18.審査のお時間
テーブルには、できたてほやほやのお団子たちがずらりと並べられている。
お腹がいっぱいになって全部食べきれない、ということがないように、四等分されたものがたくさんの紙皿に置いてあり、番号とバリエーション豊かな団子名が書かれている。それらをバイキングのように全員が回って食べる形だ。
俺たちの分は、小さな紙皿に乗せてテーブルまで運んでもらった。二十人ほどの生徒が作ったものの、四等分なので分量としては一人あたりお団子五個分。女子でもどうにか食べられるだろう。
ま、形状がお団子ではないのもあるけどな……。それらを含めると、もう少し増える。
お団子はジャパリス国からもたらされた食べ物だ。ベル子の住んでいた国もジャパリス。ほぼ、ベル子のために開かれたんだろうな。
しかし、ここにあるメニューはさまざまだ。チョコ団子、ピザ団子、フルーツ団子、チーズあん団子と見た目だけはお団子なのはまだ安心感がある。団子入りパンケーキや、コーヒーにぷよぷよ団子らしきものが浮かぶ団子クリームラテ。団子とはなんだっただろうかと考えたくなるラインナップだ。どう考えても生徒たちが冒険している。
俺たちまで冒険に巻き込むな!
と、言いたいところだが、ワクワクしてしまうのは止められない。
闇鍋ならぬ、闇団子だな!
「どうぞ、召し上がってください。ベル子さんにはこちらをご用意させていただきました」
「あ、ありがとう。嬉しい」
ジャパリス国の箸だ。俺だって使えるんだぞ! とやりたいところだけど自重しよう。
普通のお団子なら手で食べればいいものの、お団子トーストやらなんやら形状が千差万別だからな。全員にスプーンとフォークとナイフが配られている。
セヴォルトに促され、いただきますと全員が食べ始めた。まずは無難そうな、あんバター団子だな。
「……うまっ! これは美味い。なぜか懐かしい味がするな」
「そうね、なぜか懐かしい味がするわ」
俺とラビッツの言葉を受けて、皆からも感想の声が上がる。
「これは、もちもち具合が絶妙ですわ」
「美味しいにゃん。もっと食べたいけど他にも食べないとにゃん。悩ませる一品にゃん」
「おっ、これは焼きたてピザっぽいな」
「はわわぁ、チーズと炙り醤油は新しいですね。美味しいです」
「抹茶団子、好き。この国に戻って一度も食べてない」
「この前、お聞きしましたからね」
やはり、台車レースの帰りに色々と質問されていたっぽいな。セヴォルトはベル子推しか。
「次は、これにするにゃん! ……にゃっ、しゅわしゅわにゃん!」
「炭酸レモン団子ね。確かに新感覚だわ」
ちょっとした魔法で炭酸を閉じ込めた商品が使われているようだ。商品名は『シュワたま』で購買に売られている。生徒のアレンジ魔法ではないからセーフだろう。
王子をやっていると、変なものを口に入れる機会がない。こんなにワクワクしながら食べるのは初めてかもしれない。
「それでは、参加者の皆さんも自由に食べてくださいね」
セヴォルトの声に、俺たちの反応を気にしながら生徒たちも動き始めた。俺たちが自分の作品のお団子に口をつけている様子を見ると近くに寄ってきて、「美味しい」という言葉を聞けば「自分が作ったんですよ」と話が弾んでいる。
「本日はご参加いただいて、ありがとうございました」
セヴォルトが挨拶に来たので立ち上がる。そのままでいいと言われたものの、さすがにそれは気まずい。ラビッツも俺に合わせてサッと立ち上がった。
「いや、こちらこそすごくいい経験ができて感謝するよ。仲間たちも楽しそうだ」
「ありがとうございます」
「これを機会に、同じ学年の他の女性とも交流を深めたらいいんじゃないか?」
「え?」
ルリアンとベル子は友達を欲しているものの……男に偏りすぎているからな。
