再開と異世界生活の始まり
「ん...」
目を開けると宿屋ではないどこかに俺はいた。しかし、見覚えのある景色が広がっていた。身体を起こすとそこには、見たことの無い機械、金髪のシスという女性。間違いなくここは『狭間』だ。
「俺は死んだのか?」
「いいえ?私が転移させましたが?」
何を言っているんだこいつみたいな顔で見られている。非常に納得がいかない。
「それで、俺を転移させて何の要件だ?」
「まさか黒幕はもう殺されたから地球に帰っていいとかなら俺は喜ぶんだが。」
冗談半分期待半分で聞いてみた。
「いいえ。黒幕は生きています。」
だよなぁ。そんなにすぐ死ぬなら俺要らないもんな。
「用事というのは、ウェルバスの件です。」
「そういえば聞いたこともない言葉を話していたのに俺には日本語に聞こえるような感じになっていたな」
「それは私がしたおまけです。」
「さすがに言語が通じなければ何も出来ないでしょう。」
「それともうひとつ、おまけがあります。」
「それは時期に分かりますので、説明は良いでしょう。」
「本題に戻ります。ウェルバスというのは本来、10の国とその他小さな町や村からなる世界です。」
「ですが現在、4つの国が何者かにより侵略、略奪、崩壊に追い込まれ、滅びました。」
「あなたにはその黒幕を殺して欲しいのです。」
用事っていうのは黒幕のことを話すことだったのか。確かに俺には黒幕の情報どころかウェルバスのことが何もシスから伝わっていなかった。そんな状態だと黒幕どころか野垂れ死にするかもしれない。彼女なりの優しさなのかもしれない。
それにしてもこんなに簡単に転移出来るのか...
「話はそれだけか?」
「用がないなら宿屋に戻してくれ。」
「エンが宿屋で待っているんだ。」
「エン?」
「あぁ、賢者の子ですね。」
「あの子はまあ大丈夫ですよ。」
「ん?それってどういう....」
「時間ですね。転移させます。」
「おい、ちょっと...」
目の前が真っ白になって、気がつけば宿屋に戻っていた。全く、自由な女神様だ。
それにしてもエンは大丈夫...?
分からないことが増えただけじゃないか。
【踊り子】についても何も聞けなかった。
そう色々考えていると戸が元気よく叩かれた。
「TAKUさん!起きてますか?おはようございます!」
エンだ。朝から元気なもんだ。俺はベットから降りながらエンに返事をした。
「起きてるよ。おはよう。」
支度を終わらせ、外に出た。
エンは俺と一緒に居ても良いのだろうか?
「エンちゃん。俺と一緒に居てもいいのかい?上位ジョブなんて引く手あまただろう?」
「私はTAKUさんと一緒がいいんです!なんだか面白そうだし!」
思わず笑みがこぼれた。全く、何を考えているか分からない子だ。
「それじゃあ今日は何をしようか。」
「私とチームを組んで依頼書をやりませんか?」
依頼書と言えばまあ日雇い仕事みたいなもんだろう。魔獣討伐や探索かな?少し楽しみになってきた。そう思い俺は返事をした。
「いいね、そうしよう。」
「まずは、ギルドに行きましょう!」
雑談をしながらギルドに向かうことにした。
....
....
....
