告解には聞く覚悟がいる
白翔くんのボルボはいつも甘い匂いがする。
「白翔くんって香水つけてるの?」
「嗅覚は残っているので、香水は好きです」
「重いな……」
シートベルトを締めると白翔くんは「慣れてください。俺の体とは一生付き合ってもらいますから」と笑った。その発言も重かった。
「ところで……久留木さん、俺の事どこまで調べましたか?」
「ファンサイトは読むには読んだけど、信用できないと思ったから忘れちゃった」
「そんな都合の良い記憶をしていらっしゃるんですか?」
「そりゃそうでしょ。私の頭なんだから私の都合に良くなきゃ困るじゃない?」
肩を竦めると、白翔くんは目を丸くした。
「なにその顔?」
「……あなたは俺が思っていないことを言いますね」
「なにそれ、へんなの。まあ、私はきみよりきみの薬の方が興味あるかも。痛みも苦しみもないとか麻薬っぽい情報しか出てこないんだもん」
「あははっ……そんな素直に言う人がいますか? 全然違いますよ」
白翔くんが歯を見せて笑うのが珍しくて、今度は私が目を丸くする番だった。
でも彼は私の顔にはつっこまずに生き生きとした様子で薬の説明を始めてくれた。低くよく通る声で彼が言うことには、彼の薬の効果は痛みや苦しみを消すものではなく、その感度をおさえるものだそうだ。元々誤作動で大きくなっている機能を生活できるレベルまで下げる。
それは個性を殺すこととも考えられなくはないが、死にたいと思う気持ちをおさえる薬が認められていて彼の薬が認められない謂れはないそうだ。
「必要以上に痛む必要も苦しむ必要もないんですよ。人は楽に生きていくべきだ。余裕がないと、楽しみの忘れてしまうでしょう?」
「……ふうん、達観ね」
「痛いのも苦しいのも一生分経験しましたよ」
「……重いなあ」
「父はこの病気を苦で自殺を選びました。母は無理心中で連れていかれて、俺だけは運よくか運悪くか生き残り、その三年後発症しました。元々この薬は父が研究していたものなんです。その土台がなければ、俺も今頃死んでいるかもしれませんね」
「……そういう話を聞いてどういう顔をしたらいいのかわかんない」
「その顔をしていてください」
「私どんな顔してる?」
「困った顔をしています。聞きたくなかったなあって顔」
私はそう思っているので、そういう顔をしているのだろう。
「怒っている?」
「何故?」
「だって、……そんな薄情なこと、彼女が思うのだめでしょ?」
「さあ。どうでしょう。俺、彼女ができたの初めてなのでよく分かりません」
「それはさすがに嘘」
「なんでですか。本当ですよ」
車が赤信号で止まる。
エンジン音が続く。
「あなたには俺のことを知ってほしいんです。そしたらあなたは俺を見捨てないだろうから」
「捨てないよ……私、フラれない限りはきみの彼女だと思うよ?」
「はは、それは嘘でしょう?」
「なんで? 本当だよ」
私は本音で話していた。でも彼は苦笑した。
その顔を見たとき、私たちはきっとこんな風にこの先も分かり合えないような、そんな気がした。
「……白翔くん」
「なんですか、久留木さん」
「デートしようか」
「いいですね。どこ行きましょうか?」
「……私のこと、知りたい?」
彼は少し黙った後「はい、知りたいです」と言った。