「トラに予定を伝えれば、大いに宣伝してくれるはずさ。その時には、ルリアン嬢とベルジェ嬢のことも気軽に誘ってやってくれ。個人的にで構わないよ。おかしなことに巻き込まれないようにだけは、気をつけてほしいけどね」
「はい! イベントとして何かを催す時にはお誘いします。もちろん、ニコラ様とラビッツ様も」
「そうだな。俺たちがいると気を遣わせるかもしれない。参加するかは分からないが、イベント内容は先に教えてくれると嬉しいかな」
「はい、そういたします」
ゲームでは、発生するおかしなことなんて限られている。でも、ここはリアルだ。よく分からない場所だけど、生活できている以上もう一つの世界だといっていいだろう。事前にある程度は知っておきたい。
「貴族はさ、こういった冒険心溢れる食べ物を口にする機会もないだろう?」
「はは、そうですね」
「台車レースの先輩たちのようにさ、俺たちの学年も、身分関係なく早く仲よくなれたらと思うんだ。早速君はこうやって、みんなが楽しめるような機会をつくってくれた。これからも期待しているよ」
「は……はい! ありがとうございます!」
「ああ」
一礼して立ち去ったのでもう一度着席する。よし、次は冒険心たっぷりのお団子にするか!
「ニコラ」
「ん?」
なぜか、さっきよりもラビッツが近い。椅子ごと近い。
「私も……頑張るわ」
「へ?」
何をだ?
クッキーはもらったから……。
「いや、次はやはり俺の番だろう」
「え???」
「といっても料理は、前世で家庭科実習とその前日の家での特訓でしかやったことがないからな。得意料理は、冷やしミカンだ」
親指を立ててキラリと笑ってみせる。
「冷やしてるだけじゃない」
「そうとも言う」
「って違うわよ、もー」
笑いながら、 ラビッツが迷うように炭酸レモン団子を少しだけ齧る。「ほんとだ、シュワシュワ」と食べる仕草が、どこか色っぽくてドキリとする。
「あんたの……ね」
「ん?」
「隣に、自信をもって立てるように頑張るわ」
「……え? もう自信はもっていいんじゃないか? 世界で一番可愛いぞ」
「た、例えば、語学は苦手だったりするけど頑張る。他にも全部全部、妃教育は苦手だったけど頑張るわ」
語学……。今は転送装置があるから、地理的に離れている国との交流も結構ある。通訳はいるものの、話せたほうがいいのは間違いない。日々の練習が大事だと、毎日書類を寮まで持ってくる侍従と外国語で話す時間まで強制的に設けられている。
寮に戻ってからも、完全に休めるわけなじゃないんだよな……。前世よりも倍以上、頑張っている。
「突然どうしたんだ? 語学には俺も苦しめられているけど」
「あんたって、すごく王子様なんだもん」
「え?」
「どうしてそんなに王子様なのよっ」
どういうことだ?
確かに王子らしい対応を親しくない生徒にはしているし、それも慣れてきた。
ただ、身分という虎の威を借る狐だ。それがなくて、どこにも所属していなければ……誰も俺の言葉なんて聞いてくれない。おそらく前世と大して変わらないだろう。
「負けないんだからね!」
そう言って、ラビッツが俺の皿からピリ辛団子を手に取ると口に押し付けてきた。
「むぐっ。ピリ辛だ」
あれ、もしかしてさっきのクッキーもこのピリ辛団子も、「はい、あーん」の図なんじゃないか!?
「俺も『はい、あーん』がしたい」
「は、はぁ!?」
「ラビッツ、あーんだ!」
にんじん練り練り団子が、俺の手から少しだけ彼女の口の中へと移った。
「あんたって、おバカなのかおバカじゃないのかよく分かんないわね……」
ラビッツが、俺の手からにんじん団子の一部を切り取ると、また俺の口の中へと放り込んだ。
今俺は、好きな女の子と食べさせ合いっこをしている……!
浮かれて弾けて、おかしくなってしまいそうだ。




