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第14話 繋がりは時空を超えて

 「なに、これ」


 私の目に飛び込んできたのは、セイヤの左薬指と私の左薬指を結ぶ、一本の赤い線。毛糸のような太さの赤い線は、お互いの指に何重にも巻き付いている。まるで、決して解かぬよう誰かがきつく縛ったみたいに。

 黄色い鉱石をそっとソファに置くと、途端に線は見えなくなる。でも、再び手に取れば、赤い線ははっきりと目に映った。


 (赤い糸って、このことだったの?)


 せいや君が私に言っていたことは、何かの比喩でも中二病的な発言でもなかった。彼は、確かに真実を口にしていたのだ。


 「遥風、どうだ?」

 「……うん、見える。私にも、赤い線が見える」


 不安げに問うセイヤに、私も戸惑いながら答える。少し考えてから、左手を動かしてみる。赤い線は手の動きに合わせてゆらゆらと動き、伸びたり縮んだり。けれども、決して途切れたり消えたりすることは無い。

 立ち上がって部屋の端まで移動してみれば、赤い線もゴムのようにぐいーっと伸びた。


 「今、遥風にはどんな風に見えている?」

 「なんか、すっごい伸びてるよ。この赤い線、絶対に途切れないんだね」

 「そうか。これ、なんだろう?」

 「私に聞かれても分からないよ。この黄色い石、セイヤが持ってたんじゃないの?」

 「多分、そうだろうなとは思う」


 歯切れの悪い回答に、思わずセイヤを見る。セイヤは、眉間に皺を寄せて、右手で前髪を弄っている。白い髪が蛍光灯の光に照らされて、神秘的な光を発している。

……思えば、セイヤがこの部屋に突然現れてから、ここ数日間で不思議な現象が多発してる。いや、し過ぎている。

 時々頭を掠める、セイヤとの懐かしい記憶。その記憶の中では、私とセイヤが恋人みたいな雰囲気になっていて。とても楽しそうなのに、終わりは必ず悲しい。

 あの人気アイドル・星也せいや君との遭遇。いきなりファンタジーを見せられたと思ったら、弟の在りかを聞いてきた。まだ繋がっている赤い線の事を話したのも彼だ。

 最近妙に勘が鋭くなってきた紬ちゃん。昨日なんか、白髪が一気に増えて、肌の色も不健康そうなのに元気いっぱいで。私の過去なんか知らなかったはずなのに妙に的中させてきた。気味が悪くなって早々に話を切り上げたけど、あれは絶対に何かあったに違いない。

 そして、つい先日まで宇宙船のコクピットと化していたクローゼットの中身。セイヤが倒れていたあの日から元に戻っていたから、きっと何か危ない事をしたんじゃないかとは思ってる。ちゃんと問い詰めてやらないと。


 「紅イ意図(シュラ=イーウィッド)()

 「え?」

 「我らに授けられたマゥジハィルンエンドリ原初にして(ガウスィッポク)可能性の力の1つポロームゲンガウンゼン決して(アゾクェー)見えぬ繋がりにして(インデンヲスシヌング)決して解けぬ(ブッホドレス)契りの誓約(エンネンケンジャ)それが見えている(ゼハブリウンキヅ)という事は(エヘンゾルㇺバル)あの石はまさか(アーヂゴロプッヲ)星の意思たる(スティルデニヒズク)――」

 「ちょ、ちょっとセイヤっ!」


 セイヤが何を言っているのか分からない。紅イ意図って何。原初にして可能性の力?

 決して解けぬ契りって、星也君も言ってた。なんで、せいやがそれを知ってるの。星の意思って、セイヤは今、何を言おうとしているの。あなた、記憶喪失だったんじゃないの?

