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外典I アナザーワールド

2020年代から、世界の二極化は激化した。

そして2030年代に入り、徐々に地球は氷河期へと突入する。氷は両極を中心にゆっくりと広がり、資源と領土を求める高緯度地域の国々は南下政策として、敵対する国々へ侵略を開始した。それと同時期に加速する、異宗教間の対立…。

第三次世界大戦の開戦である。

対戦の最中、敵国のコンピューターを破壊する目的で使用された電磁パルス兵器。その副作用により人間が内側から爆発する現象が世界中で多発した。

9年間に及ぶ戦闘と電磁パルス兵器の惨劇により世界人口は10億人にまで減少した。

生き残った者の大半は地下シェルターに逃げることのできた人だった。

時が流れ、ようやく過去の姿の一部を見せだした地球だが、人の数が減ったことにより、次第に住居の数も減っていき、寒冷化の影響か植物が育ちにくくなり、世界中で荒野が広がっていった。


その後、預言石(プラフィシーストーン)の到来によって一般市民の避難が始まった。またしても地下に逃げるのである。

しかし以前と違うのは、地下に逃げる者に高額な通行料を要求したことである。

一般市民は三つの種類に分かれた。金を払って地下に逃げる者、金が払えず地上に残る者、電磁パルス兵器の事件より、政府に不信感をいだき、世界の終わりを信じずに地上に残る者だ。

地下に逃げる者は世界中にある10のゲートを通る必要がある。検問所のようなものである。ゲートは東京、ロンドン、モスクワ、ローマ、ニューヨーク、シドニー、カイロ、ニューデリー、ブラジリア、ハワイの10箇所である。そのゲートの通行料がとてつもなく高いのだ。この時代なら家が建つ。

そして人類は、地下逃亡組と地上残留組で、ほぼ人口が半分に別れたのであった。

――――――――――――――――――――

日本に住む少年ジンは母親と共にゲート東京から地下シェルターへ避難した人間の一人である。

地下エレベーターに乗り、地下2km地点にある居住エリアへと足を踏み入れた。

小さな三部屋だけが与えられた家でありそれが連なる集合住宅群。家に併設する畑で芋を育ててかじる生活がそこにはあった。


地下での生活が始まり1週間が経過したある日、ジンは種芋を買いに街に出た。

かつての池袋が再現されたニュー東京街には全てが揃っている。プロジェクションマッピングで投影された空を見上げながら、ジンは地下の閉塞感を密かに嘆いていた。

種芋を買う列に並んでいると突然ジンはとある男に絡まれた。抵抗虚しく、ジンは路地裏へと連れていかれてしまう。

スタンガンで眠らされたジンは目を覚ますと、そこには2人の男がいた。名はボス・ディアゴとクリート・アバランディ。

ボスは言った。「力を貸してほしい」と。

ジンがその意味を聞くとボスは淡々と答えた。つまり2人の要求は政府機関で勤める「母親からゲート・シリコンバレーのパスワードを聞き出すことだ」と。

ゲート・シリコンバレー。一般市民には明かされていない関係者専用の第11のゲート。2人の目的はそこにある、全てのゲートを操るコントロールルームへの侵入。その果ては「政府からの民衆の解放と、地上残留組の避難。つまり地上も地下も不自由なく行き来できるようにする」ことであった。

2人はある組織に所属しており、その組織の大義でもあった。ボスは地上に残してきた貧しい両親を地下に連れてくるためにこの組織に参加したのであった。

ジンは2人に言った。母親からパスワードを聞き出す条件として、

「僕を…その組織に入れて下さい」

クリートは尋ねる。

「俺たちがやってるのは反逆だぞ?捕まれば死ぬかもしれない」

ジンは答える。

「覚悟の上です」

仲間たちの許可が下り、ジンの入会が認められた。


その晩、ジンは風呂の中で母親を問い詰める方法を模索していた。そのまま睡魔がやってきて、ジンはうとうとと眠りに落ちた。

ジンは目を覚ますとある妊婦が尋問されている光景を目の当たりにした。尋問を施す男はその女をレーナと呼んだ。それはジンの母親の名前だった。

ジンは風呂の中で目を覚ました。夢の話をボスにすると、15、6年前の女性職員の話をされた。そんな人間が夢に出てくるはずもないとジンは自分の中で結論付けた。

翌日、母親が仕事に出掛けたのを見計らい、ジンは母親の部屋を物色していた。二重底の奥から見つけたものは日記だった。父と母の新婚時代の記録に紛れ、その日記には恐ろしいことが書いてあった。

