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転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜  作者: 春風悠里


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20.ベルジェの姉

「邪魔するわ」


 まるで嵐のような勢いで扉が開かれた。


 入口に立つのは、ルビーを溶かしたような鮮やかなガーネット色の髪を揺らす少女だ。ベル子よりも長いその髪を、同じようにポニーテールでまとめている。彼女の視線は鋭利な刃物のようで、俺たちに向けての敵意をはらんでいる。


 ラグナシア・クリストフ。

 ベル子の姉だ。


「なんの用だ」


 すぐに反応して前に出たのはリュークだ。ベル子とラグナシアとのイベントはもう発生済みだろうからな……。


 だが、こんなイベントはなかった。一体何がどうなって、ラグナシアがここに来たんだ。


「あなたたち、パトロール隊とか言いながら生徒とよくバカ騒ぎをしているらしいじゃない」


 なんてこった!

 おかしな印象になってしまっている!?


「パトロールはしている。生徒とも仲よくやっている。それがどうした」


 こうして見ると、リュークはやっぱり主人公だよな。


「アレもあんたたちの差し金でしょ!」

「……アレ?」

「ふん。分からないフリをして見て見ぬふりなんて、ろくでもないわね」


 全然意味が分からないぞ!?

 リュークは分かっているのか!?


「なんのことだ」


 そうだよな!

 分かんないよな!


「ベルジェ」


 剣呑なその声に、ベル子がびくっとなった。互いに睨み合っているものの、ベル子の瞳には怯えが滲んでいる。


「男子生徒の歓心を買って遊んでいるって聞いたわよ。学園警備隊をおかしなサークルに貶めたのも、あんたなんじゃないの?」

「やめろ!」


 リュークの叫びにもラグナシアは止まらない。毒矢のような言葉が放たれる。


「クリストフ家の落ちこぼれ。あんたの居場所なんて、初めからないのよ。今すぐ国に戻りなさい。ここには不要なの」


 ——その瞬間、空気が一変した。


 教室に吹きすさぶ冷気。

 ベル子の感情が負に彩られると雪が降る。彼女の心が荒れるほど、世界は白く塗りつぶされていく。


「ベル子、落ち着いて!」


 ラビッツが声を上げるものの、ベル子は微動だにしない。拳を握りしめ、唇をかみしめ、瞳には苦しさと悲しみが入り混じった感情が宿っている。


「ベル子ちゃんは私の大切なお友達です。今日はお引き取りください」


 俺が声をかける前にルリアンがベル子を抱きしめ、はっきりと拒否を示した。


 寒い。

 まるで真冬のようだ。


「ラグナ姉様。私は……」

「私たちはもう家族ではないわ。違う国で違う道を歩む。戻って来られても困るのよ。髪の色も瞳の色もあんただけ違う。あんたがこの国にいるだけで空気が悪くなるの。目障りよ」


 雪が一層激しくなった。止むことのない——涙のような雪。


「ラグナ姉様、私は不義の子……なの」

「分からないわ。お母様は変わらず違うと言い張っているわね。真実なんてどうでもいいのよ。あなたがいなくなってから、家の空気は前よりもよくなった。変化はそれだけよ」

「……そう」


 クリストフ家は、「クリストフ護衛団」という組織を運営している。騎士とは違う、個人護衛を生業とする格式あるボディーガード家業だ。


 ……前世風にいうなら、ボディーガードの派遣会社みたいなものか。顧客には大富豪も多い。昔とは違って平和な世になった現在は護衛形態もさまざまで、護衛だけでなく警備の仕事も多く担当しているようだ。


 大富豪が顧客である以上、トップには絶対的な信頼性が求められる。負の感情が分かりやすく雪という形で見えてしまうベル子は、両親や祖父母とも髪や瞳の色が違うというのもあって、東方に住んでいる親戚の元に追いやられたという経緯だ。


「別に、この国にいたって家に戻る必要はないじゃない」


 オリヴィアが会話に参加した!?


「卒業したら、私の家の護衛として連れて帰ることもできるわ」

「オリヴィアさん……私は、雪を降らせてしまう」

「護衛業に関係はないわよ。むしろ居心地が悪くなったのなら、雇い主の責任よ。すぐ分かっていいわ。対応しやすいもの。いくらでも降らしてちょうだい」


 オリヴィアがベル子を大事に思ってくれていることに、ついジーンとしてしまう。涙ぐんでしまうぞ。


「にゃーの護衛になればいいにゃん。にゃーの専属にゃん」

「ま、待って! 私のところに来てもいいのよ。輿入れの時にもその、連れていくしっ」

「ラビさんまで……あ。ラビちゃんまで、ありがとう」


 雪がやんだ。

 教室を白く染めていた、雪が。


「弱さで手に入れた友情ごっこで明るい未来を手に入れられてよかったわね。この国で生きるなら、私たちの前にもう姿を現さないでよね、視界に入れたくないから」


 もう一度、細かい白が踊る。


「いい加減にしろっ!」


 ――リュークが叫んだ。


 少し迷っていた。


 トラの『にゃーはせっかくだから、これから起こる悲しいことは、防げるのは全部防ぎたいにゃん』という言葉がチラチラと頭をよぎっていた。


 でも俺は、今の今まで動けなかった。どうしたらいいのか分からなかった。


 ラビッツが前に『咄嗟にゲーム通りにしようかと思っちゃったのよ。迷うとやっぱり、そっちを選ぶわよね』と言っていたが……確かに、今後のイベントが起きるまで待つかどうか迷ってしまう。確実にいい方向に進むと分かっているから。それからでも遅くはないんじゃないかって。


 でも……ここはゲームじゃない。


「出来の悪い妹を引き取ったのなら、最後まで面倒みなさいよ。こっちに寄越さないでちょうだいね」


 勇気を出さなければ。

 俺はここで、生きていくのだから。


 捨て台詞を吐く彼女の前へと一歩足を踏み出して、にっこりと笑ってみせる。


「君の妹への愛情には痛み入るよ」


 俺の言葉に、誰もが「何言ってんの?」という顔をした。


 ――ラビッツと、トラ以外は。



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