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第弐章 奪還奪取篇

そこには、3人の男がいた。

「そうか、ポステ王が、死んだか」

「はい、残念です」

「そうだな、良き友だったからな」

「例の計画、そろそろ、ですね」

「ああ、後はドラゴニュートが目覚めるのを待つだけ。やっと、この時が来た。全てを、返してもらう」

――――――――――――――――――――

タケルは目を覚ました。森の奥にタケルは立っていた。

目の前をエスペーロが横切る。

森が揺れる。

「地震だ」

エスペーロが走り出す。タケルは後を追う。

エスペーロは倒木の前で立ち止まった。タケルは真横に立った。目の前には倒木に潰された小屋があった。

「お母さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

エスペーロは小屋に駆け寄り木をどかそうとするが、押しても引いてもびくともしなかった。

タケルは足が動かなかった。ただただエスペーロを背後から見つめることしかできなかった。

「お母さん!お母さん!お母さん!」

すると、声がした。

「エスペーロ、そこに、いるの…?」

「…!?お母さん!無事なんだね!すぐ助けるから、待ってて!」

「もう、私は駄目よ。ここで、死ぬわ」

「そんなこと、言わないで!僕これからどうすればいいんだよ!」

「一人で、生き抜きなさい。あなたは、今日、最後の一人になる。血を、絶やしては駄目よ」

「村を出るんでしょ?でも、その時はお母さんも一緒だって言ってたじゃないか!」

「そうね。一緒になれなくて、ごめんね」

声で、お母さんも泣いているのだと、分かった。

「くそ、くそ、なんで動かないんだ!」

「エスペーロ」

名前を呼ばれ、動きが止まる。

「ありがとう」

「…」

エスペーロが、崩れ落ちる。

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」

大地に拳を振りかざした。

やがてエスペーロは、その場に倒れこんだ。タケルは背後から懐かしい声を聞いた。

「さっきの叫び声は何だったのかしら。こっちから聞こえたようだけれど」

「さぁ、何の声でしょうね」

「あれ?あそこに誰かいるわ。倒れてるじゃない!」

タケルは一度瞬きをすると暗闇の中にいた。もう一度瞬きをするとタケルは森を抜けていた。

「おはよう、目は覚めたかしら?」

「……」

「私は、龍牙城遺跡を調査しているサイトウ。ここは私たちの研究所。あなた、名前は?」

「……」

「ヤマベ、この子、記憶障害があるかも知れないわ。検査の準備を」

「了解」

エスペーロは眠らされ、検査を受けていた。


「やはり、そうね。しかし、外傷が見当たらない。心因性かしら」

「ですがあの子の推定年齢は3歳。そんなことありえますか?」

「どうかしら。とりあえず、あの子の今後を決めましょう」

「そうですね。どうしましょうか」

「私、考えたんだけれど、ここで育てるってのは、どうかしら」

「えっ、でも…。いや、確かにその方がいいかもしれないですね。辺りに親らしき人もいなかったですし。僕たちで保護する方が賢明かもしれないですね」

「ありがとう。じゃあ私は、今日からあの子の母親を演じるわ。あなたはサポートをお願いね」

「分かりました。それで、名前とかどうするんですか?」

「名前…」


エスペーロは、真っ白な部屋に移動させられた。そして、エスペーロが目を覚ます。

「あら、起きたかしら?おはよう、タケル。私はあなたのお母さんよ」

――――――――――――――――――――

人類の勝利から、5年が経過した。

勝利後の酔いに浸るのも束の間、英雄・タケルの行方が不明のままであった。

そして1ヶ月後、タケルの大捜索が始まった。その捜索は、1年の時間を費やし、ついに捜索隊は、宇宙空間を漂っているタケルを発見した。

彼はその時、何も身に着けていなかったにも関わらず、心臓は動き、身体は温かく、ただ眠っているだけであった。

その後、2年間を集中治療室で過ごし、さらに2年後にようやくタケルは長い眠りから覚めたのであった。

しかしボルケーノはまだ見つかっていなかった。

そしてポステ王が死に、地球防衛軍が解散された。


回復したタケルはサイトウに龍牙城遺跡に行きたいと頼んだ。荒野を駆ける車内の中でタケルは過去の記憶が蘇ったことを打ち明けた。

焼け焦げた森の中で唯一消失を免れた倒木があった。それはエスペーロの母が圧死した木であった。

涙を枯らしたタケルはその帰り道、サイトウと歩いていたその上空にダイヤ型の飛行物体が突如として現れ、黄色い円筒の光に包まれたタケルはそのままアブダクションされてしまった。

