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スーサイドメーカーの節度ある晩餐  作者: 木村
第三話 シュークリームとストーカー
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他人の評価は他人が定めるもの

「……なんなの、その顔! もうちょっと危機感持ってくれる⁉」

「へっ、……い、いや、そんな情報だけでよくそこまで……」

「そんなことも読めないでよく白翔くんの保護者名乗れるよ! ばーか!」

「ひどくないか‼」


 翼くんに人差し指を見せると「ぐ」と言って黙った。


「ねえ、翼くん、きみはさあ、私に声をかけたときに、私は白翔くんよりは『普通』だって判断したんだね? 何故?」

「な、なぜって……白翔は天才だから」

「そう判断して勝手に自分から距離を置いたんでしょ。その癖、あれこれと難癖をつける。ねえ、今まで白翔くんの周りにきた人みんなに同じようなことをしたの? 『うちの子はちょっとおかしいんだけど、それを分かった上で仲良くしてくれるかい?』なんて話しかけたの? 大きなお世話じゃない、それ?」


 女の力であっても喉仏を全力で押されたら、どんな人でも苦しむ。だから彼は私の人差し指から目を逸らせない。


「子どものことおかしいと思っている親なんて……そういう人が一番嫌い。一番性質が悪い。なにか事情があるなら本人から聞けばいい。まわりが……言うことじゃない……」


 ――舞、あなたがなにを考えているか分からないの。お母さんには、分からないの……。


「……ごめん、翼くん。八つ当たりだ、これ……」


 思い出した嫌なことを頭を振って散らす。

 寝ていないと感情が制御できなくなる。両目を閉じて、ゆっくりと息を吐く。目を開くと、翼くんは心配そうな顔で私を見ていた。


「大丈夫か、久留木さん」

「……大丈夫……。……とにかく問題を解決しよう。この盗聴器を仕込んだ人は、今、盗聴器が使えない事に気が付いたはず。……これだけの更新頻度のサイト投稿者なら、……多分、すぐに確認しに来て設置し直すと思うの」

「現行犯逮捕ってことか?」


 痛む頭をおさえて、ため息を吐く。


「翼くん、自分の大事な子がいじめられているの。その相手を叱るぐらいはできるでしょう? 警官だからとかじゃなくて、できるでしょう?」

「当たり前だ。……俺は馬鹿かもしれないけれど、だったら親馬鹿でありたい」

「……なにそれ……だっさ……」

「ださくたっていい。白翔は小さい時から頭よくてな、可愛くて……本当に可愛いんだよ!」

「はいはい」

「でも、白翔の周りでは『偶然の事故』が多発する。白翔はたしかに関わっていない。けれどそれで流してしまうには、あまりにも数が多い。刑事としては、……」

「なにかあるの?」

「なにかあると思うがなにもないといいと思うし、……親としてはなにかあったときは責任を取ってやらなきゃいけないと思う。……過保護だし、過干渉なんだろうけど、でも、……俺は白翔に幸せになってほしい」

「翼くんって独身?」

「独身だが彼女はいる。ごめんな」

「は?」


 翼くんは独身なのに、こんなに親みたいなことを言える。


「……そっか、『中島さん』は良い人だ」

「お。今更」

「そう、今更」


 中島さんは嬉しそうに笑った。しかしそれからバリバリと頭を掻き「やっぱり説明しないと駄目だな」と呟いた。


「これは過保護だから言うんじゃないが……あいつの痛覚は今ほとんど機能していない。だから辛みはほとんど分からない。スパイスであれば匂いなどは分かるかもしれないが、……カレーなんて好き好んで選ばない料理だ。……他の味覚もそれほど鋭くはない。だから料理なんて、……食事なんてあいつにとっては義務に過ぎない」



 ――痛みも苦しみもない人生には悲しみはないだろう。しかしそこに喜びはあるのだろうか?



 中島さんが真剣な顔で私の腕を掴んだ。


「なあ、もしかしてきみ、ほとんどあいつのこと知らないんじゃないか?」

「……白翔くんはカレーを美味しそうに食べる人だよ……」

「……これだけは知っていてほしい。あいつは病気なんだ。俺の弟は、あいつの親はそれを苦に自殺するぐらい辛い病気だ。今はそれを抑えるための薬を飲んでいるから動けているだけだ。たしかにあいつは自分を救うための薬を作ったすごいやつだ……それでも、それであっても、なにもかも健康な人と同じとはいかない。それだけは分かってほしい。あいつだっていつ死ぬか分からない。俺はそれが怖いんだ……」


 その言葉から分かったことは、白翔くんが私に対して隠し事をしていることとその隠し事は私の理解の範疇の及ばないものだということだ。

 それだけだった。

 言葉を失くした私を気遣うように中島さんは「あーのさ……」と声を出した。その話題の切り替えの下手さは少しも白翔くんに似ていなかった。


「ここから見ていて誰が不審者なんて分かるのか?」

「ここのドアは外から開けるときは二つの鍵と部屋番号と暗証キーが必要じゃない?」

「そうなのか?」

「『翼くん』は本当に刑事なの? ちゃんと周り見て?」

「あっまた翼くんに戻ってしまった……」


 このマンションの入り口には共有の鍵と部屋の鍵、それから部屋番号と暗証キーの入力が必要だ。手間ではあるけれど住人たちは慣れているのか手早くマンションの中に入っていく。それに便乗して入っていくような不届き物はほとんどいない。いても手に鍵を持っていることが多い。


「さっき、俺たち入っちゃったけど、やばくないか?」

「すぐに通報はされないでしょーでも職務質問はできるよね?」

「ああ……なるほど。俺たちみたいに便乗して入っていく人を見つけて声をかければいいのか?」

「うん、それもやってほしいし、刑事の勘みたいなので気になった人に声をかけてほしい」

「分かった。白翔のためだ。職務質問週間ということにする」

「それから私の警護もしてほしい」

「きみの?」


 私はさっきファンサイトに登録した自分の記事を見せた。翼くんは気味悪がるように目を細めた。


「どういうタイプのストーカーか分からないけど、……こんな記事が上がった直後に、相手の家の前で私を見かけたらどうするかな? ストーカーって自己顕示欲が強いんだって」

「……囮になって待つって言うのか?」

「現行犯逮捕はできるんでしょ?」

「……分かった」


 翼くんは「きみは白翔に似ているよ」と言った。それは不本意だった。


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