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第参章 怒濤狂瀾篇

かつてのタケルと地球防衛軍の残党18人は再起動されたレムリアのヱデンに舞い降りた。

そしてそこでの新たな生活が始まった。かつての先人たちの居住地跡を利用した新生活。それはまるで人類の起源に戻ったかのような光景だった。

――――――――――――――――――――

顔を見せた太陽は再び厚い雲に隠れ、崩れ落ちたタケルに大粒の雨が打ちつけられていた。

ビオロはタケルに声をかけられなかった。長い沈黙の時が流れた。

やがてタケルはぽつぽつと言葉を繋いだ。庇ってくれてありがとうと。

「あなたはマイケル司令を殺してない。あなたが斬ったのはトクォーノよ」

ビオロはそう言い切った。つまりトクォーノを斬った後にタケルが手放した剣で誰かが司令を殺したのだと。

「じゃあやっぱり俺はやってないのか…?」

「タケルは司令を殺したの?」

タケルは首を何度も左右に振った。

「そうでしょ。だから安心して。タケルは何も悪くないわ」


2人は司令を土に埋めると手を合わせた。そして雨風の凌げる洞窟へと逃れた。

火にあたりながらもう一人のタケルの目的について考えた。しかしいくら考えても埒が明かなかった。対立は免れない。タケルはそのことを覚悟していた。まずは連れていかれた地球防衛軍のメンバーを見つけ出し、誤解を解くことが必要だと2人は結論付けた。

「本当はビオロも一緒に来て欲しい。その方が心強い。でも、助けに行ったら、恐らくあいつとの戦いは避けられない。ビオロは、もちろん皆もだけど、それ以上に傷ついて欲しくない。それにこれは俺が一人で解決しなくちゃいけない事のような気がするんだ」


月と太陽が追いかけ合う日々が過ぎ、タケルの体調は万全な状態へと回復した。

「じゃあ、行ってくる」

「ちょっと待って、最後に一つ」

ビオロはタケルの頬に自らの唇を優しく当てた。

そして元の位置に戻って言う。

「いってらっしゃい、タケル」

「うん、行ってきます」

タケルは翼を広げると地面を強く蹴って大空へと羽ばたいた。

――――――――――――――――――――

上空に浮かぶレムリアを発見したタケルはそこへ勢い良く着地した。

「まさに悪役らしい最高の登場だな、偽物よ」

顔を上げるとそこにはタケルがいた。

2人のタケルによる肉弾戦が始まった。

タケルには作戦があった。戦い続けることで化けの皮を剥がす。

「ハハ、いいゾォ!もっと戦おう!俺達はァァ!戦うことにィィ、傷つけ合うことに意味があるからなァァァッッ!」

しかしどうやら、タケルの目的もタケルと戦うことにあるようだった。

「……!その姿は!?」

タケルの皮膚は真っ青に染まっていた。

「どうやら剥がれてしまったようだ。僕の化けの皮が」

タケルは自分の胸を引っ掻いた。傷口から青い血が噴き出す。直後に凄まじい爆発。

「僕はドラゴイードル。ドラゴプロクス、君と相反する者さ」

ドラゴイードルはタケルをドラゴプロクスと呼んだ。タケルは困惑した。自分はドラゴニュートという存在のはずであった。

ドラゴイードルは続けた。

「ふっ、これだから。君は何も分かっちゃいないね。ドラゴニュート、それは魂を継承することのできる器の事を言うのさ。そして君は、既に魂の継承を済ませているんだろ?そう、君はもうドラゴニュートではない。君は力を譲り受けられし、ドラゴプロクスだ!」

