19.突然の……
こうして『学園パトロール隊慰労会』は、想像以上の盛り上がりを見せ、参加者の満腹と満足の声とともに、無事閉幕となった。
最後には、一人ずついちばん美味しかったお団子発表をした。教室の前方に用意された審査員席に座った順に、まずは俺からだった。
「俺の一番は焼き醤油炙りチーズ団子だ。表面の香ばしさととろけるチーズの塩気が絶妙にマッチして、最高だった」
ガッツポーズを決める男子生徒がいて、選んだ俺まで嬉しくなった。続いてはラビッツとベル子だ。
「私は、抹茶あずき団子。ほっとする味だったわ。どこか懐かしい味がして心が落ち着いたの」
「私も……抹茶あずき団子。ジャパリス国でも抹茶が好きだった。やっぱり好き」
セヴォルトの一品だ。台車レースのあとにベル子に聞いたらしいからな。リサーチの勝利だ。ラビッツが抹茶好きなのも意外だった。取り寄せようかな……。
「私はもちろん全部美味しかったですけど、チョコレート団子が特に好きです。もっちりとした食感にとろけるチョコレートの組み合わせが幸せの味でした!」
「にゃーは炭酸レモン団子にゃん。シュワシュワが癖になるにゃん」
「私は団子クリームラテね。コーヒーの新しい楽しみ方を知ったわ」
「俺はピリ辛団子だ。甘い団子が多い中で辛さが光ったな」
俺たちに続いて他の生徒たちも次々と自分の作品と番号、そしてお気に入りを発表していき、終始和やかな空気だった。
こうやって交流が広がっていくのだろう。
興奮冷めやらぬまま、翌日の日曜日もなんとなく旧校舎に皆で集まった。約束したわけではなく、活動しない日でも誰かいるかなーと覗く場所になっている。
他の生徒が来ないのは、古くさくて来る気になれないのもあるだろうが……顧問以外のもう一人のこの世ならざる者の存在により、パトロール隊に用がない生徒は追い返されるからな。夜の肝試しが目的の生徒なんかは、気づいたら元の場所に戻っている。そろそろ新入生にも少しずつ噂が広がっている頃だろう。
リュークも、一回目の顧問イベントくらいは発生しただろうな。いや、それどころか……。
「そういえば、抹茶あずき団子を学食のメニューに加えられないか交渉するらしいですよ。セヴォルトさんたちに偶然会った時に教えてもらいました」
「おっ、バイキングの一つになったら嬉しいよな。ピリ辛団子は無理かな……」
今は考え事をしている時じゃないよな。リュークもいつも通りにしているわけだし。
「ピリ辛は、私にとってはピリではなかったですから。難しいかもしれないですね」
しばらく、ゲームと同じ台詞は聞いていない。ルリアンとリュークがこうやってよく会話するのは同じだ。ゲームでは細かい部分が見えなかったものの、ルリアンは誰かと話しながらも他のメンバーにも目をやり、皆と会話してる感を出そうとしている。ルリアンが気配りの女の子なのも変わらない。
「お団子の次が楽しみにゃん。早く次を催してほしいにゃん」
「……それ、やっぱり私も参加しなければならないのかしら」
「にゃーの保護者だから仕方ないのにゃん♪」
ゲームではほとんどここに来なかったオリヴィアも、トラにお願いされて来る頻度が上がった。好きだったゲーム世界の中で、新しい話が紡がれていく。こういうのって、いいよな。
ラビッツは可愛いし!
円卓で俺の隣が定位置になったラビッツをチラリと見る。
「……なによ」
「可愛いなって」
――スパーン!
軽快に扇子が降ってきた。
「そーゆーのやめて。場所考えて。空気読んで。周りも困るでしょ」
「あはは、私は気にしないですよ〜」
「……らぶらぶ」
「らぶらぶだな」
リュークにまで突っ込まれた!?
「私は気にするの!」
人前で褒めるのは駄目か……思ったことを口にしただけなのに。それなら、さっき気になったことを聞こう。
「そういえば抹茶、取り寄せるか?」
「抹茶!? いきなりなによ」
「ベル子もラビッツも好きだろう? あ、学園長に言おうぜ! こんな時こそ学園長の出番だろ。活動に抹茶が加わることで無敵になりますとか適当に言ってさ。ここで飲もうぜー」
「……適当すぎるわね」
抹茶たてるのはヘタだけどな。この世界ではチャレンジしたことすらない。
「毎日寮まで書類持ってくる侍従に頼んでもいいんだけどさ」
「書類?」
「サインさせられたり、ついでに勉強させられたりしてるんだよなー。課題もあるのに。王子も楽じゃねーよ。学園長がダメなら、侍従その1やその2に頼むかなー」
あれ。
なぜかシーンとしたぞ?
「寮に戻ってもそんな……大変ですね。私、恵まれてたんですね」
いやいや、ルリアンのが大変だっただろう!? 俺はゲームやってるから知ってるぞ!? あー、ここでは知らないことになってるから突っ込めない。もどかしい!
「王子……大変」
「おう。その代わりにプータローにはならないぜっ!」
「ラビさん、ニコラさんとらぶらぶしてあげて」
「えっ」
「じーーー」
「そっ、そんな目で見られてもっ」
「じーーー」
「だ、だからっ、えっとっ」
ベル子はまだラビさん呼びか。他のルリアンもだろうな。いつからだったかなー、呼び方が変わるの。もうゲームとは違うからな。
「そろそろラビちゃんでいいんじゃないか?」
つい、口に出てしまった。
「えっ」
「ラビちゃん……」
ベル子となぜかルリアンまで、「ラビちゃん、ラビちゃん……可愛い」と呟き始めた。ラビッツはこっちと二人を見てワナワナしている。
軽率だったか?
「ニコラさんのお墨付き……ラビちゃん、ニコラさんとらぶらぶしてあげて」
「ちょっ、ちょっと待って」
「じーーー」
「も、もう! 分かったわよ! たまには考えるわ、たまにはね! 皆のいないところでね!」
皆のいないところで!?
いかんいかん、興奮する。
静まれ、俺。
ここで興奮するわけにはいかない。
興奮するわけには……!
「皆のいないところで、俺とえっちなことをしてください」
――スパーン!
「しないわよ!」
「分かってた。つい言ってしまった。止められなかった」
「もー!」
――スパン! スパン! スパン! スパン! スパン!
「連続技ぁ!?」
「つまらぬ者を叩いてしまったわ」
「つまるよ!? 王子だよ!?」
「つまらぬ王子を叩いてしまったわ」
「つまってるからな!?」
トラが「うにゃ〜」と呑気な声を上げつつ、机の上に置かれたおやつに手を伸ばした。購買で買ってきたらしい『シュワ玉』だ。齧るとシュワッとする魔法加工された駄菓子のような扱いだ。昨日からお気に入りになってしまったようだ。
うーん。購買に抹茶の粉だけ置いてもらえないか聞いてみるか。製菓用にも使えるしな。今は持参のコップに魔法でチョイチョイと水を入れて飲んでいる。
「平和にゃんね〜。こんな時は何か起きるにゃ
ん」
昨日の今日で何か起こるわけないだろう。そう思った時――。
コンコンコンコン――ガチャ! と大きな音がして扉が開いた。




