第四話
「えー困りますぅ!私、そんな着ていく服なんてないですしぃ…」
「…おい、お前、その喋り方キモいからやめろ」
「えー、ひどいですぅ」
「それだよ!それええ!」
全く、誘ってみるとこの言い方だ。やりきれん。
だが、俺はご飯を一口、二口と口へ運んでいくとその思いも緩やかに消滅しもう一度誘ってみることにした。
「ううむ、そうか、服がないのか。お前、この家に来た時はなぜかボロボロで何も持ってなかったもんなぁ」
しみじみと思い出していると、そんな俺の余韻などお構いなしにキャンキャンと喚く同居人。
「そうなんですよ!こんなこと言ったらなんですけど、旦那様からもらったパーカーダサいです…こんなの着て外に出たくないです!」
「え、マジで…?」
なるほど、ショック、じゃなくってこいつがなんで外に出たがらないのかその理由がたった今ようやくわかったかもしれない。
だが、俺のファッションがそんなにズタボロに言われるほどのものではないと、自負しているので俺は食い下がってみることにした。
「いやぁ、そんなにダサくもないだろ。迷彩柄で自衛隊っぽいけどさ、そのオリジナリティがあって…」
「いえ、ダサいです!」
食い気味で、しかも言い切られた。
俺は凄く傷ついた。
しかしここまで言われて俺は引き下がって夜な夜な女々しく枕のシーツを濡らすような男なものか!
やれやれ、思い知らせてやるか…
「ふ、ミノルよ。お前にはそのパーカーしか与えてなかったがほかの俺の私服ならばどうだ?
ぶっちゃけ俺は金欠であまり服なんぞに金をかけられんのだ」
と言って俺は後ろのタンスに手を突っ込み、とある服を取り出す。
「そうだ、これなんかどうだ!少し黒一色っぽいが、服の中央に英語のかっこいい文字が入っている。確かに女の人が着るには少々かっこよすぎるかもしれないが…」
「ダメです!」
また食い気味である。
「理由を言ってみ…」
「まだ無名の英文ならわかるんですが、誰がクラーク博士のあの名言を中央に添えた服を見て笑わないんですか。
というかフォントがダサすぎます。背景のクラーク博士っぽいシルエットもチープで中学生が着そうな感じがにじみ出ててとてもじゃないですが…」
「うるさあああああああい!!!だまらっしゃい!居候の身で!なんてことを主人に言うのだ!」
堪忍袋の緒が切れるという奴だ。
こちらも仕返しに食い気味で言ってみると…おや?な、泣いているのか…?
「ぐす、ぐす。すみません。生意気言いました。わかりました、その服をありがたく頂戴します。でもその一緒に外出とかはしたくありません」
いじらしくも言いたいことはきっぱりと言い切るその様子は、とても強情であった。
こうなったら俺が折れるしかなさそうだ。
俺は重い沈黙の帳を断ち、またこう切り出した。
「仕方ない、黒の無地T-シャツがあるからお前はこれを着て、明日の朝、俺と一緒に服でも買いに行くか」
言い終わった瞬間、ご飯粒が飛んできて、またその飛ばした張本人の表情と言ったら…もう言うことはないだろう。