タケルはボルケーノのことを思い出した。2人で行った魂の継承のことも。

「魂の継承の有無は目を見れば分かる。継承を完了せずに力だけを得ると、その力を制御出来ず、暴走。その時、そいつの目は血で染まっている」

ドラゴプロクス。それは三大龍王のうちの炎を司る者。

「そして、僕が水を司る、ドラゴイードル」

相反する者。ドラゴプロクスとドラゴイードルであった。だからこそ、戦うしかない。

タケルは炎を吐き、ドラゴイードルが怯んでいるうちにレムリアの空をヱデン目指して駆け抜けた。


タケルは地球防衛軍のメンバーを発見した。しかし――

「なんでお前がここにいるんだ…?」

「この偽物がッッ!!」

ブラウンがそう詰め寄る。

「待って!俺が本物なんだ。信じてくれ!奴はドラゴイードルって言って、皆、そいつに騙されてるんだよッッッ!!!!」

次第にメンバーが集まる。

「じゃあなんで司令を殺した!」

「だから違うんだって!信じてよフランシスコさん!皆!」

タケルはヱデンの端へと追い詰められた。メンバーの背後にドラゴイードルが降り立つ。その姿は完全にタケルに擬態していた。ブラウンはタケルの首を掴んで持ち上げる。

「やめて、ブラウンさん!危険です!」

ドラゴイードルが叫ぶ。タケルは手を伸ばそうとする。

「今奴が動けばあなたが死んでしまう!」

タケルは伸ばしかけた手を引っ込めた。成す術がなかった。ブラウンを傷つけでもしたら、それこそ信頼が完全に失墜することは目に見えていた。

タケルの足は地面を離れた。ブラウンが手を離せば、そのまま落ちる。

「何故お前はまた私達の前に現れた!ここは楽園なんだ!お前は、必要ない!いや、存在してはいけないんだ!」

その言葉にタケルの胸がドクンと跳ねた。

「聞こえたか?お前は、偽物は、必要ないんだ!消えろ!私達の前から、消えろッ!!」

そしてタケルの首のわだかまりが無くなった。彼が最後に目にしたものは満面の笑みを浮べたドラゴイードルの顔だった。

――――――――――――――――――――

その後ヱデンでは悠々自適の生活が送られていた。そして事件は唐突に起こった。

ある朝、フランシスコは背中の大きな傷から大量の血を流して倒れていた。

火葬後、彼を除く18人で会議が開かれた。

彼と昨晩まで作業をしていたのは2人。ジェームズとロジャースだった。ジェームズはカーラに疑われた。ジェームズは怒った。

そんな中でトリーシャは言った。

「あくまで可能性の内の一つだけど、犯人は目的があって殺した訳ではないかもしれないということですよ」

ハンナは続けた。「殺害が目的なら彼の遺体に小さな傷をつける必要が無いとも考えられるんじゃないか」と。

募る不安をブラウンがなだめた。彼はこの中で唯一司令部にいた人間だった。とりあえずはタケルが見張りをするということで会議は解散となった。

翌日、カーラが死んでいた。ブラウンとタケルはジェームズを拘束した。

集められた16人は全会一致でジェームズの処遇を決定した。

ジェームズはタケルによってヱデンから落とされた。その直前、タケルの囁きを聞いたジェームズは狂ったように笑った。

数日後、トリシャとハンナが2人で歩いていると、背後から何者かに襲われた。

「大丈夫。今楽にしてやるから」

2人をめった刺しにして殺した声の主は呟いた。

「ふぅ、後、12人」

その様子を最年少のタムが目撃していた。声の主とタムの目が合った。

「おや、これはこれは。運がいい」

タムも息絶えた。

翌日、事情を知らぬ者たちのトリシャ、ハンナ、タムの捜索が始まった。