タケルの前にいたのは、トカゲの顔をした身長3m程の巨人だった。抵抗したタケルは気絶させられ、目を覚ますと暗い檻の中にいた。

「あなた、誰?」

姿は見えないが横から女の声がした。タケルが聞き返すとまた別の声が答えた。

「ここは、スラーヴォ達の星にある、地下牢。お前は捕まったんだ。スラーヴォにな」

――――――――――――――――――――

スラーヴォ三幹部の一人ルーノは衛星ブラックナイトに降り立ち、アトラスを起動させた。

南大西洋の海から円形の大陸であるアトラスが姿を現した。洋上空に静止したその大陸へ月から大勢の艦隊が還っていった。

アトラス中心のピラミッドから下界を見下ろすトクォーノはルーノから総員帰還の報告を受けるとティラーノにレムリアン殲滅作戦の実行を指示した。

空中要塞アトラスからスラーヴォ兵を乗せたトランスポーターが世界各地へと散っていく。スラーヴォによる人類への攻撃が始まった。


突如引き起こされた異常事態に地球防衛軍主要メンバーが再集結した。

本部基地において強固なバリケードシステムを用いるものの、いとも簡単に突破されてしまう。そして捕えられたメンバー20人の前でティラーノは語った。

「私たちが誰だか気になるだろう。もちろん教えてやる。だが何と言えばいいだろうか…?月に住む、預言石(プラフィシーストーン)を落とした者?地球(この星)の前の支配者?まぁ、とりあえず、そんなところだ」

――――――――――――――――――――

男の声はタケルに語った。

「スラーヴォは、人類が地球の覇者になる前に、地球を支配していた、言ってみれば宇宙人だ。ある争いに敗れ、地球の衛星、月に逃げた。そこで密かに地球の奪還する計画を練っていた。そしてここが、月の奥の深くの地下牢」

何故地下牢にいるのか。タケルは懸命に記憶を辿った。

宇宙船での誘拐後、トクォーノ・ルーノ・ティラーノはドラゴニュートを歓迎した。そこで語られたのは悲しい現実だった。

「君が前に倒した"創造主"だが、残念ながらあれで全てではない。おそらくまた襲ってくるだろう。それもこの前の何倍もの勢力でね」

トクォーノは続ける。

「そこで提案だ。私たちも"創造主"と敵対しているような種族だ。だから手を組まないか?そして共に"創造主"を撃退する。双方にとって素晴らしい提案だと思うのだが、どうだろう?」

地球のため、タケルはその提案を承諾した。するとトクォーノは言った。

「君の本来の姿を見せてくれ」と。

しかしタケルは戦いの記憶が欠如していた。覚醒した姿になる術をタケルは知らなかった。

そしてそのことを三幹部に見抜かれたのであった。

「力の使えない子供に用はない」

そうしてタケルは収監された。

タケルはそのことを男の声に話して聞かせた。

男は名をドミナードと名乗った。

「ああ、末永くよろしくな、タケル」

「どうして一人でブツブツ喋っているの、タケル?」

女の声がした。女は名をビオロと言った。そして小さい時からここにいると。


そして、それは唐突に起こった。

タケルの牢の前に2人の男が立っていた。槍を持つ一人は祖先の仇を取ると息巻いていた。

槍先がタケルに向けられる。

「よくも、俺たちの先祖を殺しまくってくれたな!罰を受けろ!死に腐れ!!」

逃げようにも、鎖に大の字で繋がれたタケルに動けるはずもない。

槍がタケルの胸を貫通した。

槍を持った男が血の付いた槍先をビオロに見せていると、タケルの体が痙攣し始めた。

繋がれた鎖はカタカタと音を立てる。ふと、音が止む。その瞬間タケルは爆発した。

鎖や鉄格子は吹き飛び目の前の男2人に直撃する。青い血が飛び散る。再び覚醒したタケルは死骸を踏みつけた。

タケルはビオロを抱えて地下牢を抜け出し、月の地面を蹴ると龍牙城遺跡に着地して気を失った。


人の姿に戻ったタケルをビオロが介抱する。唯一横たわっていた木に腰掛けたビオロは、木の中に手が引き込まれ、液体のような感触から手を抜くと刃のない剣の柄を握っていた。