父親の命令でパスワードにアクセスしたこと、その後母親が行方をくらましたこと。記憶をなくした母が赤ん坊を抱いて帰ってきたこと。その記憶を取り戻そうと、父が母を感電させたこと。そして母は洗脳されたと言い出して、家を出た父親のこと。

ジンは心を捨てた。夜、母親が寝静まると父と同じやり方で欠けたパスワードの記憶を蘇らせた。

――――――――――――――――――――

3日後、ジンはボスとクリートと、各ゲートを繋ぐ地下鉄ゲートラインに乗り、Re-BIRTH(リバース)の本部のあるゲート・ハワイに向かっていた。

トンネルの中にある入り口を抜けると、賑やかな面々がジンを迎えた。

Re-BIRTHのトップ、ライドン。そしてマーシャル、ロック、ティコ、リース、クリム、ベル、ボスとクリート、ニューヨーク行政府で働くスパイ、"V"。これにジンを加えた11人は3日後、"革命"を起こすことが決まった。

それはそれぞれが11のゲートに潜入しキーを盗み、同時にキーを回すことで全てのゲートを解放することであった。


ジンは"V"に、母であるレーナのことを尋ねた。するとレイナはシゲル・ネイサルドという男の秘書であることが判明した。そしてその男こそ、現東京行政府府長兼ゲート・東京総責任者であった。

そしてジンの潜入先はゲート・東京に決まった。


2日後、出発の1時間前。ジンの部屋にやってきたクリートは神妙な顔つきでジンに布で覆われた小包を手渡した。それは一丁の拳銃であった。クリートはかつての復讐を語った。

大戦の爪痕の残るスラム街に生まれたクリートに物心つく頃には父親はおらず、酒と男にだらしない母親と3つ上の姉ミラと共に暮らしていた。

クリートが7歳の時に母親は食べるものを与えることをやめた。ミラは自分で稼ぐと言って滅多に家に帰らなくなった。

2年後、3ヶ月振りに帰ってきたミラにクリートは拳銃を手渡した。

「クリート、もし万が一のことがあったらこれを使ってね。姉さんは大好きなあなただけには幸せになって欲しい。すぐに、たくさんのお金が入るから、あなたはその金でこんな街から出ていって幸せになりなさい」

引き留めたクリートは聞いた。

「また会えるよね?」

「ええ、もちろん。いつかね」

しかし1年待てども、ミラは帰ってこなかった。10歳になったジンは母親に売られた。

ある日の真夜中、主人に襲われたクリートは思わず発砲した。主人は死んだ。クリートは持ち物を漁って逃げた。

クリートは姉を探すことにした。手がかりは身近なところにあった。主人の持ち物の中に、クリートとミラの名前の載った紙があった。そこにはミラを買い取った男の名前も書かれていた。