アレックスは行動を共にしていた人物に殺された。その現場を目撃したサムとクレバーもほどなくして殺された。

「全く、こうもズバズバ殺す必要もない気がするんですけど…」

「長年の夢が叶う瞬間がすぐそこまで迫ってるんだ。もう私は躊躇しない」

男はアレックスを投げ捨てながら答える。

「あなたは狂人だよ、クロウリー・オーガスト」

「…かもな」


その日の夕方、席に着いたのはたったの6人だった。

アレックス、サム、クレバー、ケニー、キーラ、エレナ、ベル。

彼らは誰一人帰って来なかった。

オーガストは言った。

「私は悲鳴が聞こえて、助けに行こうとしたら、アレックスに止められ、そのまま別れて行動したんです。結局あの後会うことは出来なくて、戻ってないなんて、そんな…」

「…血だらけになった、エレナとベルが、倒れていて、既に息は、なかった…」

そしてテーブルの上に乾いた血のついたナイフを置いた。気分が悪くなったと言って退出するオーガスト。

ブラウン、ジェシー、ロジャース、メリーの4人はオーガストを疑った。

扉が開くと鍬を持ったオーガストがそこにいた。

殴りかかったロジャースの胸がぶすりと刺される。

ブラウンはタケルの名を呼んだ。オーガストを止めろと。タケルは卓上のナイフを取るとジェシーの首に突き刺した。

メリーは言葉を失って立ち尽くす。タケルに首を締めつけられながら床に押さえつけられる。そのまま生き絶えた。

「後、一人」

オーガストが鍬を構えてブラウンに迫る。タケルも近づいてくる。

ブラウンはもう一人のタケルの訴えを思い出した。

『待って!俺が本物なんだ。信じてくれ!奴はドラゴイードルって言って、皆、そいつに騙されてるんだよッッッ!!!!』

「お前が、お前が偽物だったのか!」

「ふっ、ようやく気づいた?でも残念。あんたはもうお終いだ。この狂人に殺されるのさ」

訳を尋ねられたオーガスト答えた。

「私の、願いの為ですよ」

「じゃあ、司令は誰が…?」

「もちろん僕ですよ。本物のタケルが剣を手離した直後にあの男を掻っ捌いて、スラーヴォは消しました。皆さん驚くほどあっさり僕の嘘に騙されて面白かったですよ」

「そうか…」

――――――――――――――――――――

目を覚ますと、傍にはビオロがいた。

「タケル!あぁ、良かった」

「ビオロ…」

ビオロと目が合う。

「ずっと心が読めなくなってて心配したのよ。それで、奴の正体は分かった?」

「う、うん。奴はドラゴイードルって言うんだ」

「そうなのね。皆が一緒じゃないってことは…」

「誰も、俺を信じてくれなかった」

「そうだったの。でも、また次があるわ。元気出して」

タケルは顔を背けた。

――次?また、俺は戦わなきゃいけないのか?何の為に?どうせまた行ったって、皆は信じてくれないのに。

俺がいない方が、皆幸せに暮らせるのに…。

「もう戦いたくない」

「皆は、俺がいない方がいいんだ。それが一番いいんだ。ドラゴイードルの目的は俺と戦うこと。戦わなければ、奴の目的を打ち砕けるんだ。だからもう、戦わない」

「ふざけんじゃないわよ」

ビオロはそう吐き捨てた。

「何甘ったれたこと言ってんのよ。ごちゃごちゃ屁理屈こねて、自分が傷つきたくないから逃げてるだけでしょ!あなたは戦わなきゃ、そして倒さなきゃいけないのよ、ドラゴイードルを!そして、仇を取るの!」

ビオロに無理矢理体を起こされそうになる。タケルはビオロの手を払い除けた。

「もうやめてくれ!」

「なんで、なんでビオロの言うことに従わなきゃいけないんだよ!俺はいつもそうだ。なんで俺は、皆の言うことに従わなきゃいけないんだよ!俺のことなんか、何も考えてないくせに!!」