突然、後頭部に銃口を突きつけられた。タケルとビオロはスラーヴォに捕まった。


タケルは目を覚ますと目と鼻の先には十字架にかけられたサイトウがいた。

よろけつつ駆け寄ろうとするタケル。しかし透明な壁がそれを阻んだ。タケルの前に立ちはだかるティラーノはゲームを持ち掛けた。

次の日の出までに覚醒を成せなければサイトウを殺すと。

覚醒の記憶がないタケルにティラーノが囁く。月では胸に槍を突かれて覚醒したと。

ティラーノの寄越した槍を手に取るタケル。

辞めるように言うサイトウに微笑みタケルは自らの胸を突いた。肺を貫通し、ドッと血を吐く。しかし覚醒しない。腕に、脚に、次々にタケルは傷をつける。痙攣が始まらない。

泣き喚くサイトウを想い、タケルは喉奥を突いた。脊髄を突き抜け、槍先が首を貫通したタケルはついに気を失った。


タケルは眠った。サイトウは最後の晩を回想して過ごした。孤独だった幼少期、研究時代、タケルとの出会い、クロウリーの接触、洗脳、タケルとの再会。

サイトウは幸せであった。

「タケル、今まで、本当にありがとうね」

タケルが目を覚ますと、地平線から煌めく太陽の光に包まれながら、サイトウは切断され肉塊となった。


放心したタケルは十字架にかけられて3日が経った。

タケルは自分がボルケーノを喰らう瞬間を、自分が月で胸を突かれる瞬間を目撃していた。

後悔の中、タケルの体も6つに切断される。落下する胴から再生したドラゴニュートは空高く飛び上がった。

「…スベテ、コロス」

タケルは片っ端からスラーヴォを惨殺していく。

ティラーノを上空から持ち上げ地面に叩きつける。ティラーノの肉体は粉砕した。

「オガァ、ザン…」

タケルは虫のたかる肉塊を掬い上げ、一晩中泣いた。


泣き疲れて眠ったタケルが目を覚ますと周りの惨状に嘔吐した。

タケルはありありと思い出した。肉を剥ぐ柔らかさを、骨を断つ硬さを。身が弾け、血が吹き出す感覚を。

自分の愚かさがサイトウを殺したという事実を。

タケルは何度も吐いた。そしてその場でうずくまり震える体を縮こめた。

――死んでしまいたい。消えてしまいたい。もう、嫌だ。何もかも。

そう思いながらタケルは目を閉じた。


「タケル」

誰かに呼ばれた気がして目を開けた。タケルは深い闇の中にいた。立ち上がって振り返ると、そこにはボルケーノがいた。

タケルはボルケーノに駆け寄り抱きつく。ボルケーノの熱に身を預けながらわんわん泣いた。

「ずっとこうしていたい」

そう言うタケルをボルケーノは拒んだ。そして告げた。

「オ前ハマダ、戦ワナケレバナラナイ」

また続ける。ボルケーノを喰らったあの時、やり残したことがあると。

それこそが、魂の継承。それが行われなかったからこそタケルは力が制御できなくなり暴走したのだとボルケーノは語った。

タケルもボルケーノを拒んだ。もう戦いたくないと。

ボルケーノは諭すように言った。

「タケル、約束シタダロ。俺達デ世界ヲ守ルッテ。例エ望マヌ力デモ、オ前ガヤラナキャイケナインダ。イヤ、タケルニシカ、出来ナイ事ナンダ。コレガタケルノ、使命ナンダ」

「じゃあ、やろう。魂の継承を」

ボルケーノの体は光り輝き体内の一点に吸い込まれるように収縮した。その赤い球が魂の本体。

「いただきます」

タケルはボルケーノの魂を喰らった。次の瞬間、タケルは荒野にいた。

――みんなを助けたい。

そう思うと体から力が溢れ出た。真っ赤な目に黒い虹彩が浮かび上がった。


タケルは厚い雲を抜け、目下の地球から、黒いピラミッドを見つけた。

