タイミングの悪い私
コンビニでドライバーセットと大き目のカフェラテを買ってから、翼くんを連れてつい先週来たばかりの『高級マンション』の玄関に立った。
「……なんでこんなところに俺を連れてきたんだ?」
「ちょっと喉絞められたぐらいでそんな目で見ないでくれるー? 私はちゃんと白翔くんはここに住んでることは知ってるしー先週連れてこられたばっかりー。ばーか!」
翼くんはいっそ潔いほど驚きを見せてくれた。
「あいつが家を人に教えるなんて……しかも連れて来るなんて……」
「白翔くんをなんだと思ってんの。二十一歳の男の子だよ?」
そうは言ってもそういうことはしていないのだが、白翔くんの名誉のためにそう言う。結果、翼くんはおろおろと目を泳がせた。
「あいつは他人を信じないのに……」
「他人じゃなくて翼くんだけ信じていないんじゃないのー?」
「ぐぐ……」
などと話していたらタイミングよく住人が中から出てきたので、にこやかに会釈をしてそのまま中に入り込む。ついてきた翼くんの腕をつかみ、共用部分に進んだ。
「不法侵入だぞ、これ」
「バレなきゃ怒られない」
「俺は警官なんだが……」
「いじめも解決できないくせに?」
「ぐぐぐ……なあ、それでどこに行くんだ? 白翔の部屋か?」
「そこは『ヤバそう』だから行きたくない。行きたいのはここのキッチンの方……よかった、誰もいない……」
タイミングがよかったようで、パーティールームのような共用部のキッチンには誰もいなかった。翼くんを連れて、ついこの間使ったキッチンに入る。
「ここ、こんなスペースあるのか……」
「え、知らなかったの?」
「……住所は教えてもらったが中に入ったことはないんだ」
「本当に嫌われてんじゃないの?」
真面目なトーンでそう返してしまったら、翼くんは眉を下げて真面目に凹んでしまった。慰めるのには時間がかかりそうだったので、先にキッチン周りの確認を済ませる。
「なあ、なにを探しているんだ?」
「ちょっとしたもの……」
キッチンではなく、食卓が置かれているスペース、床用のコンセントの蓋を開いたところに、それはついていた。
「……」
「……」
私が人差し指を唇に当てると、翼くんも分かったのか心得たように黙ってくれた。私はそこについていた三つ穴コンセントを引き抜いた。
「一回出よう、翼くん」
「……分かった」
高級マンションの玄関がぎりぎり見える位置のガードレールに座り、取ってきたコンセントを分解すると、思った通り盗聴器だった。
「……なんでこんなものがあんなところに……」
「それはあなた方が調べてよ。警察なんだから」
「きみの指紋がついてしまったから証拠にならない」
「私を疑うの? まあ、……そうね、状況として私が一番怪しいでしょうね。……白翔くんもそう思っている」
「は? どういうことだ?」
私は息を吐きだしてから、翼くんに説明するために状況を説明することにした。
「一週間前の木曜日に私は白翔くんとここのキッチンでスパイスカレーを作ったの」
「えっ⁉」
「へ? まだおどろかれる場面じゃないんだけど……」
「いやだって、あいつ料理なんかできないし、そもそもカレー苦手だぞ?」
「えっ、そうなの⁉」
「いや、苦手と言うか、その……ああー……」
翼くんはガリガリと頭を掻いて「今はいい。先に説明をしてくれ」と話を促してきた。私は疑問を思いつつ先に進むことにした。
「その夜には好きな食べ物が『スパイスカレー』に更新されているの」
サイトの更新履歴を表示しその部分を指さすと、翼くんは不思議そうに首をかしげた。
「……この情報を知っている人間はきみと白翔しかいないのか?」
「もうひとりいると言えばいるけど彼はそんなことはしない。やるメリットがなさすぎる……私にもないんだけど、彼はもっとしない」
折角の勤め先をふいにすることは彼にはできないだろう。
「その後も更新されていることもおかしいの」
「なにが更新されているんだ?」
「愛車の内装のカスタムについて、デート服、よく行くコンビニ……」
翼くんは眉間に皺をつくり「その程度ではストーカーとして処理できない」と警察らしい返事をした。だから私はその眉間をつついた。
「仮にも保護者なら最後まで保護者しなさいよ。それに問題はそこじゃない。私はこれらの情報を知っているの。状況として疑わしいのは私なわけ!」
「……は?」
翼くんの目に潔く素直に、懐疑の色が浮かぶ。
「違うわよ! でも今日、白翔くんも私にこう言ったの。『俺についてはネットで調べてくれればすぐに出ますよ』……つまり彼はこう考えているわけ。『お前の所業は知っているぞ』と……私はなにもしてないのによ⁉ こんな濡れ衣ある⁉ こんなの絶対真犯人とっつかまえるしかないでしょ!」
私の説明に翼くんはぽかんと口を開けた。