「自分のことは…自分で決める」

タケルはそう言い残すとビオロの元から走り去ってしまった。

そんな2人の様子を木陰から見つめている人間がいた。


「もうほっといてくれよビオロ!」

落ち葉の踏みつけられる音にタケルは苛立ちながら振り返る。

そこには一人の男がいた。

「誰だ、お前」

「自分から名乗るのが礼儀だろ?」

「…俺は、タケルだ」

「タケル、そうか」

「あんたは、誰だ」

「名乗る程の名なんて無いさ」

タケルは苛立ちを増しながら言った。

「もういいだろ。失せろよ」

「従わなかったら?」

「力づくで消す」

タケルから殴りかかったはずだった。しかし背中に銃口を突きつけられていた。

男は言った。

「お前は大切な人を失う辛さを知っているはずだ!なのにお前は、少女を置いて逃げた!いいのか!?お前はそれで!!」

「僕にはもう、誰もいない…」

「だからこれは忠告だ。全てを失った罪人からの」

その手に拳銃はなかった。タケルは尋ねた。

「なんで、こんなことするんだよ」

「つい忠告したくなったんだ。僕の様にはならない為にも」

それはつまり何もかも失った男のようにならない為に。

「お前はもう行け。行くべき所へ」

「あんたはこの後どうするんだ?」

「僕は、旅を続けるさ」

「旅?」

「そう、僕の願いが叶うまで終わることのない旅だ」

「そうか」

「早く行け。会えて良かったぞ、タケル」

「俺も会えて良かった。ありがとう…」

タケルは名前を言おうとして言葉に詰まった。

「しょうがねーなぁ。タケルにだけ教えてやる。僕の名前はジン。ジン・オーガストだ」

「ありがとうな、ジン」

2人は別れた。

果たして男が自らの行いを偽善だと知っているかどうかはついぞ分からないままだった。


「…ビオロ」

結局タケルはビオロの元に戻ってきた。

「今までごめんね、ビオロ」

「私の方こそ悪かったわ。本当にごめんなさい」

タケルは決めた。家に帰ると。

そして歩き始めた。龍牙城遺跡までの長い道のりを。

――――――――――――――――――――

クロウリー・オーガストとドラゴイードルはレムリアの制御室にいた。

かつての宇宙船レムリアの飛行機能は完全に損傷していた。しかしドラゴイードルにはドラゴプロクスを殺すという目的があった。誘き出す必要があった。

クロウリーは尋ねた。ドラゴイードルの姿がタケルにそっくりだった訳に。ドラゴイードルは答えた。

「あなたのお陰ですよ。クロウリーさん。あなたの送って下さったタケルのデータを基に、僕は創られました」

「創造主はその為に私に接触を?」

「恐らく、そうでしょうね。この星を滅ぼす為に送られた艦隊をいとも簡単に撃沈させた者の正体。彼らはそれがドラゴプロクスだと確信していたのでしょう。そしてそれを倒し、力を奪う為にわざわざドラゴイードルを蘇らせる計画を立てた。だが思いの外上手くいかず、ドラゴプロクスを解析してドラゴイードルを創り出す事にした。それにあなたが利用されたのです」

続けてドラゴイードルが逆にクロウリーに尋ねた。

「あなたの願いっていうのが、何なのか教えてくれませんか?」

「ああ。…妻を、生き返らせることさ。妻は、レーナは、政府の機密情報にアクセスしてしまい、記憶を消され洗脳を受けた。そして、最後は政府によって殺された。死んだことを知ったのは、地球防衛軍が解散した直後。生きていることすら辛かった私の夢の中に、啓示が降りて来た。『妻にもう一度会いたくば、我々に協力しろ』と。それから私達は何度も繋がり、遂にここまで来た。やっと、もうすぐ会えるんだ…」

――――――――――――――――――――

「…私ね、私もね、その星から来たんだ」

ビオロは告白した。創造主のいる星から来たと。

ビオロはモナードヴェンの住む星、惑星カアスに生まれた。物心つく前から母親と2人で暮らしていた。彼女はモナードヴェンにとって忌むべき存在だった。

ビオロが5歳の時、家に押しかけてきた兵士に捕まりそこで母親と生き別れになった。

ビオロはその後をスラーヴォの月の牢で過ごした。


タケルとビオロはついに龍牙城遺跡に辿り着いた。

サイトウと歩いた道をなぞっていた時だった。突如空が真っ暗になった。

見上げるとそこにはレムリアがあった。レムリアから放たれたレーザーが龍牙城遺跡を焼く。

それは一瞬だった。一瞬にして、全てが炎に包まれた。

――ここは、ここは、父さんと母さんと過ごした、サイトウさんと出会った、大切な場所なのに…。なのに、なのに、なのに、あいつらは…ッッ!

