試験会場はどこ?
「ゴメズカ・ソーマ。君はこの学校に相応しい…ようこそ、我がアドベンシア・マジック・ユニバーシティへ」
俺はついに高校試験に合格した…が
「あの…ここ、どこですか?」
俺の受ける高校はここじゃない。それに
多分ここ日本じゃない
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平成20年。小さな病院で産声があがった
産声の主は彼、五目塚 漱磨である
今年 16歳になる漱磨はこの16年間、シングルマザーの母に深い愛を注がれて育った。
漱磨の父親は漱磨がお腹に宿ってすぐに蒸発、母の注いだ無償の愛は漱磨を「心の優しい子」に育てあげた
そして彼は今日、華の高校生活を夢見て、高校受験の会場へと足を踏み出した
だが──試験前に大きな問題が立ち塞がった
彼はこの16年間、1人で電車に乗った事がなかったのだ
「───すみません、この駅ってどの電車に乗ればいいですか?」
漱磨が駅員に向けて、4つ折りの型がついたメモを指差す
「この駅に行くにはここの改札を通ってね。ちなみにどのに行くんだい?」
「ありがとうございます!これから杏林大高等学校に受験しに行くんです」
「えぇ?杏林大はあっちの改札だよ?」
駅員は眉をひそめると、先程伝えた改札とは反対方向を指を差した。
俺ってこんなに方向音痴だったのか、と何故か腑におちた
「間に合え、間に合え!」
人でごった返している階段をあえぎあえぎ駆け上がる
すまん、どいてくれ日本の侍達!
「電車は……電車ってどれ乗ればいいんだ!」
漱磨は本日2回目の絶望を叩きつけられた
───足元にある黄色い線の内側までお下がりください、というアナウンスと一緒に響き渡る発車メロディ
だんだん血の気が引いていくのがわかった
事前に行き方をちゃんと調べておけばよかった、と後悔の念に駆られながらスマホで行き方を検索する
駅の時計に目をやると、本来電車に乗っている時間を15分過ぎていた。
唇がガタガタと震える、このままだと試験に間に合わない。受けて落ちたならまだしも、 試験会場に間に合わず落ちるなんて
母さんが聞いたら泣いてしまうだろうな
この3年間の努力と応援が全て水の泡…
目頭がグッと熱くなった
その時だ
視線の先、ちょうど自分の真下にひらりひらりとメモ用紙が落ちてくる。漱磨は咄嗟に紙を拾った
人差し指の関節で気づかれないようそっと涙を拭き、落とし主に声をかける
「どうぞ」
そう言って手渡そうとした時、ふとそのメモ用紙が目に入った
──受験番号2061___杏林大高等学校──
思わず声が出る。だが落とし主は気にもとめず、紙を受け取ると無言でその場を走り去った
「すみません、!ちょっと待ってください!」
落とし主は一向にペースを落とさない
「あの──!俺もそこ受験するんだ──!とまって──」
すると落とし主は何を思ったのか駅の階段を駆け下りて行った。
もしかして、俺そもそも駅間違ってた?!
そんな不安感が疲労と共に襲ってくる。落とし主は未だ走り続けている。
俺は駅を出て落とし主の背中を追った