夜になり、クリートは男の家に侵入した。奥の部屋にうつ伏せで倒れている人がいた。ミラだった。

酷く痩せこけ体中に傷や痣があり、冷たかった。

ミラは目を覚ました。涙を流すクリートの頭を優しく撫でるとそのまま事切れた。

クリートは怒りのままミラを買った男とその仲間を殺した。

実家に戻り、見知らぬ男を殺すと母親に銃口を突きつけた。母親は泣いた。泣いて助けを求めた。クリートは引き金を引いた。

その後、荒野を徘徊したクリートはボスの家族に保護された。こうしてクリートの復讐劇は終わった。

そして拳銃をジンに託した。新たな復讐が始まろうとしていた。


ゲートキーはゲート総責任者の部屋にある。通気口の中でジンはシゲル・ネイサルドの会話を聞いた。

「王が私をお呼びになった。私は王に謁見してくる。私は一月ほど留守にするが、こちらのことは頼んだよ」

作戦か敵討か。ジンに選択が迫られた。作戦開始予定時刻まで残り2分。

ジンは廊下に降りるとネイサルドの太もも目掛けて発砲。顔を覆う布を剥がして名乗った。

「僕はジン!ジン・オーガスト!クロウリー・オーガストとレーナ・オーガストの息子だァァァッッ!」

ネイサルドから聞かされる、事態の全容。レーナはパスワードを知ってしまい、ネイサルドによって尋問・洗脳されたのだった。

ジンは時間に間に合わなかった。10個のキーが同時に回される。自爆装置が作動した。

ネイサルドは言った。

「ふっ、11ある世界中のゲートは全てのキーを同時に回さないと、機能しない。そして全て揃わずにキーを回すと、自爆装置が作動する。つまり、この東京以外が吹き飛ぶんだ。お前のせいでな、ジン」

ジンは発砲した。その瞬間激しい揺れに襲われた。そして施設の電源が落ちた。

『ああ、全部、お前のせいだ。ジン…』

ジンはクリートの最後の言葉を聞いた気がした。通信機に応答を求める。誰一人として返事はない。

ジンは作戦を思い出し、ネイサルドの部屋からゲートキーを奪った。制御室まで走る最中、ネイサルドの死に顔を見た。笑っていた。ジンはネイサルドの言葉を反芻した。

「あああああああああああぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」

その場に崩れ落ちる。

「嘘だ!嘘だ!そんなの噓だ!嘘に決まってる!」

ジンは何度も頭を床に叩きつけた。

「嫌だ!嫌だ!そんなの嫌だ!」

ジンが泣き叫ぶ中、自爆装置により壊滅的な状況になった9つの都市に、そして東京に、オペレーション・プルーヴィ、高濃度のフッ化水素酸の雨を1ヶ月間降らせる、通称"死の雨作戦"が発動した。

停電の暗闇の中、正体に気づかれたジンは職員に尋ねた。

「僕たち一般市民は、あんたらから見たら、どうでもいい存在なのか?苦しんでる姿を見ても、自分の保身のことしか頭にないのか?だったら政府の職員なんてクズの集まりだ。なんでそんなにクズなんだ?」

発砲。女性職員の悲鳴が聞こえる。ジンは決意した。

…王だ。そうだ、悪いのは全部王だ。殺してやる、この手で。

――――――――――――――――――――

数年後。

ジンはポステ王の目の前に跪かされていた。

「ほう、君が地下世界最後の生き残りか」

ジンは俯いたまま、何も言わない。

「おい、答えないとは何様のつもりだ」

腹に縛られていたロープの持ち主に、背中を蹴られる。

「チェセルヴィスト、君は下がっていろ」

「仰せのままに」

ジンを押さえていた人間がいなくなる。

部屋には、ポステ王とジンだけになる。

「君、名前をジン・オーガストといったか?」

「…だったらなんだ」

「いや、単に気になっただけさ。レーナ・オーガストの息子なんだからね。君は…ジンは、レーナ・オーガストのことをどう思っているんだい?」

「言っても何も変わらないだろ」

「いいや、変わるさ。私はジン、君と友達になりたいんだ。君は今まで数多くの人間を殺してきた。敵であれば大きな脅威だが、友であるなら心強い。どうせ行くあてもないんだろう?どうだい、私のボディーガードになるというのは?」