その上部に侵入するとビオロと捕まった地球防衛軍のメンバーがカプセルに閉じ込められていた。

「やっときたか、ドラゴニュート」

トクォーノが玉座に座っていた。瞬時にタケルの前に移動すると圧倒的なスピードでタケルを圧倒する。

タケルはピラミッド外へと投げ飛ばされ、大量のスラーヴォによって撃ち落とされた。


トクォーノの命令によりブラックナイト衛星内の制御コンピューターを操作していたルーノはピラミッドの上部を月面にまで打ち上げた。

そこに影が降り立つ。

「な、なぜだ!何故貴様が、ここにいるんだ!…ドラゴニュート!」

ルーノの肉体は弾けた。

影はコンピューターを操り呟いた。

「…レムリア、起動」


タケルはスラーヴォに蜂の巣にされていた。力が暴発し転がった機関銃を拾って反撃する。しかしすぐに弾は尽きる。まだまだスラーヴォは溢れている。タケルはスラーヴォ目掛けて突っ込んだ。時間がゆっくりと流れる。

強い力を望んだタケルに声が囁いた。

『怒りだ』

『怒りは、パワーの源だ。思い出せ。木に潰された母親を、身代わりとなって死んだボルケーノを、自分の無力さ故に惨殺されたサイトウ達のことを』

タケルは死んでいった人々のことを想った。

――なんで死ななければならなかった。何をしたって言うんだ。何故争う。…許さない。俺が終わらせる。死をもって、償わせる!

「ウオオオォォォォッッッッ!!」

瞬時に傷が回復し、タケルはスラーヴォの体を裂いた。

腹の底から沸々と込み上げてくるものを吐き出すとそれは勢いよく燃えた。

タケルは辺り一面に炎を吐いた。焼ける苦痛に悶えるスラーヴォを無視してピラミッドに戻る。

先端のなくなった平たい面にトクォーノはいた。

「どうしてそんなことするんだ!」

タケルは問うた。トクォーノは答えた。

「どうして?そんなことは決まっている!憎き創造主どもに反旗を翻す為だ!」

口論が続いた。

「その創造主って、誰のことなんだよ」

「知らないのか?私たちスラーヴォを創造し、奴隷のように扱ってきた存在だ。この星にいたレムリアンも、全て創造主によって創られたのだ」

「じゃ、じゃあなんで、そんな事の為に人間が殺されなきゃいけなかったんだよ!」

「今更何を言う。お前らが我々の故郷を奪ったくせに。それにレムリアンの監視の為に月にまで追いやられたのだぞ!」

「奪われたら、奪い返すって訳か…?」

「当然だろう!この地球は私たちスラーヴォの物!それを奪った奴らを皆殺しにして何が悪い!」

「いいわけないだろ!お前らの勝手のせいで!一体何人死んだと思ってるんだ!」

「何を言う。それは貴様も同じ事だろう!」

「なっ…!」

「女を殺された腹いせに、何人の同胞を殺した?ここまで来るのに、お前は私の仲間を殺しているんだぞ!」

「それは…」

トクォーノはある提案を持ち掛けた。

「ドラゴニュート、全て水に流そう。こうなる事は分かっていた」

「ど、どういうことだよ」

曰く、預言石騒動は創造主打倒のためにスラーヴォ三幹部とポステ王が共同で行ったことだったという。そして目論見通り打倒の鍵となるドラゴニュートが見つかり、創造主の小艦隊は破られた。その後ドラゴニュートに接触し、共に創造主に立ち向かう手筈であった。それは失敗に終わったが、まだやり直すことはできる。共に平和な世界を作ろうと。

トクォーノはそう言った。

タケルは決断した。

――平和な世界を作るのは、俺一人で十分だ。

「…断る」

タケルとトクォーノによる人間とスラーヴォの未来をかけた最後の戦いが始まった。


――バーーーーーーン!!!


