表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編 お勧め順

聖女様、人の話は最後まで聞いて下さい

作者: 紀伊章


「申し訳ないけれど、よく分かりませんでしたので、もう一度仰っていただけるかしら?」


「っですから!アンドレ様を自由にしてあげて下さい!」


「聖女愛良様、自由、とは何かしら?」


「政略結婚なんて、愛の無い結婚、あんまりだと思います!」


 只今絶賛取り込み中ですが、皆様、初めまして。

 オルタンス・ペリゴールと申します。


 ペリゴール伯爵家の二女です。

 アンドレ・メーヌ伯爵令息様と政略的婚約を交わして十年になります。

 騎士見習いのアンドレ様が、来年正式に騎士になりますので、最初の赴任先の辺境について行けるように婚姻を予定しております。


 日本からの転生者でもあります。


 そして今、目の前にいらっしゃる話の通じない方は、柏木(かしわぎ) 愛良(あいら)様。

 日本から異世界トリップして来た方です。


 異世界召喚ではありません。

 数十年に一人位の割合で、聖地と呼ばれる場所に異世界からやってこられる方がいます。

 特に何か不思議な力があったりする訳では無いのですが、聖地に現れる事と、珍しい知識をお持ちの事が多いため、教会が聖人・聖女と呼んで保護しております。

 

 当初は、日本の事を話せる相手への期待で喜んだのですが、話の通じない方と認識してからは出来るだけ距離を取っています。


 愛良様は、高校卒業間近だったという十七歳、今世の私と同い年です。

 教会のこの世界になじめるようにという配慮により、貴族子女用の学園に転入してこられました。


 ……無理に同年に合わせないで、もう少しこの世界の常識を身に付けた状態で送り出していただきたかった。


 日本に返してあげる手段がありませんので、メンタルが強い事は良いのですが、とにかくこの世界の常識に馴染まない。


 この世界は身分制度真っ盛り。

 そんなところで、自由、平等、とか叫ばれても……

 革命でも起こしたいのか。

 この世界の民衆が起こした革命なら、この世界の貴族として受け止める必要があるでしょうが、今は統治が上手くいっているので、平和そのものなんですよ。

 いらぬ火種を起こさないでいただきたい。


 そして、乙女ゲーム世界トリップとでも勘違っているのか、ヒロインムーブが酷い。


 確かに、転入した学園の同学年に、王太子殿下と宰相公爵令息、騎士団長子息、魔術師団長子息がいて、全員イケメンだったり、王太子殿下の婚約者の公爵令嬢がドリルヘアーだったりしますけど!


 でも、全員、婚約者との仲は良好なんだ!かき回そうとしないでくれ!……ゼィハァ、ちょっと取り乱しました。

 ちなみに、騎士団長子息が私の婚約者です。


 聖女様は、教会の後ろ盾で伯爵令嬢相当です。

 学園からは、私を含む乙女ゲーム登場人物っぽい人員に、配慮のお願いがされています。


 当初は快く引き受けた私達でしたが、

「人は平等です!」

「愛の無い政略結婚なんて、酷い!」

 男性陣には「無理に婚約なんて、○○様、可哀そう」

 女性陣には「○○様を自由にしてあげて下さい!」

 反論しても、あまり人の話を聞かないので、暖簾に腕押し。

 今は、他の生徒のために防波堤として我慢しています。

 

 男性陣も誰も籠絡されていません。

 言い寄られたり、仲の良い婚約者の悪口言われたりして溜まるストレスをひたすら我慢してます。

 女性陣も謂れの無いマウント取られてるのを、必死に耐えてます。


 そもそも、王太子と公爵令嬢は普通に恋人同士ですし、宰相公爵令息と侯爵令嬢は戦友的関係、魔術師団長子息とその婚約者はオタ友です。私達は、まぁ信頼関係はありますね、くらいですけど。


 先ず、王太子殿下と公爵令嬢の二人が犠牲になり、次に宰相公爵令息と婚約者の侯爵令嬢。

 そして、私達の番になりました。


 平等とか言ってる割に身分順バッチリですね!


 先陣切って犠牲になった王太子殿下が、静かにブチ切れたので、これから教会の権威は失墜していくと思われます。 

 王太子殿下、普段は穏やかだけど、幼馴染の婚約者に関しては結構沸点低いです。

 学園では有名。二人割とイチャイチャしてるから。

 公爵令嬢のドリルヘアーも王太子殿下の趣味です。

 軽く引っ張ってみょんみょんするの好きらしい。一度やらせてもらったから、気持ちは分かります。

 今回の件のせいで公爵令嬢の取り巻き化した私達の仕事の一つに、みょんみょんされすぎてほどけたドリルを見つけて直すのが入ってしまったから、やりすぎないで欲しいけど。


 私達の次に犠牲になるであろう魔術師団長子息が、婚約者と二人そろって魔道具制作オタクで、新作魔道具で罠にかけようと息巻いているので期待していますが、出来上がるまで時間を稼いで欲しいともいわれています。


