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外典II アナザージェネシス

遠い昔、敵対する種族との星間戦争に勝利した代償に、惑星カアスは、様々な宇宙線から星を守る役割を持つフェーロ層に深刻なダメージを受けてしまった。

予測では、近いうちに恒星エンケトラドスの大規模フレアが起こるとされている。

このフレアまでにフェーロ層を修復しなければ、カアスの生命は絶滅することになる。

そこでモナードヴェンの当時の王である、大王モナは、息子で科学者のシチエンにフェーロ層の修復に必要な物質、アウルムを探すように命じた。

シチエンは、数人の仲間と、18人のマルヴェンキントと呼ばれる、灰色の皮膚を持ち、大きな頭部に細い手足、扁桃型の目をした奴隷を合わせた計25人で長距離移動用居住施設併設型宇宙船・アトラスに乗り込み、アウルム採掘の旅に出発した。

そしてシチエンは、過去の文献や、惑星調査の結果から、生命がいると言われている惑星テラエに目を付け、そこに上陸した。

その頃のテラエは、恐竜という生物によって大地が支配されていた。

恐竜との意思疎通を断念したシチエン一行は、海中に多く眠っていたアウルムを採掘し始めた。

シチエンとその仲間達は、マルヴェンキントに全ての仕事を押し付けていた。

だがそのことにマルヴェンキントは反発し、遂にはストライキを起こした。

怒ったシチエンだったが、働き手がいなくなるのは自分にも都合が悪いと考え、マルヴェンキントの仲間を作ることにした。

シチエンは、科学者仲間であるシャンティ―サと共に、奴隷を作る計画、ジ・ミウルギア・プロジェクトを開始した。

シチエンは自らの遺伝子と、テラエを支配する恐竜の遺伝子を掛け合わせ、シャンティーサが細胞を培養し、シチエンと共にテラエに来た女性モナードヴェンの一人の子宮にその胚を移植した。

そして胚は子宮内で順調に育ち、遂に顔は恐竜、体はモナードヴェンである新たな生物が誕生した。

シチエンはその生物に"奴隷"という意味を込め、"スラーヴォ"と名付けた。

シチエンはスラーヴォを量産しようと考えたが、ここである問題が生じた。スラーヴォには、人工的に作られた生物のためか、生殖機能が備わっていなかったのである。

シチエンは悩んだ。仲間を苦しませてスラーヴォを産ませるか、母星にいるモナードヴェン達が散っていく姿を見届けるか。

やはり答えは一つであった。

シチエンは連れてきた3人の女性モナードヴェンにどんどんスラーヴォを産ませていった。

そして、産まれたスラーヴォにアトラス内の農園にある樹木になる"知恵のなる果実"を与え、積極的にスラーヴォ同士を競争させ、優秀な者には褒美をやり、役に立たない者は殺していった。

結果、マルヴェンキントとスラーヴォは協力して、大量のアウルムを採掘していった。

それはどんどんカアスへと送られ、無事にフェーロ層は回復し、フレアからカアスを守ることができた。

これでシチエン達も撤退…と思われていたが、カアスにいる科学者が、フェーロ層を修復する過程でアウルムを使った様々な実験を行い、なんと新たなエネルギー源として利用できることが判明したのである。

喜んだ大王モナは、引き続きアウルムを採掘するようシチエンに命じた。

シチエンはさらにスラーヴォを大量生産し、仕事に従事させていった。


それから時は流れ、テラエにある危機が迫っていた。

直径50キロメートルの隕石が、テラエ目掛けやってきたのである。

シチエンはアトラスのレーザーで隕石を迎え撃った。大きさは五分の一まで小さくすることができたが、代わりに隕石に大きな角度がつき、生物の大量絶滅を察したシチエンは、マルヴェンキントとスラーヴォを連れて、隣の惑星、マールスに逃れた。

