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後悔が生まれた聖杯探し

その時だ。

部屋の窓が割れた。

ガラスがぶち破られたのだ。


「へ?」


僕は、そんな間の抜けた声しか出なかった。

書き込みは途中で止まる。

他の人が見れるようにはなっていない。

しかし、そんなのは気にしていられなかった。

割れた窓。壊れた窓枠。

それらをさらに蹴り飛ばして、女の子が僕の部屋に入ってきた。

僕と同年代くらいの、シスターだ。

教会でよくみるシスターの服を着てるから、たぶんシスターだ。


「見つけた」


女の子は言うと、僕を真っ直ぐ見つめてくる。


「貴方、パーシヴァルよね??」


「え、えっと、その」


「私はアンジュ。

皆、アンって呼ぶの」


なんて答えたものかわからず、もだもだしている僕に向かってシスター――アンジュは自己紹介してきた。


「はぁ」


ドアの修理もこれからなのに、窓も直さなければならなくなった。

ガラス、高いのに。


「とにかく、私と来てもらうわよ」


アンジュが強引に僕の手を掴んだ。

その間にも、掲示板の書き込みが流れていく。

僕の書き込みを待っているのだ。

しかし、すぐに書き込みをしなかったからか、


【なにかあったのか?】


【トラブル?】


という疑問が増えていく。

書き込みは、考えるだけでおこなえる。

だから、こう書き込んだ。


【シスターの格好をした女の子が下宿の窓を蹴破って、部屋に入ってきました】


途端に、掲示板が盛り上がった。


【ダイナミックお邪魔しますwww】


【ダイナミックお邪魔しますされたのかwww】


【シスターの美少女に、ダイナミックお邪魔しますされたのかwww】


【おいおい、落ち着けよおまいら。美少女とは限らんだろ。

幼女かもしれんだろ!!】


この人たち、好きなんだなこういうの。


「何を見てるの??」


僕の視線が外れていたからか、アンジュが聞いてくる。


「いえ、とくに何も見てませんけど」


掲示板は、僕にしか見えていない。

仮に、このことを言っても信じてもらえないのは目に見えている。


「嘘ね」


僕の言葉を一刀両断する。

ほら、こうだ。

いつも、こうなのだ。

真っ直ぐ、彼女は僕の目を覗き込んでくる。


「貴方の事は調べた。

だから、知ってる。

第三冒険者学校三年生。

成績は学年最下位。

そして、冒険者学校一のかまってちゃん。

皆からかまってほしくて、嘘をついている嫌われ者」


アンジュの目に、見下しの色が滲んでいる。

学校の生徒たち、教師たちから向けられていた、あの目だ。

僕はどうしたものか、と頬を人差し指でぽりぽりかいた。

反応に困る。

怒ったり、ムッとしたりしても無駄だとわかっているから。


「そんな嫌われ者になんの用ですか?」


僕は、自分でも胡散臭い作り笑いをして訊ねた。


「言ったでしょ?

私と一緒にきてもらうの。

これは決定事項よ」


その時だった。

部屋のドアの外から、エマさんの声が届いた。


「パーシヴァル君?!大丈夫?!」


ドアが押し開けられる。

エマさんが部屋に入って来ようとする。

瞬間、風が吹いた。

しかし、それは風ではなかった。

アンジュが目にも止まらぬ速さで動いたのだ。

エマさんがドアを開け、顔をのぞかせる。

そのエマさんに、アンジュは手刀を入れ気絶させた。


「こちらとしても、あまり騒がれたくない」


アンジュはいけしゃあしゃあと、そんなことを言ってのけた。

ならなんで、窓をぶち破ったんだ。

エマさんに危害を加えたんだ。

普通に下宿の玄関から入れば良かっただろうに。


幸か不幸か、今の時間下宿にいる者は少ない。


ほとんどが学生か、昼勤の人達だからだ。

カーリーさんが来る様子はないから、もしかしたら出かけているのかもしれない。


「窓に関しては、玄関で門前払いを受けたから仕方なかったの」


言い訳がましく、アンジュは言った。


「とにかく、私と来て欲しい。

聖杯を手に入れるために」


「……あぁ、やっぱりそれ系の人でしたか。

【パーシヴァル】という名前の人達が連れ去られてるのは聞いています。

スコアボードに名前がのりましたからね。

スコアボードの【パーシヴァル】さんを探しているんでしょう?

