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第壱章 地球防衛篇

ある日、地球に星が降った。

場所はアフリカ大陸南東部。そこに落ちた星には文字が刻まれていた。月面で採取された岩石と組成が一致したその星は預言石(プラフィシーストーン)と名付けられ、文字の解析が進められた。

その結果、星の文字はヲシテ文字に酷似していることが判明し解読すると次の事が書かれていた。

『地球に危機が迫っている。我らによって太陽が隠される刻、創造主が軍を率いて地球を滅ぼしに来る。救えるのはドラゴニュートのみ。』

ドラゴニュートとは何なのか。それを示す文献が龍牙城遺跡から発見されていた。

7年前、青森の奥地で発見された古代遺跡、龍牙城遺跡。

そこで出土した粘土板にドラゴニュートについてこう書かれていた。

『ドラゴニュート。神から賜りし龍王の血。ドラゴニュート。龍を操り世界を統べる者。ドラゴニュート。その姿は人。ドラゴニュート。絶望の淵に龍が出でる。』

地球を守るには、次の日食までにドラゴニュートを見つける必要があった。66日後のタイムリミットまでに、世界中で極秘にドラゴニュートの捜索が始まった。

――――――――――――――――――――

とある施設の中にある全てが白色で統一された部屋の中にタケルという名の少年がいた。

タケルの世界の住人はタケルとお母さんの2人だけだった。タケルはお母さんに与えられた食事を食べ、お母さんに与えられた本を読み、お母さんに言われた時間に眠りについた。

それが今までのタケルの人生であった。そしてそれはずっと続くものだとタケルは思っていた。かつて読んだ本曰く、〈この世界は、何度も同じ事を繰り返す。生を受け、育ち、死するのだ。この流れから抜け出すことは出来ない。そう、永遠に。物事は全て、この絶対的なサイクルを廻り続けるのだ〉であった。


しかしそんなタケルの日々は突如として終わりを迎えた。睡眠薬で眠らされたタケルは目を覚ますと真っ暗な世界にいた。

タケルは懸命に母親に助けを求めた。飲まず食わずで2週間、助けを求めて叫び続けた。

そんなタケルを監視している人間が2人いた。クロウリー・オーガストと、タケルの母親を演じていたサイトウという女だった。

遂にタケルに限界がきた。吐血したタケルは死を覚悟した。薄れゆく意識の中で何者かの声を聞いた。

『ソウカ。マダ諦メルナ。待ッテイロ』

突如、龍牙城遺跡が火を噴いた。飛び出した何かは空を切り、タケルのいる施設の天井を剥がした。

こうしてタケルとドラゴンは出逢った。

ドラゴンの血を舐めて回復したタケルはドラゴンと共に逃げ出した。タケルはドラゴンをボルケーノと名付けた。一人と一匹は逃げ出したものの、すぐに施設に捕えられてしまった。

政府高官の視察を受けたタケルとボルケーノのアメリカ行が決まった。ドラゴニュートの少年として、アメリカにある地球防衛軍本部への配属が決定したためであった。

――――――――――――――――――――

地球防衛軍本部にて訓練を受けていたタケルだったが、その最中に太陽が何かに覆い隠される事件が起きた。

夜が続く地球から地球防衛軍が出撃した。

地球を飛び出したタケルとボルケーノ、そして人工知能による自立飛行戦闘機隊の目の前に巨大な戦艦が待ち受けていた。戦闘機の搭載した最新型の水素爆弾でさえ敵艦の装甲を破壊することはできなかった。

しかし敵艦の背後に回り込み、動力系統に最大火力をぶつけることで戦艦の撃墜に成功した。

しかしタケルらが破壊した戦艦は、敵部隊の偵察艦であった。突如現れる五隻の艦隊。その一つは先の戦艦の数倍の大きさを有していた。

敵の主艦のジャミング攻撃により通信系が破壊された地球防衛軍は人工衛星からの状況通信と自立飛行戦闘隊への命令通信が遮断された。

同時に、ジャミング攻撃により地球を周回する四万基の人工衛星によって展開されていた三重のエネルギーバリアのうちの第三バリアが全壊し、第二バリアが半壊した。そのタイミングで、敵の誘導弾が第二バリアに着弾した。

自立飛行戦闘隊を失い、孤立無援の状況に陥ったタケルは忘れていた恐怖心が蘇り戦意をも失った。ボルケーノの支えによって正気を取り戻したものの、状況が好転したわけではなかった。タケルは一か八か敵艦に潜入し、内側から破壊する作戦を思いついた。

タケルの作戦を受け入れたボルケーノは主艦の潜入に成功するが、内部で敵兵に捕えられてしまう。

拘束されたタケルは敵艦長の前で目を覚ました。

艦長のルーデルはタケルの目の前で対地球破壊光線砲、通称対地砲を発射した。残された第二バリアと第一バリアの消滅により破壊を免れた地球だが、ルーデルは第二射の充填を命じた。そしてタケルとボルケーノを誘導弾に括り付けて送還させる命令を下すと、指示の通りに地球目掛けて打ち出されたのであった。

――――――――――――――――――――

タケルは目を覚ますとエスペーロという少年と彼の母親が父親の肉を食べている光景を目の当たりにしていた。母親曰く、それが命を頂くという行為であり、食べられた肉が新たな血や肉となりそうして永遠に生きることに繋がるということだった。

タケルが目を閉じるとそこにはただ闇があった。

――――――――――――――――――――

ボルケーノが目を覚ますと黄色い光線が地球目掛けて迫っていた。ボルケーノがそばに転がっていた誘導弾を持ち上げて飛び立つと、光線は地面の直前で屈折してボルケーノを焼き、空の彼方へと消えた。