 脳内に溢れる疑問に頭が押しつぶされそうになる。人が変わったようにぶつぶつと仮説を呟き続けるセイヤも、言っている事を本能的に理解してしまっている自分も恐ろしくてたまらない。

 恐怖から逃れようと拳を目を瞑り、黄色い石ごと握った拳てぎゅうっと耳を塞いだ瞬間。脳内に稲妻が落ちた。


 『――セイヤ。夕陽を手に入れるって、そんなに難しいことなの?』

 『俺の星にいる地球人が言うには、暖かくて懐かしい感情が生まれるらしい。そんな感情があるのか定かではないがな』

 『いや、あるでしょ。夕陽を見てると、小さい頃を思い出したりとか、おばあちゃんがお小遣いくれた時の事とか、色々思い出さない?』

 『そんな過去は存在しない。物心ついた時から、俺は研究所に居たんだぞ。大人に囲まれて仕事してたし、家族に会えるのは年に数回とかだったし』


 なにこれ。私の脳内に流れてきたのは、セイヤと仲睦まじく過ごす私。一緒にいる場所は私の部屋だけど、机とかベッドの位置が違ってる。セイヤは眼鏡をかけていて、髪も白髪だけどずっと長い。ソファーに腰かける私は、なんというか女らしさ全開だった。

 髪を下ろして、桜色のニットセーターと白のフレアスカート。部屋に居るのに、まるで余所行きの格好をしている。頬を赤らめてセイヤに体を預けてる私を見て、きっと深い関係なんだろうなと他人事みたいに思っていた。


 『じゃあ、なおさら無理なんじゃない?』

 『そんなことは無い。地球人たちの言う夕陽さえ手に入れられれば、俺のセカンド・アースは完成するんだ』

 『ふーん。あのね、せいや。私の"予言"だけど、せいやの言う()()は、絶対に完成しないと思う』

 『予言だと? まったく、今度は一体何を視たんだ?』

 『ふふ、気になる? ならば、セイヤに教えてしんぜよう。あのね――』


 呆れた様子でパソコンを操作するセイヤに、映像の中の私が後ろから抱き着く。くすぐったそうにするセイヤに顔を寄せて、耳元で何かを囁こうとそたところで、目の前が真っ白に染まった。

 頭の中でもう一度稲妻が弾け、一気に現実に引き戻される。いつもの部屋。


 「おい、遥風。大丈夫か!?」

 「……あ、セイヤだ。どうしたの、そんなに慌てて」

 「どうしたって、遥風が急に蹲ったまま動かなくなったから、ずっと声を掛けてたんだ。お隣さんを呼ぼうかと思ってたんだが、その様子だと大丈夫そうだな」


 セイヤは拍子抜けした顔で安堵の息を吐くと、キッチンへと向かう。数分もしないうちに戻って来たと思ったら、甘い匂いのするカップを差し出してくる。


 「ありがと。なに、これ?」

 「ホットミルクティー。昨日見た本に作り方が載ってたんだ」

 「ありがと」


 素直に受け取って、口を付ける。ミルクの優しい味と紅茶の香りが体に染み渡る。セイヤはいつの間にか床に投げ出されていた黄色い石を拾い上げると、ひびが入っていないかを入念に確認してポケットに入れた。

 あの石が手から離れたことで赤い線はもう見えなくなったが、きっとまだ繋がっているんだろう。セイヤが左手を確認しているし。


 「この石が人間の本能的な衝動を増幅させると仮定して、紅イ意図が見えるのは石の持つ作用が俺たちの遺伝子に干渉するからか。だとするならば、遥風があんな風になったのは――」


 私がミルクティーをちびちびと飲んでいる間、セイヤは部屋中をうろうろと歩き回りながら何かをぶつぶつと呟いていた。右手を腰に添えて、左手は鼻の頭を押さえている。

 ――ああ、その癖。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 自分の知識にないものを見聞きした時、必ずあの癖が出たんだよね。

 さっき私が視たのは、ここではない、別の次元で共に過ごしたセイヤとの大切な記憶。

 忘れてはならない、在りし日の記録。

 きっと、今私がいる三次空間世界が終わってしまえば、記録の彼方に埋もれてしまうんだろうけど。

 どうか、今だけは。

 急激に眠くなってきた私は、セイヤの独り言に耳を傾けながら、ゆっくりと目を閉じた。

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