「ユルサナイッッッ」

ドラゴプロクスへと覚醒したタケルは一気に飛び上がりレムリアの反重力装置を貫く。レムリアが遺跡に墜落する。


ドラゴプロクスとドラゴイードル。

相反する者同士が空中で睨み合っていた。

「ハァ、ハァ、ハァ、ユルサナイ!コロシテヤルッッ!!!」

「いいぜ。決着をつけようじゃあないかッ!」

かくして、滅亡への火蓋は、切って落とされたのであった。

かつての肉弾戦の続きが繰り広げられる。

燃え盛る龍牙城遺跡に叩き落とされるタケル。彼の咆哮は星の怒りとなり火山を爆発させる。

這い上がったタケルはドラゴイードルを溶岩の海へと突き落とした。

ドラゴイードルの反撃。空一面を黒雲が覆った。降り注ぐ豪雨。雨中の環境で加速したドラゴイードルがタケルの翼を引きちぎる。

そしてタケルはかつてボルケーノと見た海へと突き落とされる。

再生も出来ず、ただ沈んでいくだけのタケル。

魂の継承により心の繋がったボルケーノの声が語りかける。

『傷ツカズニ全テヲ失ウカ、傷ツイテデモ全テヲ守リ抜クカ、ダ』

――俺は…俺は…俺は…


轟音を轟かせ巨木の枝が海中から伸びる。

それこそまさしくセフィロトの樹、生命の樹そのものだった。

枝の先にはタケルがいた。巨木でできた四匹の龍がドラゴイードルの四肢に噛みついた。

「ギィィヤャアアァァァァオオオオオッッッ!!!」

タケルが叫ぶ。

ドラゴイードルの四肢がもがれ、肉体は地に落ちる。

無数の龍がドラゴイードルを喰らい尽くそうと迫る。

「いやだ…いやだ…」

「グァァァァァオオオオッッ!!」

タケルの一声で加速する龍だったが、ドラゴイードルに到達する瞬間に動きを止めた。

ドラゴイードルの足元にタケルが倒れていた。

「無様だな、ドラゴイードル」

ドラゴイードル声をかけたのはメディオクリスという科学者だった。彼はドラゴイードルを創造した一人であった。

「データはあるんだ。だからお前の代わりはいくらでも創れる。それに、強くすることも可能なんだ。お前は所詮、使い捨ての実験体なんだよ」

銃口がドラゴイードルに向けられる。

その時、タケルが再び立ち上がった。

「おっと、止まれ。動くな。彼女が大事ならなァ」

宇宙船の中からビオロと連れのモナードヴェンが現れる。

「…タケル。ごめんなさい。私…」

ビオロを助けようと足に力を込めた瞬間、それは一気に抜けてしまいタケルは再び倒れた。限界の限界が訪れたのだった。

メディオクリスは言う。

「この女は、ドラゴメイドっつう種族だ。この種の女は本能的にドラゴプロクスに好意を向ける」

「いいかドラゴメイド、お前の母親は生きている。生きて、ドラゴイードルを産み出す器として働いてもらっている。すぐそこでくたばっているそいつも、お前の母親から産まれたんだよ」