 時間稼ぎか。ふむ。


「愛良様が問題視しているのは、愛の無い婚約ですよね?」


「そうです!アンドレ様と別れて下さい!」


「私はアンドレ様を愛しております。

 愛の無い婚約ではありません」


 自由恋愛だった前世持ちの私が、これから一年もしないうちに結婚するつもりですから、割って入る誰かを許さないくらいの愛情はあります。こちらの片思い気味であっても、信頼関係もありますし。


「え?で、でも、アンドレ様は……」


「私がアンドレ様を愛しておりますので、愛の無い婚約ではありません。

 何か問題でも?」


「っで、でもっアンドレ様はオルタンス様の事を愛していないと言ってました!」


「だとしても、私はアンドレ様を愛しております。

 何か問題でも?」


「そ、そんなのおかしいです。

 結婚は相思相愛でないといけません!」


「では、アンドレ様はどなたかと相思相愛なのですか?」


「え、えと、それは……」


「何度でも言いますが、私はアンドレ様を愛しております。

 愛良様が私にアンドレ様と別れて欲しいと仰るのは、愛の無い婚約が問題なのではなく、愛良様のアンドレ様への横恋慕が理由なのではないですか?」


「横恋慕じゃありません!」


「では、アンドレ様を愛している訳ではないと?」


「そ、相思相愛じゃない結婚はダメです!」


「では、アンドレ様が私を愛してくれれば問題解決ですね。

 私はもうアンドレ様を愛していますから」


「相思相愛じゃない結婚はダメです」


「相思相愛ではない婚約や結婚などいくらでもありますのに、私のアンドレ様への愛だけは否定されるのですね」

 泣いて見せる。女は女優。


「そ、そんなつもりじゃ……」


「では、私達以外の、どちらにも愛情の無い婚約を何とかしていただけますか?」


「わ、分かったわよ!」


 走って逃げていかれました。勝った。


「すまない……俺の言い方が悪かったばかりに」


 アンドレ様がいらっしゃいました。

 赤くなってますので、どうやら聞いておられた様子。聞かれた私もちょっと顔が熱いです。


 アンドレ様はモテますので、他の女性から言い寄られることがあります。その際にいつも、

「俺達は政略的婚約で、愛情はまだないかもしれない。

 しかし、信頼関係があるんだ。

 君の気持ちには応えられない」

 と、お答えになっています。

 これまでは、お相手の女性が普通に話の出来る方でしたから、これでお断り出来ていました。


 今回も同じセリフを言って断ろうとしたのでしょうが、今回は「しかし」以降を聞いてくれる相手ではなかったと思われます。


 その後、どちらにも愛情のない婚約を何とかしてください発言了承の言質をたてに、政略婚約でも流石にこれは可哀そうだな、というのをピックアップして聖女愛良に引っ掻き回してもらいました。


 そうして稼いだ時間で、魔術師団長子息と婚約者の二人が魔道具を完成。

 婚約者のいる男に言い寄るシーンと比較的立場の弱い女に婚約解消の圧力をかけるシーンを、教会と国の重鎮に見てもらいました。


 教会は、聖女愛良が引っ掻き回した婚約解消の弁償をする事になったのと、次代からの聖人・聖女の後見役を失いました。


 聖女愛良は、学園を辞めて、教会預かり、教会と王家両方から監視されながら暮らしていく事に。

 ヒロイン勘違いもありましたが、自由とか平等とか言ってた事もそれなりに本気で思っていたようです。周囲の意見も聞いてくれれば、その正義感も役には立つと言う事で、頑張って欲しいものです。

 教会預かりなのは、王太子殿下を怒らせたせいであり、修道女の生活レベルになっています。

 役に立たなかったら、もっと戒律の厳しい修道院で世俗を絶つことになるでしょう。

 聖女呼称を受け入れた事で入信してますから、しょうがないですね。


 そして、私達はというと、


「オルタンス、馬車までエスコートしよう。

 俺がオルタンスを愛しているからな」


 アンドレ様が日常的に、私を愛しているから、と言う様になってしまいました。

 イケメンの過多な愛情表現、心臓に良くない。


「っあ、あの、そんなにいつも愛しているからと仰らなくても……」


「いや、言わせてくれ。

 今回の事で思ったのだ。

 言葉は大事だ。

 そもそも、最初の時点で愛良殿に、オルタンスを愛しているから、と言っておけば問題なかった。

 それに、オルタンスに俺を愛していると連呼してもらって嬉しかった。

 信頼関係だけでなく、愛情も育てていきたい。

 だから続けようと思う」


 あれは、話を聞かない人に無理に話を聞かせるための策としての連呼だったのに。


 これから、恥ずかしさで爆死しそうな日々が続きそうです。




読んで下さってありがとうございます。


連休なので、図書館から本を借りてきて読み散らかしていたのですが、

話が面白かったアピールのために、相手の話を途中で遮って話始めるマナーのある国があるとか。

色んなマナーが世界にはあるものだな、と思いつつ、仕事とか困りそうだなと思いました。

話すのは重要な事から話しつつ、聞くのはちゃんと最後までが間違いはなさそう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