半分少女の執念 其ノ一
三年くらい前に書いてたものを再度投稿します。ぶっちゃけだ~れも覚えとりゃせんやろなぁ……。
しょっぱなにこんなことを聞くのも悪いけれど、皆は「幽霊」というものを見たことがあるだろうか。
私はしょっちゅう見ている。
生活の一部になるほどに。
と言っても本当に危ないものは今まで見たことはなかった。
見ると言っても、人魂や道をうろうろしてる何かだけだった。
しかし、私は今、過去形でそのことについて触れている。それは……今まさに本気で危ない何かが目の前にいるからである。
(夜に一人で散歩とかマジでやめときゃ良かった。橋の上で待ち構えてる。何ならめっちゃこっち見てる。しかもシルエットでわかる。人じゃねぇ。)
なぜ、シルエットでそんなことが分かるのか、あるはずの物が無いからだ
そして、無い場合にあるはずの物がないからだ。
あるはずの物「下半身」、無い場合にあるはずのもの「車いす」その両方が影も形もなかった。
皆は、夜の歩道橋には十分に気を付けて欲しい。
こんなことになりかねないから
「うおあぁぁぁ!はえぇはえぇはえぇ!すげぇ速い無理無理無理!」
今私にできるのはそう、ただの全力疾走。
めちゃくちゃな速さで追いかけてくる上半身しかない「都市伝説」相手に負け確定の追いかけっこである。
しばらく走っていると後ろから「うきゃあ」という間抜けな声が聞こえてきた。
そこにはうつ伏せに倒れている都市伝説が居た。
「あのぉ……逃げちゃいますよ?」
「勝手に逃げればいいじゃない!」
(えぇ……めちゃくちゃキレてる)
上げた顔には、土や石がついていたが何よりも涙でぐずぐずだった。さらには
「あんたのせいで手でおっきい石踏んじゃったじゃない!」
と怒鳴られた。
なんだこれ私が悪いのか。
戸惑いながら持ち上げるとまるで子供を持ち上げているような感覚を覚えた。
そしてそれを悟ったのか
「……降ろして」
本気で怒られたような気がする。
「てかあんた、人間のくせして足速過ぎよ」
息を切らせたり、こんなにぺらぺら喋るなんてのは私が訊いた都市伝説にはなかったんだけどな。
「だって私はまだ下半身から卒業したくはないからな。死に物狂いで走ればあのぐらいは出る」
もちろん私は常日頃から鍛えてはいる。朝走ったりとか。
「出るわけないでしょあんな速度。こちとら100キロ以上出してんのよ!ただの人間がそんな速度だせるわけないでしょ!」
と半ギレで怒られた。
どうやらこの都市伝説は足の速さ(手の速さ?)に自信があったようだ。
「はぁ……もういいわ。ほらあんた呪文唱えなさいよ。見逃してあげるから」
呪文なんて聞いたことのなかった私はその場で固まってしまった。
私はこういうことには詳しくないんだ。
誰か教えてくれ。
私の下半身の危機なんだ助けてくれ。
と心の中で誰かに助けを求めるもそんなご都合主義な展開はなく
「あんたもしかして知らないの?」
知らないことを看破され冷や汗が滲み出て止まらない。
「あ、あー……知らない」
正直に答えるべきだという判断により私は正直に答えた。
「あはははwじゃああなたは私を追い払えないってことね!今のうちに下半身に今までの感謝の言葉でも述べてなさい!」
しばらくして都市伝説は自分の言ったことを冷静になって考え直したらしい。
「どうして私はあんなことを言ったの……。あんたに追いつけないからおまじない言わせようとしたのに。これじゃあんたから離れられないじゃない!」
「その通りだよ」
もしかしなくてもこの都市伝説は頭が悪いのかもしれない。
「なんか時間制限的なのなかったか?」
うろ覚えの記憶をさかのぼりながら聞いてみた。
ぶっちゃけ都市伝説とかオカルト系には家柄的に興味は結構あるから調べたりしてた時期がある。
「三日ね。三日逃げ切れれば私はもう追えなくなるわ」
三日間この上半身だけの都市伝説……そろそろこのくそ長い名前は言いづらいな。
「テッテケさんでいい?」
「ごめん。いきなり何の話か分かんないんだけど。絶対あんたの頭の中で話進めたわよね?」
なんか喚いてるけど、私もう眠いしいいかな。とりあえずテッテケさんが離れられないなら一緒に帰って明日考えよう。
「もう眠いからさ、私の家に来なよ」
あからさまに嫌そうな顔をしてから
「うへぇ」
とあからさまに嫌そうな声が出た。
そんな嫌われることってあるか?
どっちかっていうと私は被害者よりだぞ。
嫌うことはあっても嫌われることはないだろ。
「てかテッテケさんが教えてくれたら万事解決なんだけど?」
帰りの道中に素朴な疑問をテッテケさんにぶん投げてみた。
「私は都市伝説なのよ。人間が語り、認識し、意識することで存在できるの。人間の語った通りにしないといけないの。私の場合は『橋の上にいる上半身だけのJKが赤いものを身に付けた目撃者を上半身と下半身に分けて殺す』って感じよ。都市伝説はあくまで都市伝説。事実でなくてははならない、ありきたりであってはならない。そういう名前の『事象』でなくちゃならないの。だから、誰かを特別扱いしたりしたら私はそういう都市伝説ではなくなるの。消えるのよ。わかったかしら?」
なるほどね。事象とはいえ感情も意志もある。
人間が死にたくないと思うのと同じように、都市伝説たちも消えたくないと望んでいるんだろうな。
勝手に生み出された挙句に伝承にがんじがらめに縛られて、どういう気持ちなんだろうか。
生み出した側の私には分からない。
何の縁も無い無責任に生み出した都市伝説のことを知らない人間は多いんだろうな。都市伝説としてはそれが当たり前かもしれねぇけど……それはあまりにも寂しいことだと私は思う。
昔読んだことのある人は「あったわぁ」なんて思っていただけると幸いです。以下キャラ紹介
藤宮 綺羅
自分の名前のことはかわいいってわかってるし、容姿がイケ女ンなのもわかってるのに無意識に誑す人。無意識とはいえ誑したのなら最後まで責任はとるのが当たり前だと思ってる。