隕石がテラエにやってくる直前、大王モナはアウルム採掘の為、カアスにいるマルヴェンキントの80%をテラエに送っていた。

大勢のマルヴェンキントとスラーヴォの働きにより、もともと微量だったマールスのアウルムは、瞬く間に取り尽くされてしまった。

困ったシチエンはテラエに調査隊を派遣するが、調査隊は命からがら帰還し、とてもまともに作業できるような環境ではないことを報告した。

シチエンは他の惑星も調査するが、ほとんどがガス惑星であり、とてもアウルムがあるとは考えられなかった。

マールスの土地は開拓できるところがなくなり、シチエンは人口の削減を判断しなければならない状況にまで追い込まれてしまった。

そんな時、モナードヴェンに近い、位の高いマルヴェンキントは、人口削減の話を耳にし、自分の種族がまた迫害されるのを恐れ、スラーヴォを襲い始めた。

やがてマルヴェンキントとスラーヴォによる全面戦争が始まった。

この戦争に手を焼いたシチエンは、テラエが回復したという情報を受け、マルヴェンキントに荒れ果てたマールスを統治する権利を与え、強引に戦争を終わらせた。

宣言通り、シチエン達はスラーヴォを連れ、テラエに戻ることになった。


少し遡り、シチエン達がマールスに逃れた後。

送られてくるアウルムの量が少なかなったことに怒った大王モナは、シチエンの異母兄弟であるアニムスに、アウルム採掘の任務に就かせた。

アニムスも、宇宙船レムリアに乗り、惑星テラエを目指した。

アニムスがテラエに降り立つ頃には、テラエは再生の道を歩んでいた。

緑が生い茂り、新たな生命が蔓延っていた。

アニムスはカアス内のマルヴェンキントの人数が少なくなっていたこともあり、数人の仲間だけを連れて来ていた。

そのため労働力を確保しなければならなかった。

アニムスは共にテラエに来たマーテルと、労働力となる奴隷の創造から取り掛かった。

アニムスとマーテルは、自らの遺伝子とテラエの様々な種類の生物の遺伝子とを掛け合わせていった。

時には半魚人、半牛人、沢山の動物の形質を持つ生命体など、色々な物が出来上がっていった。

しかし、どの生物も、生殖機能を有してはいなかった。それもそのはず、生殖機能を形成するのに必要だと考えられている遺伝子を組み込むと、どの生物も成熟する前に死んでしまったのである。

