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転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜  作者: 春風悠里


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17/20

17.慰労会

「どうしてこうなったんだろう」


 家庭科実習室のお客様席で、『学園パトロール隊慰労会』の垂れ幕を見ながらリュークに問いかける。金をかけている学園だけあって、テーブル席エリアまで用意されている。

 

「たぶんお前のせいだろ?」

「リュークたちは台車レースの時、先に戻ったじゃないか。むしろ、その時になんかあったんだろ?」

「特には……あの侯爵家の次男、セヴォルトに『ベル子とルリルリの親衛隊をつくってもいいか』と聞かれたくらいだな」

「それだろ! 早く言えよ!」


 思いっきりファンクラブじゃないか! しかもルリアンまで!? やはり前世で人気のあった二人は男心をくすぐるのだろうか。


「冗談だと思ったんだよ……」


 原因をつくったのはお前だろうという目で見られる。あのあと、どんな会話があったんだ。


 無事、変顔選手権イベントは起こらなかったようだ。顔が固定してしまった奴らが仲間と共に旧校舎に駆け込んでくるはずが、まったく来ない。おそらく俺たちの知らない間に、ただ皆で変顔をして遊ぶだけのイベントに変化したのだろう。


 問題は、ロシアンルーレットお団子事件だ。これが……おそらく、この学園パトロール隊慰労会に変化した。


 慰労されるほどの活躍はしていない。なにせ俺らは入学したばかりだ。単に「ルリルリとベル子に美味しいお団子を選んでもらおう審査会」とあからさまにするのはよくないと、パトロール隊を巻き込んだのだろう。


「ルリルリさん、もうすぐできますからね!」

「はい、楽しみにしています」

「ベル子さんっ、たぶん会心の出来ですよ」

「うん。頑張って」


 隙あらばあの二人に話しかける料理好き男子たち……。俺たちと同学年の侯爵次男、セヴォルトが友人に呼びかけたようだ。


 今回は一年生の方が多い。ちょうど新入生たちが仲よくなってきたところで、可愛い同学年の女の子と仲よくなれるチャンスをセヴォルトが持ってきた、というところだろう。


 そんなわけで、慰労会だというのに最初に自己紹介までした。そしてどうやら、しゃべる猫であるトラを気になっていた奴も多かったらしい。


「ほんとにトラさんは、なんでも食べられるんです?」

「にゃーは特別な猫にゃん。なんでも持ってこいなのにゃん」

「だそうよ。私が保証するわ」


 トラもマスコットキャラとしてチヤホヤされている。丁寧語で話しかけられているのは、オリヴィアが抱いているからだろう。王子である俺の仲間だという認識のせいもあるのかもしれない。


 オリヴィアも貴族以外の生徒が話しかけにくい雰囲気をまとっていたものの、トラのお陰で他の生徒とも交流をするようになってきたようだ。


 隣にいるラビッツに話しかける。


「ラビッツ、ごめんな。お前に話しかける男がいないのは俺の婚約者だからであって、モテないわけじゃないからな」

「はぁ!? 分かっているわよ。なんなの、私が物欲しそうにしていたっていうの」

「い、いや、一応フォローしておこうかと」

「いらないわよ。うるさいのよ」


 機嫌が悪いな。なんだかんだ言って、やっぱりモテたいのか?


「ニコラも……食べるのよね」

「まぁ、そうなるな。生徒の手作りではあるけど、事前に知らされていたからな。黒子が下調べはしているだろう」


 さすがに、学園に毒見役はいない。おかしなものを生徒たちが入手していなかったか、調査はされているはずだ。


「あんた、クッキーは好きなの」

「へ? クッキー? まぁ、甘いものは好きだな」

「それなら、まずはこれを食べなさいよ」

「???」


 突然ラビッツの顔が赤くなって震える手で鞄から小さな紙袋を取り出すと、そこからクッキーを一枚、俺の口に押し付けた。


「んむっ……モグモグ。んまい」


 しかし、これから団子を食べるのになぜ……。

 

「そう。か、勘違いしないでよね。他の男子に先を越されたくなかっただけなんだから」

「!?!? ラビッツの手作り!?」


 寮には生徒用の調理場が開放されていて、予約表へ記入すれば自由に使える。男女は食堂だけが共通で、それ以外は別だ。女子寮の調理場の利用状況は知らない。


 まさか、そこを使って!?


「い、一応そうね」

「美味すぎる。最高だ。惚れた。いや、前から惚れてたけど惚れた。全部くれ」

「今からお団子を食べるでしょう。さっきも言ったけど、先を越されたくなかっただけなんだからっ」

「分かった。あとで味わって食べるから全部くれ」

「……仕方ないわね」


 小さな紙袋には六枚ほど入っている。


「他の奴にもあげたのか?」


 さすがにクッキーを作って六枚にしかならないことはないだろう。女子寮で作ったのなら、ルリアンたちに配ったのだろうか。すごいな。こっちの世界では侯爵令嬢。料理を嗜む機会はなかったはずだ。


「ち、違うわよ! あんたにしかっ……あ、味見しすぎたのよ。それに、場所によって少し硬いところもあって……。あ、硬いって言ってもね、少しだけよ。釘を打てるくらいにはなっていないわよ」

「釘を打てるクッキーはないだろう」

「何言ってるの、思いっきりあるわよ。失敗すると歯が砕けそうなクッキーになるのよ」

「……失敗したのか?」

「あっ」

「それも欲しかったな」

「ちゃんと自分で食べて、もう一回作り直したわ」


 俺のために作り直しまで!?


 ラビッツの背後に後光でも見えるようだ。もしかしなくても俺は今、前世も合わせた人生の中で初めて女の子の手作りお菓子を食べるの図になっていたのかもしれない。お団子なんて放っておいて、今すぐクッキーを全部食べたい。


 ラビッツの手がまだ少し震えている。なぜか涙目にもなっている。


 あ! もしかして、お世辞かと思って震えているのか!? そうだよな、一度歯が砕けそうなクッキーを作ったのなら、不安に思うのも当然だ。


 女心の分からない自分が歯痒いな。


「ありがとう。まさに奇跡を閉じ込めたような美味しさだよ。口の中に春が訪れたようだ。こんなに美味しいクッキーを食べたら、もう君以外が作ったクッキーなんて食べられない。ラビッツ、君はまさに――、」


 バシーン!


 扇子が降ってきた。


「おおげさ」

「理不尽だ!」 


 とりあえず、手の震えは収まったようだ。女心は分からないが、それでよしとしよう。

 

「ラビッツ、好きだ」

「……し、知ってるわよ」

「女の子に手作りお菓子をもらったのは人生で初めてだ」

「あっそ。よかったわね」


 俺を睨む顔も、その全てが愛おしい。次に何を言おうか迷ったその時。


「お待たせしました! 全員、出来上がりました。いよいよ、審査のお時間です!」


 進行役の侯爵令息、セヴォルトが声を張り上げた。



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