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転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜  作者: 春風悠里


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23/41

23.お姫様抱っこ

「本日は待ちに待った交流会当日です! 学年の垣根を超えて――」


 生徒会長の挨拶で立食会が始まった。こんな時は生徒会が挨拶なりなんなりを行う。


 漫画なんかだと、生徒会には華やかなメンバーがいたりするものの、このゲームではパトロール隊が主役だったからな。生徒会は地味な扱いだった。


 そして、生徒会と俺たちパトロール隊がゲームの中で絡むのは、後半だ。


 ――その時が来るのは、少し怖い。


 相談事をされるだけだけどな。どうして名簿にあの女の子がいないのか……と。


「では、ファーストダンスをニコラ様とラビッツ様に踊っていただきましょう」


 事前に聞いていた通りのタイミングで、促される。生徒たちの視線が集まる。


 ラビッツは、いつもと違ってドレス姿だ。真紅のドレスは鮮やかで目を奪われる。ウエストから流れるラインはなめらかで、歩くたびにシルクシフォンのアクセントが淡く光を纏いながらふわりと舞う。胸元には翡翠のブローチが輝き、レッドブラウンの髪はハーフアップに結われて波打つ。


 ……正直、見惚れてしまう。


「変な顔してどうしたの」

「綺麗だなって」

「……さっきも聞いたから、このタイミングで言わないで」


 そう睨まれてもな。会場に入ってから、つい何度も言ってしまう。それしか考えられなくなるんだよな。


 俺たちが手を重ねるのを合図に、曲が始まった。合わせて、会場の中心へと踏み出す。腰に手を添え、生徒たちの視線を受けながら優雅にステップを踏む。


「……ニコラ」


 小さく名を呼ばれて、目が合う。


「ん?」

「私……ちゃんと、踊れてるわよね」

「ああ、踊りやすい。息がぴったりだよな。練習のお陰かもしれないけど、お似合いのカップルだ」

「まったく、あんたは……。でも、私もそう思う」

「お似合いのカップルって?」

「踊りやすいって!」


 互いに緊張がほどけて、足の運びがよりスムーズになる。一曲目が終わり、生徒会長がまた挨拶をした。


「お二人のダンス、まさに夢のようでしたね! 続けてダンスは会場中央付近でのみ、皆さんもご自由にご参加ください。本日の立食交流会を、どうぞお楽しみください」


 生徒会長の挨拶が拍手で包まれると、立食会の空気は一層華やかさを増した。貴族の生徒たちはペアを組んで優雅に踊り始める者もいれば、バイキングの料理へと足を運ぶ者もいる。会場の中央を囲うように職員によってロープが張られ、ダンスエリアが設けられた。


 俺たちは一礼して退き、窓辺の少し落ち着いた場所へと移動する。ラビッツは胸元に手を当て、ふうっと小さく息を吐いた。


「緊張したわ」

「俺だって。ラビッツ、綺麗すぎるからなー。見惚れて転びそうだったよ」

「もうっ。人前でそーゆーこと言うの、やめて」

「本当のことなんだから、いいだろう」

「よくないから言ってるのに」


 文句を言いながらも口調は柔らかい。だから、調子にのってしまう。照れてるだけなんじゃないかって。そう思う。


「よし、食べるか」

「そうね」


 料理が並ぶテーブルは、見ているだけでも心が踊る。王子だから王宮でいいものは食べていたものの、学園流のこだわりを感じる。なにせ、チーズの種類が多い。なんと十種も並んでいる。全ての料理に色んなチーズをかけたくなる。ゴロゴロお肉にも彩り野菜にもなんにでも合うのがチーズだ。


 ラビッツと感想を交わしながら、料理を味わう。


「料理が美味い世界でよかったよな」

「それはもう本当に、そう思うわ」


 ふと、俺たちの背後に影が差した。


「二人して壮大な感想だな」


 リュークがやれやれといった感じで寄ってきた。今は騎士っぽい服を着ている。ゲームでも見たものの……。


「リューク。お前、どうしてそんな主人公みたいなかっこいい服着てんだよ。ラビッツが見惚れるじゃないか」

「はあ!? 見惚れるわけないだろ。なぁ、ラビッツ」

「そ、そうね! 見惚れるわけないわね! でも……かっこいいわね」

「ほら、見惚れてるじゃないか……」

「だ、だって生リュークの騎士姿よ!?」


 ゲームの再現だからな。近くで見たら、そうなると思った。


「生ってなんだ。生じゃねー俺はどこにいるんだ」

「そ、そうよね〜、私ったらおかしいわよね〜」


 たぶん、前世のノリになってんだろうな。普段もそうなのかな。分からないな。


「そういえば、さっき生徒会長に聞いたんだけどさ」

「へ?」


 そうか、ゲームじゃないから生徒会長とリュークが個人的に話したりもするんだな!


「学園へのご意見箱に二人のファーストダンスを推したの、生徒会長らしいぜ」

「どぇー!?」


 なんで生徒会長が絡んでくるんだ!? 


「食堂でさ、俺たちの会話をすぐ近くで聞いてたらしいんだよ」


 食堂でのリュークと俺の会話???