これが問題であった。考え抜いた末、未成熟の状態の胚を原子炉の中に入れ、放射線によるる遺伝子の突然変異を狙った。

実験は何度も失敗した。遺伝子だけでなく、放射能汚染で死んだケースも多々あった。

ただ時だけが流れ、大王モナから怒りの連絡を受けたことも稀ではなかった。

そして、ようやく完成した。生殖機能を持った、モナードヴェンに似た生命体が。

アニムスはこの種をレムリアンと名付け、さらにフィディという名前を与えた。

フィディは両性具有であった。

フィディは一人の子供を産んだ。

その子はアンドラスと名付けられ、逞しい男に育ったのであった。

アニムスは、フィディとアンドラスをレムリア内のヱデンという場所に住まわせ、自由に暮らさせた。

なんとアニムスは、フィディとアンドラスを我が子のように扱ったのだ。

やっとのことで生まれて来てくれた二人が、もがいて、もがいて、ようやく母親から産み落とされた胎児のように見え、とても愛おしく思えたのだろう。

いつしかアウルム採取も忘れ、テラエでは、ただ平穏な時間だけが流れた。


そして、アウルム採取を任された2人が、テラエで邂逅することになる。

シチエン達がテラエに帰ってくる頃には、アニムスが実質的にテラエを占拠していた。

シチエンはレムリアに乗り込み、アニムスに抗議した。

アニムスは提案した。テラエの離れた場所で互いに干渉せず生活しようと。

シチエンはマールスを捨ててきたばかりである。今は安住する場所が必要であった。

シチエンはアニムスの提案を飲んだ。

その直後シチエンがアトラスに帰ろうとレムリアを歩いていると、その一画で偶然ヱデンを発見した。そしてフィディとアンドラスに出会った。

シチエンはフィディの小さな手をとって言った。

「君はフィディと言ったな。私も君達の言う主の一人である。だから私と一緒に来てくれないか?」

モナードヴェンの子宮を酷使することなく単為生殖で増える究極の奴隷が生まれると彼は確信していた。

「分かりました」

シチエンは、フィディをアトラス内の農園に連れ込んだ。

そしてフィディに"知恵のなる果実"を与えた。

するとフィディは、自分が裸であることを恥じ、すぐに身体を葉で包んだ。

それからシチエンは、フィディに子を産むように命じた。


アニムスがヱデンに訪れた時、彼は自分の目を疑った。

アンドラスはフィディは連れていかれたと言った。しかし彼は普段となんら変わらず楽園での暮らしを続けていた。

この時ばかりはアニムスも、二人に心を持たせなかったことを後悔した。

アニムスは、大切な二人に、魂だけの状態、苦も楽も欲もない、ただ本能的に助け合い、生きていく、そうあって欲しかった。

だから、"知恵のなる果実"も与えなかった。

なのに今回は、困っている者を助けるという本能のもとで行動した結果がこの様であった。

アニムスはその場に崩れ落ちた。

「ああ、主よ。一体どうなされたのですか」

アンドラスはアニムスに近づき、その小さな手の平で、アニムスの背中をさすった。

「アンドラス、済まない。フィディ、済まない。全て私の不注意のせいだ。私が悪い」

「あなたは何も悪くありませんよ」

「ありがとう、ありがとう、アンドラス」


数日後、アニムスはアンドラスが一人で一生懸命鍬を振り下ろしている姿を哀れに思った。そこでアンドラスが寝静まった頃、アニムスはアンドラスの肋骨を一本取り、そこを肉で塞いだ。そしてその肋骨を使い、もう一人のレムリアンを創造した。

翌日、アニムスはアンドラスのもとへ、完成したレムリアンを連れて行った。アンドラスはそのレムリアンをジネカと名付けた。


それからまた時は流れ、ある時シチエンはフィディとスラーヴォに仕事を継続することを命令し、大陸から絶対に出てはいけないという忠告を残し、アトラスに乗りカアスへと帰っていった。


そしてアニムスももう一つの楽園を作りアンドラスとジネカをそこに住まわせた。"知恵のなる果実"だけは食べてはいけないという忠告を残し、レムリアに乗りカアスへと帰っていった。


惑星カアスでは大王モナの葬儀が何日にも渡り執り行われていた。

シチエンとアニムスはそこで再会した。

アニムスはシチエンにフィディを返すように迫った。

しかしシチエンは、ではスラーヴォをモナードヴェンに産ませるのかと逆にアニムスに迫った。

そこにシチエンの幼き子プエルが駆け寄ってきた。

アニムスはその父子の姿を見て、レムリアンへの愛情を再確認した。

「シチエン、やはり私はレムリアンを奴隷として扱うのは不可能だ。フィディも返してもらう」

二人は決裂した。

大王モナの後継には、シチエンとアニムスの腹違いの兄が就くことになった。

葬儀、戴冠式などの一連の儀式が終わり、二人は仕事に戻った。


一方その頃テラエでは。

来る日も来る日もスラーヴォの子を量産させられていたフィディはかつて自らが暮らしていた楽園の話をスラーヴォに聞かせていた。そこには労働も苦痛もなく、穏やかな時間が過ぎる場所だと教えた。

スラーヴォはその楽園を羨ましがり占拠することを企んだ。フィディはスラーヴォをなだめると、計画があると言って"知恵の木"から果実を一つもぎ取り、スラーヴォの乗り物で楽園に向かった。


