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スーサイドメーカーの節度ある晩餐  作者: 木村
第三話 シュークリームとストーカー
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予感と不眠と不可避と

 翼くんが職務質問を行っているのを横目で見つつ、私はファンサイトを読み漁る。

 勝負を仕事にしている人間にとって、相手の思考を読むのは一番大事なことで一番慣れている作業だ。だけどここは雀荘じゃないし、相手は雀士ではない。なにもかも読みとくのは無理だろう。

 それでもファンサイトに書かれているものを読み漁ることで、なんとか、少しずつ、その根底にある思考が分かってきた。

 アカウントは大量にあるが、中心となって更新をしている人間は二名だ。

 ひとりは恐らく大学にいる誰かだろう。先ほどの食堂での写真をあげているのもそうだが、白翔くんの写真をあげて、『こんなことも私は知っている』『こんなところも知っている』といった白翔くんのこと知っていますアピールが文章の節々から感じられる。あまり文章力は高くないようで、個人的な感情も混じっている。さっきの私のあげた恋人記事に『デマ』『あり得ない』といったコメントが複数ついているが、これをつけているのは恐らくこの人だろう。……こうなると盗聴器もこっちの人だ。そのぐらいのことをしそうな激情を感じる。


 ――私が一番、彼を知っている。私が一番、彼に近い――


「思ったより早く釣れるかも……」


 しかし、むしろ、だからこそ問題だ。

 私しか知らなそうな情報を挙げているのはこの人ではないのだ。この人とは違う、……感情が見えない人が別にいる。

 ただ淡々と情報を載せているだけの冷たい文章の持ち主。仕事だからやっている、と言わんばかり、何の感情も見えない、まるで辞書みたいな文章だ。この人の松下白翔への感情はなにもわからない。

 けれど、この人が、あのキッチンで起きたことや、白翔くんの車の中身を知っている。


 ――この人はなんなんだろう。……この人、なにがしたいんだろう。感情が見えないような、そんな人がリスクを犯してまで盗聴なんてするだろうか?


 それに、『久留木舞』に対しての記事なんて私が書いたものしかない。それなのに怪文書が送られてきている。


 ――……本当に? 怪文書……ファンサイト……盗聴、……これらは、つながりはあるの……?


「……白翔くんの車の内装を、……知っている人間は何人いるんだろう……」


 白翔くんがスパイスカレーを好きなことを知っている人間は?


 ――私でないなら、それは、……。


「候補……あるけど……」


 でも、『だとしたら』何故そんなことをする必要があるのだろう。

 だって、そんなことをしても『彼』にはなんのメリットもないはずで……。

 頭が痛い。眠れていないからだろうか。体が疲れている。思考力が低下しているのが分かる。でも、シン、と『でも、そうだとしたら彼はなにを考えているのか』ということにだけ意識が集中していく。打っている時みたいに、ただそれだけに意識が傾いていく。余計な音はひとつもない。余計なことは他にない。ただ、それだけを考える。


 ――もしそうなら、彼は――


「アナタ久留木舞?」

「……え?」


 ふいにかけられた早口に反応ができなかった。

 顔を上げた瞬間『ヤバい』とだけ、分かった。


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