10分くらいで着いた。エンと話しながらだから意外とすぐに着いた。中に入ってすぐにエンがこう言った。
「貼り紙を受付に持っていくんです」
「最初なので簡単な魔物討伐にしましょう!そうですね.....」
「これにしましょう!」
元気よく貼り紙を俺に見せてきた。
内容はこうだ、
依頼書
魔物討伐
依頼主
ギルド本部
内容
リスクの森に出てくるスライムとゴブリンの討伐、その後亡骸を持ってギルドに到着
成功報酬
亡骸2つにつき銀貨3枚
と書いてある。銀貨というのはこの世界の通貨だろう。これはどのくらいの給料なのかよくわからない。
「いいんじゃないか?簡単そうだし、俺たちでも行けそうだな。」
「では早速向かいましょう!リスクの森へ!」
着いた。ここがリスクの森か。見たところ普通の森だな....そんな考えはすぐに無くなった。なぜなら水色の半透明の物質がベチョベチョ音を鳴らして近づいてきていたからだ。これがスライムか。
「エンさん!私はどちらかと言うと後方支援がメインなので戦いはお願いします!」
「え?俺ジョブすらよく理解できてないんだけど!?」
ジョブを授かった時に貰った短剣でやるしかないか。そんなことを思った時、俺の持っていたジョブを示すペンダントが光を放った。
(なんだ...?)
何が起こったか分からず混乱していると、脳内に音楽が流れ出した。この曲は俺のダンスで一番得意な曲だ。
(踊りたくなってきたな....)
無意識にブレイクダンスのステップを踏んでいた俺は曲に合わせて技を始めた。
(ここはウィンドミルで...)
そんな時だった。ウィンドミルをした瞬間、スライムが攻撃をされたかのような動きを見せてから、倒れていた。俺もエンも何が起こったか全く分からなかった。
(もしかして...)
シスの野郎がおまけしたって言うのは間違いなくこれだろうな。恐らく、ジョブにテコ入れしたんだな。俺が前世はダンサーだったから【踊り子】ってか?単純な野郎だ。だが、俺にもってこいのジョブだな。
そんな時、エンが驚きと不思議を混ぜたような顔で聞いてきた。
「TAKUさん。今のは....?」
「TAKUが回ったら敵が倒れましたが...」
「今のが【踊り子】のスキルなんだろう。恐らく俺が踊ればそれが攻撃になるんだ。」
「それが【踊り子】ですか...」
エンの驚きはごもっともだ。だって持ち主の俺ですら驚きが隠せない。だが、これだけなんだろうか...?シスはこれだけでおまけを終わるとは思えない。
「TAKUさん!次の敵ですっ!」
エンが指さした方を見ると緑の体をした人型の魔物が居た。しかも3体も。どうしようか。
そんな考えをしているさなか、俺の脳内にまた、音楽が流れ出した、曲が変わっている。曲は固定じゃないのか。
(この曲はフリーズの音ハメが気持ちいいんだよね)
なんて考えの中、敵の攻撃をステップでかわしながら、バチッとジョーダンでフリーズを決めた瞬間だった。ゴブリン3体が吹き飛んで倒れていた。
「TAKUさん。今のももしかして...?」
「恐らくそうだろうね。」
もしかしてシスはなかなか化け物級のジョブを俺に渡してきたんだろうか。上位ジョブとか言うのより下手したら強そうだが...
「まあいいや。この亡骸ギルドに持っていこう。」
「はい!」
ゴブリンとスライムの亡骸をギルドに持って行って銀貨合計6枚を受け取った。俺とエンで3枚ずつ分けて今日は終わった。本当はエンに全部渡したかったんだが、エンが頑なに半分分けようとしたので受け取ることにした。
「今日は疲れましたし、宿屋に戻って明日、また色々やりましょう。」
「そうだね。そうしよう。」
宿屋に戻ってから俺はすぐにベットに転がり込んで頭を埋めて考えていた。【踊り子】のスキルの発動条件、脳内に流れる音楽、そしてあの攻撃力の異常な高さ、そして黒幕やシスの発言、分からないことが増えてこんがらがって来た俺はシスにもう一度会えたらなぁと薄い希望を考えていたさなか、俺の意識は夜の闇に落ちた。
黒幕の正体、シスが施した「おまけ」の正体、シスの発言がわかるタイミングが来ることなんて、未だに誰にも知る由もないのである。
最後までご覧頂き、ありがとうございます!
素人ながら頑張って書いているのでこれからも見ていただけると幸いです。