フィディは新たなヱデンに降り立った。そこでジネカと出会った。

ジネカは自らをアンドラスの夫と名乗った。フィディは激昂した。彼女はアンドラスと再び結ばれる為に、禁忌を犯しスラーヴォを利用しここまで来たのである。

フィディの前に現れたアンドラスはジネカの手を固く握りしめていた。

フィディは二人の前に果実を差し出した。

「これは知識の源。これを食べればあなた達の目は開き、善悪を知ることができる」

ジネカの静止も聞かずアンドラスは"知恵のなる果実"に手を伸ばした。

「ずっと、苦しんでいたんだね、フィディ。この実を食べたせいで」

アンドラスが果実を口にしようとした時、ジネカがその実を奪った。

「あなたが食べて私は食べないなんて、そんなのおかしい」

そしてジネカは果実を半分に割り、片方を自らの口に入れた。

アンドラスは「ジネカ、ありがとう」と言いながら果実を食べた。

二人はお互いを見つめた。そして、気恥ずかしさを覚えて目を背けた。その後二人は木の葉で身を包んだ。

やがて、アニムスがヱデンに帰って来た。

アニムスは、ヱデンの悲惨な光景を見て激怒した。

そこには、多くのレムリアンが、畑仕事をしていた。

彼はアンドラスとジネカを呼び寄せた。すると、そこにはフィディの姿もあった。

「ふざけるな!何故禁忌を犯したのだ。くそっ、汚れてしまった。完全無垢な生命が…」

アニムスはアンドラスとその男の子供に、皆一生の労働という苦しみを与えた。そしてジネカとその女の子供には、子供の尊さを分からせる為、子を産む際に、最上級の痛みを与えた。さらレムリアンをヱデンから永久追放させた。最後にフィディを悪の権化と罵り永遠に地を這いつくばって生きる屈辱を与えた。


それから長い年月が流れた。

やがてアンドラスとジネカは死に、今はその曾孫たちも余生を全うしようとしていた。

あるところに、クピドゥスという男がいた。彼は労働という神から与えられた使命に背き、暴力を振るって人から物を奪ったり、他人の作物を横領したりなどと楽をして生きている男であった。

自分の力を過信したクピドゥスは、当時の指導者を殺し、世界の全てを手中に収めた。

そしてクピドゥスは、自分の力を神に知らしめる為に、天高く伸びる塔の建造を始めた。

人々は石の代わりに煉瓦を、漆喰の代わりにアスファルトを用いた。

クピドゥスは順調に積み上がっていくその塔をカエルムの塔と名付けた。

そして全てが自分の思い通りに運んでいる事を喜びこう言い放った。

「神よ!我らを造りし創造の主よ!見るがいい。私は働かずともここまで上り詰めた。つまり私は原罪を償う必要のない者だということだ。それ即ち私は神の一員であるということであろう!」

アニムスは再び激怒した。働きもせず悪事を働いて生きていく堕落者が現れた事に。

その堕落者が権力を握った事に。

そして遂に、堕落者が神を自称したことに。

アニムスはレムリアンを抹殺することを決意した。

レムリア内の他のモナードヴェンは猛反対した。折角の苦労を無駄にするのかと。

そして反意を表する為、レムリアから出て行った。

だが、マーテルだけはアニムスの考えに賛同した。

宇宙船レムリアから逃げ出したモナードヴェン達は、宇宙船スラーヴォに辿り着いた。

モナードヴェン達は、シチエンにアニムスの事を話した。

その後シチエンはテラエのレムリアンの生息地に降り立った。

姿形が見えぬよう、特殊な装置で自身の体を透明にした。

そして、カエルムの塔建造の為に働かされていた石工のヤシェルという男に、こう囁いた。

「正しき者、ヤシェルよ。間もなく洪水がこの地を地獄へと変える。だが、私の言うことを聞けば、お前とその家族だけは生き残ることができる。ゴフェルの木を使い、幅と長さの等しい立方体の方舟(はこぶね)を造るがいい。そして、私が与える全ての生き物の(つがい)と、お前の妻、子供、そして子の妻を乗せるがいい。さすれば救われるであろう」

