予感と不眠と不可避と
翼くんが職務質問を行っているのを横目で見つつ、私はファンサイトを読み漁る。
勝負を仕事にしている人間にとって、相手の思考を読むのは一番大事なことで一番慣れている作業だ。だけどここは雀荘じゃないし、相手は雀士ではない。なにもかも読みとくのは無理だろう。
それでもファンサイトに書かれているものを読み漁ることで、なんとか、少しずつ、その根底にある思考が分かってきた。
アカウントは大量にあるが、中心となって更新をしている人間は二名だ。
ひとりは恐らく大学にいる誰かだろう。先ほどの食堂での写真をあげているのもそうだが、白翔くんの写真をあげて、『こんなことも私は知っている』『こんなところも知っている』といった白翔くんのこと知っていますアピールが文章の節々から感じられる。あまり文章力は高くないようで、個人的な感情も混じっている。さっきの私のあげた恋人記事に『デマ』『あり得ない』といったコメントが複数ついているが、これをつけているのは恐らくこの人だろう。……こうなると盗聴器もこっちの人だ。そのぐらいのことをしそうな激情を感じる。
――私が一番、彼を知っている。私が一番、彼に近い――
「思ったより早く釣れるかも……」
しかし、むしろ、だからこそ問題だ。
私しか知らなそうな情報を挙げているのはこの人ではないのだ。この人とは違う、……感情が見えない人が別にいる。
ただ淡々と情報を載せているだけの冷たい文章の持ち主。仕事だからやっている、と言わんばかり、何の感情も見えない、まるで辞書みたいな文章だ。この人の松下白翔への感情はなにもわからない。
けれど、この人が、あのキッチンで起きたことや、白翔くんの車の中身を知っている。
――この人はなんなんだろう。……この人、なにがしたいんだろう。感情が見えないような、そんな人がリスクを犯してまで盗聴なんてするだろうか?
それに、『久留木舞』に対しての記事なんて私が書いたものしかない。それなのに怪文書が送られてきている。
――……本当に? 怪文書……ファンサイト……盗聴、……これらは、つながりはあるの……?
「……白翔くんの車の内装を、……知っている人間は何人いるんだろう……」
白翔くんがスパイスカレーを好きなことを知っている人間は?
――私でないなら、それは、……。
「候補……あるけど……」
でも、『だとしたら』何故そんなことをする必要があるのだろう。
だって、そんなことをしても『彼』にはなんのメリットもないはずで……。
頭が痛い。眠れていないからだろうか。体が疲れている。思考力が低下しているのが分かる。でも、シン、と『でも、そうだとしたら彼はなにを考えているのか』ということにだけ意識が集中していく。打っている時みたいに、ただそれだけに意識が傾いていく。余計な音はひとつもない。余計なことは他にない。ただ、それだけを考える。
――もしそうなら、彼は――
「アナタ久留木舞?」
「……え?」
ふいにかけられた早口に反応ができなかった。
顔を上げた瞬間『ヤバい』とだけ、分かった。