「ニコラがさ、なかなかラビッツと手を繋ぐ機会すらないとか前にボヤいてただろ?」

「げっ」

「ファーストダンスを踊ってもらえたら盛り上がるし、手は繋げるしでいいことだらけだと思ったとか言ってたぜ」

「そ、そっか〜……い、いやぁ、親切だな〜」

「ニコラ……。あんた、そんなことを食堂でペラペラと……」

「ラビッツもたまには手くらい繋いでやれよ。それじゃーな」


 こ、こんな空気にして逃げるな!?

 冷や汗出るぞ!?


「あんたのせいだったのね……」

「わ、悪い」

「別にいいわよ」


 しばし沈黙――もっと責められるかと思った。


 窓の外はまだ明るい。

 昼前だからな。


「友達のとこ、行くか?」


 リュークはルリアンとベル子と会話しているようだ。オリヴィアも、トラ専用の容器に料理を入れてやり、友人と笑いながらスプーンですくって口の中へと運んでいる。


「……ルリアンたちのドレスも似合ってるわよね。近くで見たい?」

「別に。俺はラビッツさえいれば、それでいいんだ。俺の婚約者は、最高に可愛い」

「私が昨日、ムードづくりがヘタって言ったから……それで、そんなこと言うの?」


 なぜかラビッツは不安げだ。声は軽く冗談めいているようで、探るような調子だ。会場のざわめきが、どこか遠く感じる。


「そんなこと言われたの、忘れてたな。可愛い婚約者の側にいたい。それだけだよ」

「抜け出したいって……言ったら?」

「え?」

「一緒に抜け出してくれるの?」


 心臓が跳ねた。


 ラビッツとの二人だけの世界に入り込んだような気になる。ごくりと喉が鳴って――。


「この靴、新しいの。合わなかったみたいで……少し痛いの」

「靴ぅ!?」 


 期待したー。

 今回はめちゃくちゃ期待したのにー。


「く、靴が合わないのは辛いよな。ダンスも大変だっただろ?」

「う……ん」


 は! ここは俺の特訓の成果を見せる時なんじゃないか!?


「よし、ラビッツ! お姫様抱っこをしてやろう。一緒に抜け出そうぜ!」

「はぁ!? 結構よ」

「ラビッツに昨日、ムードづくりゼロ点って言われてさ。昨夜練習したんだよ」

「……お姫様抱っこを?」

「おう。基本だろ? お姫様抱っこってさ。ムード満点だろ?」

「誰とよ」

「え?」

「誰とって聞いてるの」


 目が怖いぞ!?


「そりゃ、侍従……毎日来るから」

「侍従って男よね」

「そ、そうだな。もちろん」


 もしや、女の子相手だと思って嫉妬されてた!? やばいぞ、ラビッツが不機嫌になるほど興奮する。


「つまりあんたは、ムードづくりのためにお姫様抱っこの練習をしようと、男の侍従を姫抱きしたわけ!?」

「そ、そうなるかな……」


 言葉で聞くとアホだな。


 だってほら、ムードづくりについて考えてたら、お姫様抱っこをしようとして落としたら大変だなーとか考えちゃったんだから仕方ないだろ? 練習するよな、誰だって。思いついたらするよな? いつかその機会が来るかもしれないもんな?


「ふーん……婚約者である私を差し置いて、初めて姫抱きしたのは男ってわけ」


 やばい……怒ってる。

 しかし、嬉しい。

 俺は、嫉妬をされている!?


 人生初の嫉妬をラビッツから!?


「も、もうほら〜。怒るなよぅ、ラビッツ」

「きゃぁぁ!」


 よっと横抱きにするも、そんなには抵抗されない。……思ったより重いのはドレスのせいだな。


「鍛えてるから大丈夫さ。王子だからな! 足、痛いんだろ? 行っこうぜ〜!」

「ちょっ! いきなり何! 思ったより不安定! 怖い怖い!」

「掴まってなよ〜」


 生徒たちの笑い声と音楽が溶け合う中を、ラビッツを姫抱きにして走る。ドレスの裾がふわりと舞い上がり、ラビッツは慌てたように首にしがみついてくれた。


「みんな見てるってば!」

「おうよ! みんな、一足先に立ち去るな! 帰る時に受付のパンフレットを持ち帰ってくれよ!」


 驚き、笑い、どよめき──、知り合いは皆、にっこにこだ。ルリアンも両手で手を振ってくれている。ダンスの真っ最中だった生徒たちが動きを止め、笑顔で拍手をくれる者まで現れる。


「ニコラ様、がんばれ〜!」

「ひゅう〜♪」


 声が飛び交う中、扉を近くにいた生徒が開けてくれた。


「ありがとう!」

「末永くお幸せに〜!」


 出口付近の机には俺たちの用意したパンフレットが置いてある。魔法関連の困り事があればパトロール隊への要望BOXへ用紙を投函してほしいとの内容だ。用紙も投函箱も、校舎の入口に置いた。


 さすがに全てのお悩み相談を受けるのはやめておいた。王族や高位貴族であることを利用しようとする生徒がいると困るからな。


 扉をすり抜ける。背後では、誰かが小さく口笛を吹いた。


「いえーい! 人生最高ー!」

「ちょっとぉ! どこまで行くのよ!」

「この世界の最果てに!」

「どこなのよ、それはー!」


 誰もいない廊下を、笑いながら駆け抜けていく。ただ一瞬のこの時間が、大切な思い出として一生心に残る気がした。



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