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スーサイドメーカーの節度ある晩餐  作者: 木村
第二話 スパイスと強盗
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スパイス味の恋

「ここです」


 蔵前駅前の駐車場に車を置いて、五分ほど歩いたらその店に着いた。

 入った瞬間に様々なスパイスの匂いに包まれる。店内にいたお客さんは『現地の人』ばかり。彼らは迷うことなくスパイスを選んでいく。私たちのように悩んでいるのは、私たちの後に続いて入ってきた中年男性ぐらいしかいなかった。

 店員さんはおどおどしているその男性の相手をし始めてしまったので、私たちはその接客が終わるのを待つことにした。

 よくわからないスパイスを眺めながら「松下くんはここ来たことあるの?」と聞くと「ないですよ。ネットで調べて来ました」と彼は笑った。


「そうなんだ。わざわざ、ありがとうね」

「どういたしまして。それで……どんなカレーにしましょうか」


 松下くんは棚のスパイスをつつきながら「鶏肉? 豚肉? ……肉?」と首をかしげる。


「豚バラカレーにしようか」

「ああ、いいですね。豚バラは外れがないです」

「あんまり辛くないのがいいなー」

「辛口は苦手ですか?」

「だって辛いの痛いじゃん」

「痛いのは苦手ですか?」

「苦手だよそんなの。当たり前でしょ?」


 松下くんは「そうですね、当たり前です」と言った。

 含みがある言い方だなと思ったがそれを追求する前に、スパイスを買わなかったおじさんを見送って手が空いた店員さんが見えたので「すいませーん」と声をかけて、スパイスの相談をすることにした。


「豚バラカレーならこの辺がお勧めヨ」

「あんまり辛くないと嬉しいんだけど」

「辛さはこの辺の足さないと入らないから。嫌いなら入れなきゃいいヨ」

「ああ、なるほどねーチリで辛みを出しているのね……松下くん、パクチーは好き?」

「好きでも嫌いでもないですね」

「そっかー……じゃあ、コリアンダーは?」

「久留木さん、パクチーとコリアンダーは同じものですよ」

「えっそうなの⁉ え、なんとなくコリアンダーの方が青くない?」

「え? ……香菜(シャンサイ)も同じものですよ?」

「なにそれ知らない」


 そんな調子でスパイスを選び、その配合を自分たちでやろうか悩んだけれど「美味しいのがいいよね」と店員さんにお任せすることにした。


「次は自分たちで選んで混ぜてみたらいいよ。面白いから」


 そう笑う店員さんに松下くんは「次があればいいんですけど。俺の片思いなんですよ」なんて言った。

「そういう自信ありげなところ嫌だな」と私が言うと「ほらね」と彼は笑った。


 その背中を叩いても彼はクスクス笑うだけで、それだけだった。

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