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スーサイドメーカーの節度ある晩餐  作者: 木村
第二話 スパイスと強盗
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デートの後でも謎解きを

 松下くんは待ち合わせで使った家の近所のコンビニの前まで私を送ってくれた。コンビニでチョコとコーヒーを買ってから車に乗り込んだ松下くんが窓を開けて、私を見上げる。彼の赤茶色の瞳に私がうつる。


「今日はありがとうございました、久留木さん」

「こちらこそありがとう」

「また会ってくれますか?」

「どうしようかな……松下くんの答え次第かな」


 腰を少し曲げて松下くんに顔を近づけると、彼はわざとらしく小首をかしげた。


「ね、松下くん、さっきなにを考えていたの? 部屋にお金取りにきてっておじさんに言った時。……今日、【なにか】あったとしたらあの時だった」

「……なんのことだか」

「松下くん、お金持ち歩かないって言ってたけど、私に三万渡してきたよね? あれ、今返してもいい?」


 松下くんは少し黙ってから、どこか満足そうに息を吐いた。


「……久留木さんは勘も記憶力もいいんですね」


 松下くんはにこりと笑い、鞄の中から財布を取り出した。そこにはやはりそれなりの現金は入っているようだ。私も財布から三万円取り出して彼に差し出すと、彼はそれを「いいえ、それは返さないでください」と笑った。


「今度の休み、今日のリベンジをさせてもらえますか?」


 松下くんが窓から腕を出して私を見上げる。


「……リベンジ?」

「次は告白するのでもう一回デートしてください」

「は? え、いや、それ……もう告白じゃないの?」

「まだ告白はしてませんよ」


 松下くんが笑う。その手が私の手に伸びた。触れた指先が冷たい。


「きみが私になにを望んでいるのか分からない」

「男が女に望むことなんてそんなに多くはないと思いますけど」

「男の気持ちなんて女には分からないよ」

「俺はあなたに好かれたい」


 彼と手をつないでため息を吐く。


「いいよ、デートする。だから答えて。なにを考えていたの?」

「あなたと共犯関係になれば、あなたはずっと俺の傍に居ざるを得なくなると思いました」


 松下くんは私の手を掴み、口の端を持ち上げる。


「共有部は監視カメラがついているので面倒です。家の方が始末も楽だ。相手は強盗ですから、映像が残らなければ正当防衛と主張すれば通るでしょう」

「正当防衛で……なにをするつもりだったの?」

「……さあ。やりようはいくらでもあります。そのついでにあなたに犯罪の片棒を担がせることも簡単だ。そうすれば必然的に俺との距離は縮まるでしょう? それに、……俺の家に連れ込める。邪魔者を消せば二人きりで、……俺にはメリットしかない」


 彼の冷たい瞳は初対面のときにだけ見せたものだった。


「こんなこと言ったら、あなたは逃げますか?」


 けれど『ヤバい』という予感はない。

 彼の手を振り払うと、彼は私の顔から目を逸らして私の手を見た。まるで捨てられた犬みたいな目で私の手だけを見ている。


「松下くん、……人ってそんな簡単じゃないよ?」


 私が手を持ち上げれば顔を持ち上げて、私が彼の喉に手を当てれば目を伏せる。


「ドキドキしているね?」

「……好きな人に触られたらドキドキするのは普通でしょう?」

「きみは私が好きなの? 本当に?」

「あなたは、……思い通りになりませんね。……思い付きもしなかった、強盗を雇うなんて……あなたは俺の予想もつかない選択をする。しかもそれがいい結果になるなんて……負けたような気持ちです」


 松下くんが悔しそうに漏らしたその言葉に、本当にまだ二十一歳なんだと、負けたら悔しくて泣く矢田くんと同い年なんだと分かった。だから、つい笑ってしまった。彼は驚いたように目を丸くした。


「笑い事ですか?」

「うん、これは笑い事」

「……変な人、久留木さん」

「そういう人が好きなんでしょう?」


 彼は眉間に皺を寄せたけれど、しかし結局は笑った。


「それは次のデートで」


 彼は私の手を取って、体温が残らない、触れるだけのキスを指先にくれた。


「おやすみなさい、久留木さん」

「うん。おやすみ、松下くん」


 去っていく車を見ながら、どうせ今日も眠れない、そう思った。



第三話 シュークリームとストーカーに続く

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