ヤシェルは言われた通り方舟を造り、シチエンは全生物の雌雄それぞれの遺伝子が入ったカプセルをヤシェルに与えた。

ヤシェルは方舟の扉を閉め、家族と共にその時を待った。

アニムスは地に降り立った。

そして、封印を解いた杖で空をかき回した。

やがて黒雲がテラエを包み込んだ。

アニムスはレムリアに戻り、テラエの周回軌道上に逃れた。

シチエンもまた、モナードヴェンとスラーヴォとフィディのレムリアンを乗せ、テラエの周回軌道上に逃れた。

雨は1年もの間降り続け、テラエ上の全てを洗い流した。

カエルムの塔も薙ぎ倒され、粉々に砕けた。

それから、また1年が経過した。

ヤシェルは外が静かになった事に気づき、ヤタという名の(からす)を外に放った。

だがヤタは、とまるところがなく帰ってきた。

30日程経ち、もう一度ヤタを放った。

するとヤタはゴフェルの木の葉を咥え、帰ってきた。

さらに30日待ってヤタを放つと、もうヤタは帰っては来なかった。

ヤシェルはヤタを追い、外に出た。

ヤシェルの方舟は、ある山の頂上で座礁していた。

上を見上げると、空には虹がかかっていた。

――――――――――――――――――――

火ノ山ニテ―――

そこにはある部族が暮らしていた。数いる子供の一人であるタケルは生まれつき目の色が赤かった。兄弟姉妹は彼を気味悪がり、両親も彼を極力避けた。

しかしある時、両親はタケルを火の山の頂上まで連れていった。そこは本来誰も立ち入れない場所だった。

はしゃぐタケルは穴に落とされた。そこは石室だった。

蓋が閉められて光が消えた。そこには祭壇以外何もなかった。諦めたタケルはその場に寝そべった。

岩は思いのほか暖かかった。体の中からじわじわと温まる感じがした。ああ、気持ちがいいと、タケルは目を閉じた。

――――――――――――――――――――

アニムスは満足して、新たな奴隷用の生命体を創ろうと、地に降り立った。

誰にも侵略される事のないよう、山の上に新たな楽園の場を設ける予定であった。

だがそこは既に、アニムスにとって地獄であった。

滅したはずのレムリアンが、まだ生きていたのである。

家を作り、共同で暮らしている。

近くには大きな立方体型の方舟が転がっていた。

レムリアンが、見たこともない立方体型の方舟を造れるはずがない。

アニムスはそう思った。

そして、裏でシチエンが絡んでいることを確信した。

アニムスはアトラスに乗り込んだ。

「シチエン!よくも私の邪魔をしてくれたな!」

「何を言う。殺されそうだった哀れなレムリアンを救っただけだ。それにヤシェルは善人だ。彼は今まで悪事を働いたことが無い。ヤシェルは生き残ってもいい者だ」

「いいや、お前は分かっていない!全て滅ぼす事に意味があるのだ!ここで終わりにしなければ、バランスが崩れるんだ!」

「ふざけるな、俺たちがテラエに来た目的はなんだ?ペットを飼うことか?あぁ?」

「レムリアンはペットでは無い!あれは完璧な生命体だったんだ。お前が汚すまでは」

「質問に答えろよ。いいか、俺たちはアウルムを採掘する為にここに来たんだ。それに必要な労働力として生物を作ったんだろ?それをアウルム採掘に使わずにどうしろと言うんだ。それにフィディがいなければ、今も女達はスラーヴォを産む為に苦しんでいたんだぞ。それをよく考えろよ!」