「そうだ、ビオロとか言ったか?お前も母親と同じように我々の実験に参加したらどうだ?」

ビオロは答える。

「嫌よ!私は、あんたらなんかに協力するくらいなら、ここで死ぬ!」

ビオロは殴られる。その場に倒れる。

「おいおい、どうしたドラゴプロクス?早く助けないと死んじゃうぞ?」

メディオクリスはビオロに銃口を向ける。

「もう、いいの。タケル、ありがとう」

「ビオ、ロ…ッッ!」

「私は…本当に、タケルが…大好きよ」

三発の弾丸がビオロの脳を吹き飛ばした。

「アアアアァァァアアアアアッッッ!!!!」

タケルの視界がぼやける。

「無様だな、ドラゴプロクス」

タケルは声の主の名を叫ぶ。

「クロウリーッッッ!!!!」

クロウリーはモナードヴェンの船内へと消える。

タケルに銃口が向けられる。タケルは疲労と悲しみと怒りと後悔とで、もう体が、そして心が、限界だった。ビオロと同じ場所へと導かれることを願った。

発砲。しかしタケルは痛みを感じなかった。

タケルの前にドラゴイードルが立っていた。

「な…なんのつもりだ!ドラゴイードル!!私の邪魔をするな!!」

「うるさい…タケルを殺すのは…俺だ…!」

ドラゴイードルはメディオクリスに殴りかかる。

「て…撤退!行け!撤退だ!」

メディオクリスは叫んだ。モナードヴェンの船が離陸する。メディオクリスは銃を乱射して死んだ。

彼の顔面は原形を留めていなかった。ドラゴイードルも手を止めるとタケルに襲い掛かろうとする。しかしタケルを前にして倒れた。

「お前…何で…」

「言ったろ、お前を殺すのは…俺だ…いや、夢を、見たんだ…」

「母さんが、出てきた。あの人は、いつも、どうか、娘を…ビオロを助けてって、俺に頼んでた。…って、ははは、何、考えてるん…だろうな。ごめん、なさい…。母さん。俺、助けられ、なかった…」

「あ…ありがとう、ドラゴイードル…」

「馬鹿言え…。助けたんじゃ、ない。お前を殺すのは…おれだから…だから、しぬなよ…」

「お前は…お前は…?」

「つかれたから、すこし…ねむる…」

それを最後に、ドラゴイードルは、何も言わなくなった。

「く…うぅ…うっ、ううぅ…」

動くことのできないタケルはその場で泣くことしかできなかった。

陽が落ちた。

空には月も星もなく、ただ闇が広がっていた。


「いつまでそうしているつもりだ。起きろ、タケル」

タケルは声を聞いた。何度か聞いたことのある声を。

「はッ…」

タケルは目を開く。いつの間にか眠っていたようであった。

横たわる二人。タケルは全てを思い出した。

「ああぁ…ああ…あああぁぁああ…」

「何驚いているんだ?何も出来なかった癖に」

「俺の…せいか…?」

「ああ、全てお前のせいだ。ビオロも、ドラゴイードルも、お前のせいで死んだんだ。タケル」

「俺が…俺が…ああああぁぁぁああああッッッ!!!!」

「その様子なら、もう動けるな」

「もう…嫌だ…」

「立て」

「無理だ…。どうせ、何も出来ないんだ…」

「そうだお前は何も出来ない」

「…ほらな」

「何もしなければな」

「確かに、そうだな…。なら、もう何も出来なくていい」

「ビオロを生き返らせることもか?」

「…え?」

声の正体はドミナードであった。それはスラーヴォの地下牢で出会いタケルに助言を与えていた存在。

「ビオロが死んだのは、モナードヴェンのせいか?」

「いや…俺のせいだ」

「何故?」

「俺が…動けなかったから。俺に…力がなかったから」

「そうだ!その通りだ!お前に必要なのは力だ!さぁ、タケル!そこに転がっているドラゴイードルを喰らえ!そうすればお前はさらなる力を…未だかつて無い程の力を手に入れることが出来る!!」

