27.ボトルフェス
思念品はリュークとルリアンに任せ、それ以外には特に何事もなく、五月下旬となった。
ルリアンに聞いて全ての思念を把握しているリュークから、ポチの部屋に俺は近づかない方がいいと言われたことが、少し気になってはいる。でも、実際には何も起こっていないわけだし、深く考えないことにした。女性陣は色々と持ち込んでメルヘンな部屋になっているらしい。
絶対に何か起こる気がするとトラが言っていたし、嵐の前の静けさのような気もするが……。
パトロール隊へのささいな要望や事件はぽつぽつあった。魔法理論の講義を応用した生徒同士の悪戯で影がおかしなダンスをするようになり生徒が駆け込んできたり、教科書を枕にしたら首が痛いと泣きついてくる生徒までいた。そっちは魔法関係ないだろうと言いたいが、ルリアンが治癒魔法で回復させていた。
いずれもその日のうちに解決だ。主に、先生に言うのが恥ずかしい話が持ち込まれる。ほとんどルリアン一人で解決してしまうのが、さすがというべきか……。
生徒のおふざけには相変わらずペンデュラムが反応し、全員で出動している。
内容はいかにも学生だなぁと微笑ましい。もしかすると、前世の俺にニコラの記憶がプラスされて、俺の精神年齢はそこそこ上に達しているのかもしれない。
「――と思うんだけど、ラビッツ」
「やらしい発言が多々見られるし、どうかしらね」
「仕方ないだろう。女の子と付き合ったことは一度もないんだぞ!?」
「……そう、可哀想ね」
なんで睨むんだ!
「もしかしてラビッツには……恋人がいたとか?」
「いないわよ」
「やったー!!!」
「両手をあげて喜んでいる時点で、精神年齢は幼いわね」
「嬉しいんだよ!」
ということは、もしかして俺が初恋人とか初キスとか初デートの相手になるかもしれないのか!?
「やったー!!!」
「しつこいってば」
「ラビッツ! 俺とキスしてください!」
――スパーン!
「しないわよ!」
また扇子が飛んできた。
「なんで……」
最近はいい雰囲気になることもあるじゃないか。ツンデレは好きだけど、好きだけど……!
「〜〜〜っ。い、言ったじゃない。ムードを考えなさいって。ムードづくりよ。た、例えば、その、ほら、い、一応私たちも婚約者同士なわけだし? あるでしょ。必要な、ね。えっと。まずは舞台というか、デ、デ……だから、ほら、あの……」
なぜかラビッツの声がどんどん小さくなって聞き取れないな。どうしたんだ?
『皆さん、準備はよろしいでしょうか』
生徒会長の声が校内アナウンスで学園中に聞こえた。今日からは、生徒同士の交流イベント第二弾が始まる。どの生徒も外にいて、アナウンスに注意を向けている。
「ただ今より、三日間の『ボトルフェス』を開催いたします! 皆様から事前に集めましたボトル――その込められた想いを、探し当ててください。これはただの宝探しではありません。
人と人が出会い、見つけ、繋がる――推理し、迷い、笑い、楽しんでください。それではカウントダウンをいたします」
生徒会長が、十から数字を減らしていく。
――五、四、三、二、一。
「ゼロ! ボトルフェス、開幕です! よき出会いを!」
魔法によって虹色の輝きをまとったボトルたちが、学園の空から優雅に降り注ぐ。まるで、空に描かれた虹色の奇跡だ。長年イベントに使用され続けてきたボトルは先輩たちの思い出を受け継ぎ、そっと学園のどこかに着地する。
これは、生徒たちが自分自身を示すヒントや手作りの宝物をボトルに詰めて届ける、学園伝統の交流イベントだ。ボトルは魔法によって校内のあちこちに配置され、参加者は持ち主を推理して探し出す。学年も関係ない。人を知り、繋がるためのゲームだ。持ち主を探し出せたら中の宝物をもらい、ボトルは学園へと返す。
「始まったな」
「そうね。すぐそこにもボトルがあるわね」
「もうそれでいっか……あ」
他の生徒に、目の前のボトルは取られた。
「お! 押し花が入ってる。えっと……持ち主は二年生か。ヒントはイニシャルと好きな場所だな。図書館によく出没して緑のリボンをつけている――、勝ったな!」
「その子も他の人を探すわけだし、図書館に今から行ってもいないと思うぞ?」
「しまった! よし、緑のリボンをしている子に話しかけて回ろう。お前は?」
「んー、最大のヒントは好きな歌だな。歌いながら歩き回れば、話しかけてくれるさ。よっし、歌うぜ〜!」
「……期間中はお前の側にいたくないな」
「ひどいな。期間中は皆おかしいからいいだろう」
楽しそうな声が飛び交っている。
そう……期間中は、皆おかしい。見つけてもらうために頭にリボンを異常なほどつけていたり、男でも前髪をピンッと結んでいる生徒もいる。ゲームでは猫耳カチューシャをつけている生徒もいたので、ここでも見かけるかもしれない。
一度触れたボトルは虹色から透明になり、淡い光をまとうものの中が見える。そして、他のボトルの蓋を開けることができなくなる。
昔から続く伝統行事で、最初はボトルに外側から魔法効果をつけたんだろうが、永続的なものではない。今ではあの思念品のようにこれまでの生徒たちの思いを受けて、ボトル自体に効果が継続するよう力が宿っているようだ。
だからこそ、運命の相手と出会えるかもしれないと期待する生徒は少なくない。
「あーあ。俺はどれを選んでも、生徒会長のボトルなんだろうな」
面白みがない。
来年以降に期待するしかない。
「どれを選んでもってことはないんじゃない?」
「どれだけ迷ったところで、最後に選ぶのは生徒会長のボトルになる運命なんだ」
「否定はしないけど」
「だろう?」
「もうっ。なんでもいいからボトルを探すわよ」
「だな。結果は分かってるけどな……」
ゲームではリュークが誰のルートに入っていても俺は『生徒会長と相思相愛だったんだよ、おろろーん』とリュークに悲しみを訴えていた。
「ボトルを見つけてからの俺のやることもゲームと変わらないと思うけど……付き合ってくれるか?」
「ふん。当たり前でしょ」
照れくさそうに睨むラビッツが、俺は好きでたまらないんだ。




