第五話
朝、雀の鳴き声で目覚める。
こんなかすかな音で目覚めるくらいだ、余程緊張していることがわかるだろう。
「おはようございます!旦那様!」
目覚めのキス、それは朝体を起こすとまるでラッキースケベのように訪れるもの………ではないだろう!
もっとこう新妻がなまめかしく、かつ結婚した同氏なのに初々しくやる神聖なモノであって俺は断じてこの
朝から俺の枕元に顔を近づけてきて自分からマウストゥーマウスを挑んできた俺を勝手に旦那様とかいう野郎を妻とも
ましてや今朝の胸のドキドキを醸し出した本人ではないと堂々、胸の内で己に対して宣告する。
よって俺はそのペットとの朝からの接吻を軽く流したうえで、人知れず勝手に頬を赤くしてる間抜け面のそいつの首元を掴み
一階へと降りていく。
む、朝食はもう先ほど一回に降りて真っ先にシャワー室へとぶちこんでおいたペットが支度してくれていたようで
ありがたくも一人勝手にそれを頂戴、するわけにはいかないだろう。
俺はシャワー室へと出戻り、軽く謝罪と感謝の意を述べつつまた全裸のそいつをシャワー室から引っ張り出しタオルで洗ってやろうとすると
「それくらいいです!というかなんですか、その緊張感のなさは!もっとこうどきどきとかないんですか!?
もう勝手に食べててください!」
とタオルをもぎ取られ、また洗面室から追い出された。
そういう気持ちにさせたのはお前だぞ、なんて言ってやりたかったが朝食を作ってくれた音もあるので黙って部屋を出ていき
おまんまをありつくことにした。
あ、朝からトーストとは。いかん、俺の食生活は和食から始まるというのに!
俺はキッチンから醸し出されていたベーコンエッグでそのご飯が洋食ということにきづくべきだったのかもしれない。
先ほどのあのペットを怒鳴りつけなかった俺の良心、なんと儚いものであるだろう。
意味のない善意ほど空回りして虚しいものはない。
こうなってくると自分の面子と言うよりもその儚く散った良心への弔い合戦という意識の方が高まる気がしてくる。
よってゆでだことなってリビングに上がってきた半裸の女………ってアホか!
「おい!お前!なんで半裸で上がってきた!というか床に水の後がついてるじゃないか!小学生じゃないんだから、もっとこうちゃんとしろ!間抜け!」
朝食が洋食の恨みをここで晴らしておくことにした。
すると折檻された女はシャワーの水で濡れたのであろう目をぬぐいながら
「ひどいです!私、もう小学生じゃないのに!なんて言いぐさ!男女差別ですぅ1うわああああん!もう今日デートしてあげないですぅ!というか今日の旦那様テンションがおかしいですぅ!」
そういう単語で区切った言い方をするからいかんのだ、こいつは。
全く。そうわめきながら泣き吠えるそいつの伸びる触手を俺は華麗に払いのけながら、ミノルの体をもう一度洗面室へとカムバックしてやり
また前日に買っておいた、ユニクロの無地のtシャツを着せてやる。
するとミノルはみるみるうちに喜びの表情を見せ
「あぁ!初めてまともな服が着れて嬉しいですぅ!やったぁ!」
とさながらクリスマスにサンタにプレゼントをもらった子供のようなリアクションを見せる。
だがそのいいようにとげがあったので、こちらも返さずにはいられなかった。
「おい、なぁにが初めてまともな服を着れただ。じゃあ、その俺の友人たちと一緒に行くときもその服でいいな?」
と俺も朝の出鼻をくじかれて、テンションが下がってしまったのでもうショッピングなんて行く気がうせてしまっていたので軽やかにそういう意向も示すと
その対面するキャンキャンと吠える子犬のような人間は本当に犬のようにかぶりを振って
「ダメですぅ!ダメですぅ!これでも十分ダサいですぅ!でも旦那様の服がもっと、、、個性的だからいけないんですぅ!」
「死ね」
俺は単刀直入にそう申すと、また朝食も席へと戻る。
また遅れてやってきたミノルは洗面台を持ち、またその容器にたまりにたまり切った冷たい冷水を俺にぶちまけてくれやがった。
「えへへー。女の子にそんな言葉は使っちゃいけないんですよぉう?」
俺はもうテンションというものを知らなかった。
代わりに俺は今まで十九年「人間」として生きてきた中でこれほどまで女に殺意を持ったのは初めてだった。
とりあえず濡れてビショビショになったパンをほおばり終える。
うむ、世界の食糧問題はまだ解決されていないのだ。
未だ新聞とかいう奴ほどネットのまとめサイトとかそういうくだらないものしか見ていないのを俺は知っている。
ということで俺は新聞で読んだ地球の問題について考えつつ、またその問題をささやかながら解消して見せる塵も積もれば山となる精神を誰ともなく食で見せた。
最後に黄身もくそもないエッグをずるずるとすすって、さあ戦闘開始。
相手は赤コーナー、、、いない。
ひらひら、と頭の上から紙が舞い降りてくる。
紙にはこう書いてあった。
「こんな男女差別をする関白亭主のようなケダモノと一緒に住みたくありません。よって家出。オーバー」
言葉の節々から年代が風紀させられるその文章を読んでいると
後ろから衝撃が走る。
衝撃と言っても色々あって、それは耳への攻撃、つまり大音量でこう耳元で叫ばれたのだ。
「ばあああああああか!!!!」
ギャース!
これまた俺もいつの時代かも分からない叫び声をあげながら、悶えまた二度目の眠りへと入った。