第六話
「起きてくださーい!!広義的には朝ですよー」
むくり、と起きて顔を手で拭うと、手のひらには水が浮かんでいた。
また上にある時計をじっくり見るともう午後二時である。
うむ、思えばミノルが俺に暴力をふるったことなど一度もないし、ああいうめんどくさい女の口調は禁止したはずなので
あれは夢だったんだな。
俺は真横でじっくりとまるで猿でも観察してるような目で俺を見つめてくるミノルを無視して、手の指で歯をつつーっと横撫でしてみる。
すると指先には歯垢がびっしりとついた。
パンの食べかすなど一つもない。
そんな冷静な対応をしているのもつかの間、俺は慌てて呆然としているミノルの手を引っ張り部屋を出る。
そして家を出る。
バイトの時間がヤバいのだ。
そんな出かける服装など愛目にもいれん。
パパッと出かけて、戻ってくればいいだけだ。
「な、なんで!ちょっと、待ってください!は、速いです!」
後ろからははっはっ、と弾んだ息が聞こえるが、俺は気にせず走り続けた。
向かう先は駅にあるちょっと洒落たデカいユニクロである。
夢ではもうとっくに無地Tを買っていたが、あんな黒い布を俺がなぜ買うというのだ。
だったらもっといいものを買ってやる。
「さあ、ついたぞ。ユニクロだ。というかそれ以外俺の知る服屋は西松屋しかない。諦めろ」
そう言うと、ミノルはもじもじとしながら
「いや、別にそんな服屋さんがどうとかは良いんですけど………その………」
「ん?なんだ?じれったいな、はっきりと言え!」
するとミノルは急に俺を引き寄せ、耳元で発するは
「あの、私、パーカーしか羽織ってないんです!だからほぼ全裸………」
「む!?!?!?!」
ここは秋葉原か!?
いや、違う。
普通の東京駅だ。
なのになんでこんなにもカメラ小僧に囲まれているんだ!?
俺はあまりの事態に一時動揺しながらも、すぐさま機転を思いつき、そこからミノルの手を引っ張り、その群衆を抜け出した。
多目的トイレに一時いてもらい、俺がその間ズボンとパンツを買ってくるという作戦だ。
そうして駅構内のトイレにつくと
「ふー、もう安心だぞ、ミノル。大丈夫だったか?」
と言いながら振り向くと
「え、拙者そういう趣味はござらんので、、デュフフ」
と気持ち悪い笑みを浮かべる尾田のようなオタク、しかも腹が妙にデカく、デブな男がそこにいた。
「デュホッ!?!?!何をすっ!?拙者、SMにも興味は!?」
「黙れ!どけろ!」
俺は慌ててそのオタクを弾き飛ばして、さっきいた場所にまた戻ると、そこにはまだ群がるオタクたちがいた。
俺はその中の一人にミノルはどこに行ったか話しかけたが
「ああぁ!!君は!!あの子をどこにやったんだい!?僕がナイスショットで撮って上げたのに!ひどいじゃないか!連れ去るなんて!」
「………え?いや、だから俺はあいつを探してるんだが」
「なんだって!?だって君、あの子の手を引っ張って言ったじゃないか!僕はちゃんとこの眼鏡越しの目で見たぞ!」
するとほかのオタクたちも同調し、あの子をどこにやっただの、そうやって問いただしてきた。
俺は訳が分からず、いったんそこを抜け出すも、オタクたちは追いかけてくるので俺は非難してもう一度多目的トイレに飛び込むと
むしろそっちからドアが自動的に開いて
「あぁ!旦那様ぁ~!!怖かったですぅ!!」
と胸に飛び込んでくる女が一人、ミノルだった。
「あぁ、待ちたまえ、かわい子ちゃーん!」
続いてオタクが登場した。
俺はそいつの顎にけりを入れ、黙らせまた俺の胸でなくミノルを抱きしめた。
俺の頭はますます困惑したが、とりあえず多目的トイレ室内にはいり後ろ手で鍵を閉める。
「あの、さっき私を腹の中に入れてた、あの人から伝言です。なんかその人、男の癖に妙におっぱいがデカくてキモかったです」
最後の変な感想はとりあえず無視して、俺はミノルからそのオタクからの伝言をもぎ取った。
その紙にはこう書いてあった。
「おい、お前、すぐさまこのロボットの心臓を貫け。さもないと地球は爆弾で粉々になるぞ。
俺は別世界線の俺だ。しかしあのデブの奴は仲介人だ。勘違いするなよ。いいか、俺は忠告したからな。
今は忙しくて手が離せないが、そのうちこの手で北条ミノルを抹殺する。
まぁお前がそのロボットを殺してくれれば訳はないのだが、まぁこんな出会い系サイトで釣ったこの紙を握らせたオタクたちをまた召喚されたくなかったら
精々善処することだな。
はっはっは。別の世界線の俺の頭がいいことを信じて。
By 頭のいい方の俺」