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転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜  作者: 春風悠里


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26.思念品

「これは……」


 リュークが自ら持ってきた箱を置いて、ゴクリと喉を鳴らす。


「ヤバイ予感はしていたが……」

「運んでくれてありがとな、お疲れ様」


 労いを込めてガシッとリュークの肩に手を添えた。


「疲れるのは、これからだろう」

「うぅぅ。怖すぎるな……」


 パトロール隊への要望ボックスが置いてある机の下に、なぜか箱が置いてあった。要望書を確認して、リュークが旧校舎へ運んでくれた。要望書に書いてあった内容は――、


『思念品が家に大量にあります。亡くなった祖父がおかしなものを集めるのが趣味だったのですが、量が多く処分に困っているので、なんとかしてください。こちらは一部です。浄聖師に断られた品もあります』


 ここは、意思の力で魔法が発動する世界。思念が残ることもあり、呪われのなんとかみたいなのも前世より多いし眉唾ものでもない。前世ならポルターガイストかと思われる現象も、ここでは「そんなこともあるよね」で終わってしまう。


 しかし、これは量が多すぎるし集まりすぎている。この箱からおかしな気配がグワングワンと漂っている。


「……私は、何もできないと思う」


 ベル子はそうだよな。浄化は特殊魔法だ。むしろ使えない人のが多い。日本でいうところのお清めの塩くらいの浄化はできても、思念を祓うことは難しい。


「埋めたくなるわね」

「地上が見つからないくらいに、地中深く埋めちゃうにゃん〜」

「うちの領地の浄聖師に分配してもよろしくてよ」

「い、いやいや、オリヴィア嬢の気持ちはありがたいが、最初から諦めるのもな」


 こういったものは教会の浄聖師に任せるのが一般的ではあるものの、それなりの寄付金は必要だ。ゴミとして処理しようにも思念だけで形を保っているので処分できず、持ち主の元へそのうち戻ってしまう。それに……。


「浄聖師さんに断られる理由が分かりました」


 思念を感じ取ることができるのは、この中でルリアンだけだ。


「おおまかにしか分かりませんが、リストにしますね」


 皆でルリアンの書く内容を見つめる。


「踊るくま人形」

夜中に踊り出すぬいぐるみ。ダンスが好きだった少女の「もっと踊りたかった」という思念が宿り夜中に踊る。両親の離婚により習い事の継続が不可能になったようだ。


「夢を映す鏡」

触ると夜に見た夢が映る。「さっき見た夢を思い出したい」という思念が宿る。誰も触らない場合、夜中0時に過去に触った者の夢が映し出される。微笑ましい内容らしい。


「幸せと悪夢のオルゴール」

鳴らすととても幸せな気分になるものの、その日の夜は悪夢を見る。現実逃避をしたい強い思念が宿る。


「子供の声で鳴る笛」

ロッカーの裏から見つかった笛。連続で吹くと「指がうごかないー」など、音楽の時間の子どもたちの気持ちを代弁するような声が一音ずつ鳴るようだ。


「開かずの失恋の文箱」

振られた悲しみが綴られている手紙が何枚も入っているらしい。枕元に置いておくと同じ体験を夢でする。悲しみを誰かに分かってほしいという女性の思念が宿る。


 次々とルリアンが記入していく。


 ――読みながら、パトロール隊のメンバー全員がため息をついた。


「浄聖師なら……断るかもな」

「そうね。保管しておいても害はないし、願いを叶えてあげたらどうかと提案しそうね。一般的な寄付金額とも浄聖師の労力とも見合っていないわ」


 ラビッツの言う通り、軽い思念の場合は願いを叶えてやれば自然と浄化される。


 くま人形と毎晩一緒に踊ってやったり、夢を毎日映してもらったり、オルゴールを毎日聴いて悪夢を見てやったり、毎日笛を鳴らしたり、失恋を追体験して同情してやれば……おそらく、そのうち浄化される。


 浄聖師に頼めば必要な儀式的な手順もあり手間もかかる。例えるなら、必要のない薬に大金を払わなくても自然治癒を待った方がいいとアドバイスするようなものだ。しかし……この量は大変だ。メンタルの強さも必要だ。


「ま、思念自体も浄聖師に断られるだけあって軽いな。問答無用で浄化するか」


 そうリュークが言って、剣を抜刀し――。


「シュバッとな」

「「「「ああ〜!」」」」


 女性陣が声をあげた。


 剣の軌跡から強制的な浄化の光が放たれる。リュークの浄化力はゲームの主人公だけあって規格外だ。こんなに簡単には、通常ムリだ。


「く、くまさんが〜……」


 悲しそうなルリアンの声。


 金色の残光を残してぬいぐるみが跡形もなく消えた。燃やすなどの処理をされたことがある品は、こうして思念だけで形を保っているからだ。


 本来もうなかったものであるせいか、浄化したあとにはそれ自体の色や形などの記憶は薄れる。


「ザクザク浄化していくぜ」

「ま、待ってください。私が叶えられそうなのは叶えてあげたいです」

「おかしなものに付き合うと精神を病むぜ」

「でも、私は思いに触れてしまいました。無関係にはもう思えません。それに浄化さえすれば、そのもの自体の記憶は薄れます」

「はー……、しゃーねーな」


 ガリガリとリュークが頭をかいた。


「ルリアンはリストを完成させてくれ。メンタルがやられそうなのは強制的に浄化させる。願いを叶えてやっても問題なさそうなのは残しておいて検討しよう。俺でも浄化できないのがあれば、ひとまず保管しておこう」

「はい、ありがとうございます。もう少し探れば、もっと具体的な思念の内容が分かるはずです」

「ってわけだ。こっちはルリアンと俺でボチボチやるさ」

「分かった。よろしくな」


 俺にできることもないし、完全にお任せになるな。


「まずはこの子たちに、持ち主の場所に戻らないよう居場所を作ってあげたいです。捨てられたと感じると戻ってしまいます」

「あー。じゃ、そっちはニコラたち頼むわ」

「お……おう」


 できることがあったな!?


 こうして、俺たちの元には厄介な呪われ(?)の品がやってきた。


「せっかくなら素敵な居場所にするにゃん。一部屋使うにゃん。ここから遠い部屋がいいにゃん」

「トラ……、できる限り遠ざけようとしているだろう」

「絶対に何か起こる気がするにゃん。楽しそうな部屋にするにゃん。風船で埋め尽くすにゃん」

「どんな部屋だよ!?」

「部屋の名前は『ポチの部屋』とかでどうにゃん。楽しそうにゃん」

「犬はいねーよ!?」

「ニコラ王子、律儀に突っ込むにゃんね〜」


 律儀なのか?


「各自で楽しそうなものを持ってくることにするにゃんね」

「よっぽど嫌なんだな!?」


 なぜか女性陣の目がキラリと輝いたのは見なかったことにしよう。


「だって気持ち悪いにゃん。にゃーにはびんびんおかしな匂いが伝わってくるにゃん。たぶん人間より敏感にゃん」

「それは大変だな」


 ――この時は、まさかあんなことになるとは思わなかった。




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