「行き先は決まっている」

「ほう、そうかい。それはどこなんだ?」

「教えない」

「どうしてだ、友よ。教えてくれよ」

「僕に友人なんて一人もいない」

「寂しい奴だな。なら友じゃなくともなんでもいい、教えたまえよ」

「ああ、分かった。いいぜ」

ジンが顔を上げる。そして狂気ともいえる満々の笑みを浮かべてこう言った。

「冥土の土産なら、な」

ポステ王も、口を開けて笑う。

「はっはっはっはっは、それは面白い。お前の様な分際で私を殺すだと?」

ジンは動いた。王の両手を押さえ、喉元に銃口を突きつける。

「ほう、流石だ。だがジンよ、私を殺して何になるというのだね?」

「お前が、地下人類を殺した。これは、復讐だ。報いを受けろ」

「何を言っているんだい?4.5億人を殺したのはお前だろ、ジン」

「違う!」

「ああ、そうか。まんまと罠にかかったRe-BIRTHの連中のせいか」

「それも違う!」

「だったらなんだ、システムを作ったお前の母親、レーナ・オーガストだとでも言うのかい?」

「そんな訳ない!全部、お前のせいだ!なんで人類滅亡なんてホラを吹いたんだ!どうして、みんなは、死ななきゃならなかったんだ…」

ジンはまた項垂れる。

「ああ、可哀想なジンよ。いいさ、教えてやろう。何故5億人が死ぬことになったのか。ジン、君は"6枚のモノリス"というものを知っているかい?」

「…知らない」

「そうか。これはな、第二次世界大戦の戦勝国達が、世界の行く末を決め、それを記録した石板のことをいう。この石版には、

"人類の数を5億人にする"

との記述があった。私達一族はこれまで、その目的の為に様々な手筈を立て、実行に移してきた。世界を二極化を煽り、南下政策をせざるを得ない状況を作り、宗教間の対立を激化させ、第三次世界を起こした。その後人類の数はどんどん減少し、ついには10億人にまで減らすことが出来た。だが残りの5億人をどうするのかに悩まされた。そんな時、とある友人に、異星人の襲来を提案された。それに賛同した私達は、預言石を落とさせ、下部組織である国連にわざわざ地球防衛軍を設立させた。彼らはなんとも上手い芝居をしてくれた。お陰で臆病な5億人は地下に逃げた。まぁ、地上に残った選ばれし奴隷達の中にも、これを世界の終焉だと思い込み、集団自殺を図った者もいた。これで奴隷の数は減ってしまったが、足りなければ増やせばいいだけの話だ。話は逸れたが、その5億人を元々はオペレーション・プルーヴィで殺すつもりだった。これは政府の中でも極秘に進められていたが、勘のいい奴は何かがおかしいことに気づいていたようだ。ベール・ベリアントのような奴がな。ああ、君には"V"と言った方が分かるかな?」

ジンは目を見開く。

「何故知ってるんだって顔だね。"V"に意図的に情報を流したのも私達なのだよ。お陰でレーナ・オーガストが作り変えたシステムに、見事に引っかかってくれただろう?"V"にライドン・ラクダスを紹介したのも私達だ。そしてRe-BIRTHは結成された。後は分かるだろ?君が4.5億人を殺した。そして残りはオペレーション・プルーヴィで死んだ」

ジンが顔を上げる。

「やっぱり、お前じゃないか。5億人を殺したのは」

「何言ってる。それはジン、お前だろ?それに私は先代の意思を継いでるだけだ。これは決まっていたことなんだ。ジン。お前も運命を受け入れろ」

「おかしいとは…思わなかったのか?」

「疑問を持つ方がおかしいだろう?」

「いや、おかしいのはお前だ。みんな狂ってる。そんな奴は僕が殺して、平和な世界を作ってやる」

ジンはまた笑う。そして銃口をさらに強く突きつける。

「はてさて、狂ってるのはどちらだろうな」

発砲。弾が王の首を貫く。扉が大きな音を立て開く。

「なんだ今の音は!…ポステ王?」

ポステ王を見た護衛集団の顔色は、悲しみ、戸惑い、怒りと、様々であった。

「お前が…王を殺したんだな…?」

「ああ、そうさ。お前らも殺す」

その後ジンは、王宮内の人間を全て殺害し、暗闇の中に消えていった。



【次回予告】

〈第弐章 奪還奪取篇〉

あれから5年、タケルは再び目を覚ます。新たな敵、新たな出会い、そして、別れ。

奪い、奪われ、歴史は紡がれていく。

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