下界から巨大な木の枝がアトラスを穿って伸びる。

「アトラスが、崩壊する」

トクォーノはアトラスと共に地の底落ちていった。

タケルはその隙に月へと飛んだ。

カプセルを破壊して捕えられたメンバーとビオロを解放する。

タケルは月面に転がったピラミッド上部を地球に向かって押す。そして瞬時に地球に戻り、加速し続けるピラミッド上部を地表ギリギリで受け止めようとする。

腕は2本生え、翼はさらに大きく広がる。

タケルは押し潰され、なんとかピラミッド上部は止まった。ビオロの一声により瞬時に脱出すると、タケルが爆発しピラミッド上部を地球外に吹き飛ばした。

土煙の中で、影が蠢く。

「ゴアアァァァ!!」

影がマイケル目掛け、襲い掛かる。

ビオロがマイケルを押す。代わりにビオロが吹っ飛ぶ。

仰向けに倒れたビオロを見下すように、影が仁王立ちする。

「ガアアァァ、オオァァァ!!!」

影がビオロの肩を掴み、顔の目の前で吠える。

「タケ…ル、落ち着いて…」

「ウガアアァッッ!!!」

ビオロの両肩を引っ掻く。それでもビオロはタケルの頬に触れた。タケルは頭を抱える。

「ビ、オロッ!」

タケルがビオロに覆い被さるように倒れる。そしてみるみる人間の体に戻っていく。眠りについたタケルをビオロはそっと抱きしめる。

「よく頑張ったね、タケル」


タケルは目を覚ました。地表では雪が降っていた。

「ここにいたのか、ドラゴニュート」

そこには、鎧を脱いだトクォーノがいた。

「トクォーノ、まだ生きてたのか」

「ここで、死ねる訳ないだろう。今こそ、お前を倒す時だ」

タケルは少しずつ後ずさる。もう一度覚醒する力は残されていなかった。

「タケル!」

ビオロの声がして振り返る。ビオロがタケルに刃のない剣の柄を投げた。受け取った瞬間体に電気が走り、折れていた刃が再生する。

タケルとトクォーノの間に吹雪が舞っていた。視界が悪くなる。それでも、タケルは強く地面を蹴る。

一閃。体が真っ二つに割れた。タケルの手から剣が抜け、地面に突き刺さる。

不意に、雪が止む。雲が高速で流れて行き、太陽が顔を出す。

「…おい、これは…?」

「きゃあっ」

「ダメだ、目を伏せろ」

地球防衛軍の人たちの声がする。

「なんで、なんでこんな事しんだ!」

タケルは振り返る。そして、体が凍りつく。

辺り一面の雪が、赤い血で染まっている。

そこに立っているのは誰かの下半身。

転がっているのは誰かの…いや、マイケル司令の上半身であった。

「この裏切り者が!」

「違う!俺じゃない!俺はやってない!」

地球防衛軍メンバーの背後に、何者かが降り立つ。

「いいや、あいつだ!」

その声にメンバーが一斉に振り返る。

「え、ど、どうなってるんだ?」

その場にいる全員が困惑した。

タケルはそいつと睨み合う。

「タケルが、2人…?」

「みんな騙されてないで!僕が本物のタケルだ!創造主の艦隊を倒した後、あいつに閉じ込められていたんだ!」

もう一人のタケルは、タケルの手から抜けた剣を指差した。その剣には赤い血がべっとりと付着していた。

「違う!このタケルは本物よ!そして司令を殺したりなんかしてないわ!する訳ないじゃないの!」

ビオロの抗議も虚しく、そこにいるメンバーは完全にタケルとビオロを疑っていた。

「今はこの場から離れよう。みんな手を繋いで」

翼を広げたもう一人のタケルに手を引かれ、浮遊していくメンバーらにタケルは叫んだ。

「待ってくれ!騙されないで!そいつは偽物なんだ!!」

しかし太平洋上空へと消えゆく彼らをただ茫然と見届けることしかできなかった。


【次回予告】

〈外典Ⅱ アナザージェネシス〉

ある晩語られるのは、惑星テラエで繰り広げられる、新たな創世の物語。

これは過去からの伝承か、それとも未来への予言か…。

そして、少年は目を覚ます。

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