第九話
相手の素性を探るなんてのは本当にいやらしいことだと思いつつも、これから一緒に過ごしていく上ではちょっとくらいは知っていってもいいじゃないかと俺は
自分に言い訳しつつ、ミノルの身元調査の口火を切った。
すると聞いた瞬間、ミノルは開始早々
「ワタシハロボットデス」
なんて言うもんだから正直ビビった。
もし先刻のセリフを真面目な声で言っていたら正直信じて、話を続けていたことだろう。
俺は咎めるような目でミノルを見ると、彼女は少し反省したようで改まってこう言った。
「はい、私は私自身の事を何者かはよくわかりません。だけども自分がロボットでないということも証明できません。
旦那様が私の事情をお知りになりたいのはよくわかります。が、私はそれを満たすような回答はできないと思います。
私からは以上です。質問があれば何なりと聞いてください」
勘定の落差が激しいやつだと一睨み。
するとミノルはようやく気付いたのか、口の端についていた米粒を舌先でペロリとほおばった。
こうなると真面目に話しているのか本当にわからなくなる。
だがこうやって質問に答えてくれるのならば真摯な対応をしたいというのは見受けられる。
さて何からと問おうか。
まずはそうだな。これか。
「お前の性別を知りたい。社会的な性別でもいいが、まぁつまりだな、ちんp」
「女性です。ジェンダーに関して言っても女性です。あとこれ以上下ネタ言うと、私の右腕から旦那様へパンチが飛んでくるかもしれませんね」
ニコリ、前置きのセリフがなければ最高の笑顔だった。
やれやれ、彼女の警告を頭の隅で意識しつつ俺は質問を続ける。
「じゃあ年齢と体重を」
バチーン!
本当にパンチが飛んできた。
そういえば女性に体重と年齢を聞いたら失礼とかいうのを聞いたことがある。
「失敬」
俺はそう言って平謝りすると、彼女は落ち着いて右腕を膝の上に置いた。
ふぅ、危ない危ない、もう失礼なことは言わないようにしないとな。この世にアンパンマンは二人もいらん。
「生まれの国はどこだ?」
「おそらく日本だと思います」
まぁ、英検三級の俺と話せているのだからそれはそうだろうな。
想定範囲内だ。では次に………
「家族構成について教えてくれ。あー施設育ちだったらそれでもいいぞ」
「フハハ、悠長なものだな、お前も」
「!?」
俺は突如語調が変わった目の前の彼女に驚きを隠せなかった。
よく見ると目が白目である。
一体何なんだ!?
「いったい何なんだ!?って顔をしているな、おそらくだが。ふふふ、まぁそう驚くことはないぞ。なぜならお前は別世界の俺だからだ。なにやらこいつにいろいろ聞いているみたいだが
キチンと俺が説明した通りじゃないか、こいつはロボットだ。まぁお前のその様子をこいつを通してみる限り、こいつを処分する気はないらしい。
俺も俺で色々と手を汚すにも周りの目があるし、難しいんだ。
まぁこの天才科学者の手に抱えればこいつを遠隔で爆発させるのも簡単だが、それには機材がいるし周りから不審に思われるからできない。
だから別世界のお前に頼んでいるんだ。わかるだろ?
なぁこいつには凄い爆弾が仕掛けられているんだ、それも地球を滅ぼすレベルのだ。
この天才科学者の俺でさえ手違いというものがあってな、この不良ロボットの転送場所を焼却炉じゃなくてマルチバースに飛ばしてしまったのだ。
こんなことが分かれば俺はタイムパトロールにぶっ殺されること間違いないんだよ。
だから俺も急いで回収しに行ったのだが、行方が分からないんだ。
なので俺はこの別世界線のお前のこともこのロボットの事も何も知らない。
このロボットを通しての会話で推測するには情報が少なすぎるんだよ。
東京駅ってワードで前袴をかけてみたが、大成功だった、そうだろう?
ほら、頭いいだろう、俺?
そんな別世界線の転載の自分をほおっておいて良いのか?ククク、わかるだろう?
まぁ、そんなわけで壊せるときにはいつでも壊してくれ。頼むぞ」
言いたいことを言ってその別世界線の俺とやらは消えた。
というか喋らなくなった。
ミノルは少しの間、意識をぼっーとさせてたがやがて目を覚ましたように
「あれっ!?私、また変なことを言ってませんでしたか!?」
また、ってことは前もあったのか。
可愛そうに。
でも示し合わせれば別世界線の俺とやらにもこいつを手渡せるのか。
…いや、だめだ、アイツは危険すぎる。
少なくともミノルを殺す気でいるんだ、彼女にはそういう目を合わせるわけにはいかない。
「あのー、大丈夫ですか?私、そんな変なこと言っちゃいましたか?」
目をあげると、怪訝の表情で俺をした目で見てくるミノルがいた。
「しーんぱーいないからねっと!大丈夫だ、ミノル。お前のバストが知れただけでも素晴らしいよ!あっはっは!」
歌、そしてギャグ。
場を和ませる三種の神器のうちの二つにそれは入ると思うのだが
ロボットにはそれが通用しないらしかった。
俺は世界で二人目のアンパンマンになってしまった。トホホ。