タケルは起き上がるとドラゴイードルの元へ近づき、しゃがみ込む。

ドラゴイードルの目が、タケルを見つめる。

「さぁ早く、奴を喰らえ!胸の中央にあるドラゴイードルの魂を喰らうんだ!」

「いただきます」

タケルはドラゴイードルに嚙みつくとその肉を引きちぎった。青い血が噴き出す。タケルは肉を千切り飲み込む動作を繰り返した。やがて肉でも骨でもない硬いものを咥えこむ。

タケルはドラゴイードルの魂を嚙み砕いた。ドラゴイードルの瞳孔が開く。

「ガアアァッ!」タケルの体が痺れる。

「ハァ、ハァ、ハァ…」タケルは無意識のままに立ち上がる。

「…ガァァアアアアッッ!!!」

胸を張り手を広げる。そして尾と翼と角が生えだし、大きくなった体が赤と青に染まる。

「よし、それでは行こうか」

「どこ…へ?」

「それはもちろん、モナードヴェンの母星、惑星カアスへ」

――――――――――――――――――――

それは突然起こった。カアスに、星が降ったのだ。

タケルは氷の柱を創造するとその周りに炎の渦を這わせて融解させるとカアスの市場は波の飲まれた。

「奴らはモナードヴェンだ。地球を滅ぼそうとしていた奴らだ。お前は正しいことをしている。何も迷わなくていい。極悪人への、当然の報いだ」

ドミナードはタケルにそう囁いた。


タケルは続けてモナードヴェンの王プエル2世に謁見していたクロウリー・オーガストに襲い掛かる。

王の間にいたクロウリー以外の全員が炎に身を焼かれる。

「…タケル。私が憎いか?」

「殺す」

「そうか」

ふと気がつくと、首を掴まれていた。物凄い力で。クロウリーの足先は宙に浮いていた。

「レーナ…」

クロウリーは悟った。――これが運命。やはりレーナに会うには、この道が一番早かった…。

クロウリー・オーガストの首の骨は砕けた。タケルの手が、赤く染まった。

――――――――――――――――――――

「ここは?」


ジンは真っ暗な空間に立っていた。辺りを見渡しても闇以外の何も無い。彼は何度かここに来たことがあった。


パァン!


響き渡る銃声。胸に広がる痛み。……死ぬ――いや、そうか。やっと、叶ったのか。そうか…長かったなぁ。


「ありがとう」

――――――――――――――――――――

「ここは?」

タケルの目の前には暗黒の空間が広がっていた。

「名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。ブラックホールだよ」

「まぁつまり、このブラックホールの先にビオロがいる訳だ」

「そうか」

「ブラックホールを突破するには、中心にある核を破壊する必要がある。それを成し遂げられるのはタケル、お前だけだ」

タケルがブラックホールに近づく。すると、落ちるようにして吸い込まれていった。

タケルはそこで母親に、サイトウにであった。2人に導かれながらタケルは進んだ。

タケルの目の前には、一本の木が生えていた。そしてその木の枝に、一つの輝く林檎が実っていた。

『私、あのリンゴが食べたいな』

「ビオロ…」

タケルはビオロと食べたリンゴの事を思い出した。

そしてタケルは木に近づき、その果実に手を伸ばした。優しく掴んで、木から引き抜く。

『「いただきます」』

――――――――――――――――――――

「タケル!タケル!オイ、聞コエルカ、タケル!…クソ、何故俺ノ声ガ届カナインダ。ドウナッテイル。何故奴ハタケルヲブラックホールナンカニ?…マサカ。待テ!待ツンダ!タケル!」

「なんだ、まだこんなところにいたとは」

ボルケーノが振り返る。

「ドミナード!?ココハタケルノ心ノ中ダゾ!ドウシテオ前ガココニ!?」

「俺は最初からいましたよ」

「ソレハ…出会ッタ時カラトイウ事カ?」

「ええ、もちろん。肉体が無いんですから」

「…ダカラタケルニコンナ事ヲ!?」

「ふふふ、それはどうでしょう」

「ソンナ事サセルカ。タケル!聞イテクレ!オ前ハ騙サレテイル!ドミナードニ!!」

ドミナードがボルケーノの両眼に手を当てる。

「邪魔しちゃダメですよ。早くあっちの世界へ行っちゃって下さいよ。お前に出来ることはもう無いんだから。…タケルは俺の物だ」

――――――――――――――――――――

「いただきます」


――パキン


タケルは輝く林檎をかじる。

「え?」

林檎は、小さな黒い球体へと変貌していた。

核を損傷したブラックホールは、急激に膨張し、長い時間をかけて、しかし一瞬で、銀河の全てを飲み込んだ。だが最後には、ブラックホール自身が、核に吸い込まれた。

「さぁ!タケル!それを噛み砕け!そうすれば!境界線の!先に行けるぞォォ!」

これを喰えば、ビオロに会える!


――バキン!

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

光も闇もない無の空間の中で、少年は目を覚ます。

「目が覚めたか?」

「…あぁ。…あんたは…誰だ?…いや…俺は…誰だ…?」

「俺はドミナード。そしてお前は、デトルートだ。おいおい、忘れちまったか?俺たちは共に野望を抱いた仲じゃないか」

「野望?」

「あぁ。この宇宙を、支配するってな」

「…そう…だったな」

ドミナードがニヤリと笑う。

「さぁ、始めようか」


【次回予告】

〈外典Ⅲ アナザーヒストリー〉

数百年前、一人の少年が龍神様を操り、世界を救った。

だがそれは新たなる争いの火種でもあった。

日と月。相反する者達が、己の信念の為にぶつかり合う。

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