「それはお前が完璧な生命体を創っていれば済んでいた話ではないのか?」

「うるさい!そんな事は分かっている!」

「もういい。対話で解決できると思って来た私が馬鹿だったよ。ここまで来たら後は武力行使しかないな。私はお前たちを絶対に許さない。必ず復讐してやる」

「あぁ、やれるものならな」

シチエンとアニムス、2人の異母兄弟は完全に決裂した。


スラーヴォがアウルム採掘を続けるランドム大陸。そこにアニムスは核を投下した。

シチエンは報復としてレムリアの旧ヱデンを爆撃した。シールドに阻まれたその攻撃であったが、ついにシチエンも核を落とした。

――――――――――――――――――――

『目覚メロ』

タケルの脳内に声が響いた。

『俺ハ、コノ星ヲ守ル者ダ。今、侵略者ノ勝手ニヨリ、大洪水ガ起コサレ、生命ノ殆ドガ滅ビタ。オ前ハ、俺ノ代理トシテ、奴ラニ意見シニ行クノダ』

それは火の山に祀られる世界を守りし神、龍神の言葉だった。

衝撃波は山を削った。タケルは石室の外に出た。水平線上に大きなキノコ雲が見えた。

『空ヲ飛ブイメージヲシロ』

龍神が言った。

タケルは空高く飛び上がった。その背中には光り輝く翼があった。龍神に選ばれた、ドラゴニュートであるタケルの背中に。


タケルは母船レムリアと、それを襲撃するシチエンの爆撃隊に割って入った。

攻撃を受けたタケルは地上に落下する。そして荒廃した大地の上でスラーヴォによる追跡を受けていた。

タケルの隠れた穴にスラーヴォが辿り着く直前、火の山が轟いた。粉塵の間から姿を現した一体の龍がその場のスラーヴォを惨殺した。


ドラゴニュート。神から賜りし龍王の血。

ドラゴニュート。龍を操り世界を統べる者。

ドラゴニュート。その姿は人。

ドラゴニュート。絶望の淵に龍が出でる。


タケルの目の前に龍神が降り立った。そしてタケルを背に乗せると一気に飛んだ。

レムリアのシールドを破り、タケルはアニムスの前に降り立つ。シチエンを呼ぶように要求した。

シチエンはそれを拒否した。タケルはボルケーノに乗り、アニムスに動かないよう命令するとシチエンのもとに向かった。

「グォォォォッッ!」

ドラゴンの咆哮と共にアトラスが太い木の枝に貫かれる。損壊したアトラスにドラゴンが降り立つと天井を剥がしてシチエンとシャンティーサを両手で捕まえる。

そのままレムリアへと戻った。

しかしレムリアは元いた場所にはなかった。

予備パーツに換装して逃走するレムリアだったが、すぐさま木の枝に串刺しにされて捕まった。

アニムスはその木をセフィロトの樹と呼んだ。

「どこかの文献で読んだことがある。ドラゴン…いや、そうだ。ドラゴニュート!タケルも言っていた。ドラゴニュートが操ることのできる樹だ。"ドラゴニュートから生まれる生命は、セフィロトの樹から生まれ、セフィロトの樹に還る"と書かれていた。つまり、これは生き死にの生命の集合体だ」


上空に固定されたレムリアにてシチエンとアニムス、そしてシャンティーサとマーテルの姉妹は邂逅を果たした。

タケルは2人に言った。

「戦争状態の即時解決、そしてこの星からの永久撤退、並びに永久不干渉が龍神様の要求です。拒否すれば、迅速かつ完全なる壊滅あるのみです」

2人は答えた。

「私達モナードヴェンは、今までのテラエでの数々の罪深い行動を反省し、先方の要求に完全に従うことを同意する」

「そして双方に恒久の平和が訪れることを願う」

その後の話し合いにより事の顛末は決定された。

レムリアンはシチエンとアニムスの意見により抹殺。スラーヴォはテラエの衛星に送られ、モナードヴェン達はアトラスの脱出艇でカアスへと帰還。大破した宇宙船アトラスとレムリアはテラエの海底に沈め、二つの宇宙船の残骸の環境への影響を見張るため、ブラックナイトという衛星がテラエの軌道上に打ち上げられた。


レムリアンの抹殺を行うのもスラーヴォの仕事だった。

それが完了すると早急に衛星への転居が行われた。


タケルはドラゴンと別れた。ドラゴンは再び眠りにつくと言っていた。

その後タケルは、レムリアンの生き残りである少女に出会った。

「あなた、誰?」

「僕は、タケル。アマテルツキノミヤノタケル」


かつて、火山の噴火の様子を遠くから眺めていたアニムスはこう言った。

「あそこはまさに、火出づる島だな」


その島に、五つの新たな生命が生まれた。

五人はそれぞれ肌の色さえ違えど、別け隔てなく、両親に大切に育てられた。

そして時は過ぎ、五人は世界中に散らばった。

両親は島中を探索し、ある山の近くに定住した。

そこで世界を守る龍神の姿を模した石像を造り、敬い、自らの話を後世に残したのであった。

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

ある日、街中を一組の親子が歩いていた。

母親に抱かれていた少女は、母親の背後に広がる空を指差して言った。


「お母さん、流れ星



【次回予告】

〈第参章 怒濤狂瀾篇〉

立ちはだかるのは、もう一人のタケル。

彼は一体何者なのか?その目的とは?

全てが謎に包まれる中、物語は大きく動き出す。

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