目だよな。ビーズを一連繋げただけの指輪なんて……いらないよな。ごめん。すぐ思い浮かんだのがそれで。えっと、待ってくれ。今から考える」
使いまわしをあげるのは酷いよな。あー、こっちの経験はなさすぎるからなぁぁぁ。
「それをちょうだい。ついでに、生徒会長にあげたのよりもっと気持ちのこもったボルトキーホルダーも作って」
どんなんだ!?
ボルトだぞ! ネジだぞ!? 気持ちを込めて分かるものなのか!?
「そ、それなら俺も、ラビッツの作ったフェルトの熊が欲しいな」
「可愛いの、好きなの?」
「まぁな」
あれは一見しただけで和んだ。ここは俺も要求していいところだろう。
「分かったわよ。何か作ってあげる」
不機嫌だったはずなのに、ラビッツが得意気に微笑んだ。
前世では持つこともなかった感情がじわじわと湧いてくる。口角が上がってしまう。好きな女の子と手作りのものをプレゼントし合う日がくるなんて。
「恋愛っていいな」
「なによ、それ」
口ではツンツンしながらも、並んで歩くラビッツと俺の距離は近い。
「好きだよ、ラビッツ」
「……うん」
恥ずかしそうに顔を背ける彼女が、愛おしくて仕方がない。
よし、気合を入れてボルト以外の何かを作ろう。生徒会長とお揃いのものなんて、あげてたまるかよ!