タケルはボルケーノが落ちる瞬間を見た。

「ボルケーノォォォォォォォォ!!!!」

タケルは叫んだ。黒焦げになったボルケーノにボロボロの体で這い寄った。

ボルケーノは最後に自身の願いを語った。

『俺ヲ、食エ』

ドラゴンの肉を喰えばタケルは助かる。

『タケル…俺ハ、イツデモ、傍ニ、イルカラナ。今マデ、本当ニ、アリガ…トウ……』

その言葉を最後にボルケーノは息絶えた。

タケルはエスペーロと母親の話を思い出した。ボルケーノを食えば、ボルケーノとずっと一緒にいられると。

「ボルケーノ…いただき、ます…」

タケルはボルケーノの腹に噛み付くと、一心不乱に肉を剥ぎ取り、咀嚼し、飲み込んだ。

薄れゆくタケルの意識の中でサイトウとの会話が沸々と浮かび上がってきた。

「もし敵の宇宙人に遭遇したら、構わず殺しなさい」

創造主がいなければ、タケルは今もあの白い部屋で本を読んでいたかもしれない。創造主がいなければ、サイトウは今も優しい母親を演じていたかもしれない。創造主がいなければ、タケルが命を懸けて戦う必要なんてなかったかもしれない。創造主がいなければ、ボルケーノは死んでいなかったかもしれない。

サイトウの言葉ががタケルの全てを支配した。

視界に映る一本の赤い横線。それは次第に太さを増し、ついに一面を真っ赤に染めた。

目の前が真っ赤になり、頭が割れそうなほど痛む。体中が痙攣する。

「ハァ、ハァ、コロス、ハァ、ウゴォッ、ガッッ、コロスッオェァッッ」

吐血。息が上がる。タケルはダメかもしれないと思った。タケルは諦めてしまった。殺したいほど憎い相手がいながら、タケルは動くことを諦めてしまった。

タケルは四つん這いの状態でピクリとも動かなくなった。既に意識は無い。しかしタケルは立ち上がった。

「コロスッ、コロスッ、コロスッ!ウガァァァァッッ!!」

そう叫び、背中を丸めると肩甲骨のあたりから皮膚を破って翼が生えた。

「グァァァァッッ!」

尾骨のあたりから、2mほどの尻尾が伸びる。タケルは両手を広げて胸を張った。

「ガァァァァァァッッッ!!」

体はどんどん大きくなり、皮膚は真っ赤に染まった。服が燃え尽き、性器が消滅し、欠けた顔が再生した。後頭部から2本のツノが生え、爪と耳は細く鋭利になる。

タケルは覚醒した。ドラゴニュートとして。

「コロシテヤルッッ!」

強く地面を蹴るとタケルは瞬時に地球防衛最終ラインを突破した。

そしてそのまま敵の小型艦4隻を撃墜させた。

続いてルーデルの乗る主艦に降り立つタケル。艦内には警報が鳴り響き、警備隊が侵入地点に急行した。

タケルはそこにいた。警備隊がすぐさま発砲する。タケルが動く。100mの距離を瞬きの合間に満たない速度で詰めると、両手で警備兵2人の心臓を抉り取っていた。

落ちていた銃を拾って投げつけると、真っ直ぐ飛んだ銃は3人の首を貫通した。

目に映った創造主を片っ端から蹂躙していくタケル。艦内は創造主の肉塊で溢れ、床は青色の血で染まった。


タケルは一枚の扉を蹴り破った。

「コロス…コロス…コロシテ…ヤル…」

それはルーデルのいる艦長室の扉だった。

「コロス、コロスッ、ルーデルッッ!!」

ルーデルを視認し迫るタケル。ルーデルは後ずさる。

「落ち着けドラゴニュート、わかった、地球は破壊しない!だから…命だけはッ!頼む!殺さないでくれ!!」

「オ前ハ…ボルケーノヲ…コロシタァァァァッッ!!」

「ボルケーノ…?な、なんのことだ。私は知らない!」

ルーデルが壁まで追いやられる。

「悪かった!謝る!だから、殺さないでくれ!」

顔を両手で覆い命乞いをする。

「笑エル、様ダナ」

ルーデルの両手が切り落とされた。

「ぎゃああああああああああああああっっっっっっ!!!!!」

「ドウダ、痛イカ?」

「やめろ、やめろっっ!、やめろぉぉぉぉっっっ!!」

「ウルサイ、奴メ」

タケルがルーデルの腹を蹴る。

「ぐほっっ」

ルーデルが血を吐いた。そしてその場にしゃがみ込む。

タケルはかつて自分がされた行為を繰り返していた。

「お願い、だ…助けて…くれ。なんでも、するからっ!」

上目遣いでそう懇願した。

「ナラ、死ネ」

タケルはルーデルの頭を掴み、引き抜いた。

ルーデルの首は音を立て、血を噴き出し、捥げた。

「ウォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッッッ!!!!!!!!」

青く血塗られた艦内にタケルの咆哮だけが響いていた。

――――――――――――――――――――

地球防衛軍総司令ジョン・マイケルは空を見上げていた。

そこには月があった。太陽の光を浴びて輝く月があった。

司令は確信した。

「ああ、そうだ。勝ったんだ。人類は」



【次回予告】

〈外典Ⅰ アナザーワールド〉

第三次世界大戦の終戦後、預言石の到来によって再び分断される人類。そこに待ち受けるのは、赤い血族の宿命。反逆の渦に飲み込まれる、少年ジンの物語。

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