生憎、僕は違います。

だから、連れ去っても聖杯を探すお役には立てません」


僕は、内心ビクビクしていた。

こんな怖い人達が動いているとは、どこか実感がわかなかったからだ。

気絶したエマさんのこともある。

こんな人たちとは関わり合いになりたくない。

僕は、ぐるりと自室を見回した。

そして、続けた。


「ここには、勇者関連の資料がありました。

まぁ、多かれ少なかれこの国の人達が所有している程度のものでしたけど。

でも、盗まれました。

その盗んだ人達のところにいって、盗まれた資料を手に入れた方が早いですよ」


「資料なんかいらない。

だって、貴方の方が資料より価値があるもの」


「人のことをかまってちゃんだの、嘘つきだの言ってたくせに、どの口が言うんですか」


思わず、呆れてしまった。

しかし、アンジュは口篭ることなく言い返してきた。


「言ったでしょう?

貴方のことは調べたの。

聖杯にたどり着くまでに必要なギフトが与えられたのはこの千年で貴方だけだから。

そんな貴方が現れて、数時間後にスコアボードが更新された。

貴方と同じ名前が、スコアボードにのった。

これが偶然だと思う?」


【スレ民】のことだ。

僕は、回顧録をしまったままの鞄を見た。

そのギフトを与えられる条件を教えて、お引き取り願おう。

その方がいい。

だって、やろうと思えば誰だって出来る条件だったから。

けれど、僕が口を開く前にアンジュがさらに言ってきた。


「聖杯を手に入れるには、鍵を手に入れる必要がある。

鍵を手に入れるには、謎をとかなければならない。

謎をとくには、特定のギフトを与えられた者を仲間にしなければならない。

そして、貴方にはそのギフトが与えられた。

第一の鍵を手に入れたんでしょう??」


アンジュが手を差し出してくる。


「この手を取って、そして私と一緒に来て。

聖杯を探してほしい」


「嫌です、って言ったら??」


「バラすよ。

国中に、貴方のことをバラす。

貴方のことを誰も信じなくても、私の所属している組織は信用と信頼があるから。

そしたら、貴方の争奪戦になるでしょうね。

鍵は奪えないらしいから、貴方は手足を切断されて逃げられないようにして、協力させられるでしょう」


「言ってることが滅茶苦茶だよ。

それに、アンジュさん」


「アンジュでいいよ」


「アンジュの所属する組織がそれをしない保証がない」


「あるよ。

私が、今、貴方の手足を引きちぎってないのが証拠」


怖いよ!!


「…………」


「バラされて困るのは、パーシヴァル、貴方だけじゃないでしょ?

この下宿の管理人さんだって、いい迷惑になるんじゃない?


この人だけじゃない。

この下宿に住む人達にも、危害が及ぶかもしれない。

次は、気絶で済むかしらね?」


脅しだ。

これ以上ない、脅しだった。


「わかったよ」


僕は、彼女に着いていくことにした。

でも、その前に。

下宿を出る前に、エマさんにお礼の手紙と、ドアと窓の修理代を用意した。

賞金があって良かった。

エマさんは僕の使っていたベッドに寝かせる。

女性を床に放置したままには出来ない。

エマさんはおだやかな寝息を立てている。


「今まで、お世話になりました」


本当の母親のように良くしてくれた、エマさん。

まるで、兄のように接してくれた気のいいお兄さん、フィンさん。

妖艶で、でも姉のように話しかけてくれたカーリーさん。

学校の生徒とは違って、僕のことを嫌わないでいてくれた、大人たち。

この下宿にいる大人たちはいい人たちだ。

冒険者学校の教師とは違って、僕を見下さなかった。

なんだかんだと世話をやいてくれた。

申し訳なさと、でも失ったはずの家族を思い出させてくれた人達。

僕にとって、かけがえの無い人達。

だからこそ、迷惑はかけられない。


僕はアンジュと一緒に、下宿を出た。


激しく後悔していた。

こんなことになるなら、鍵なんて見つけなければよかった。

謎解きなんてしなければ良かった。

楽しかった、聖杯探し。

でも今はただただ、後悔しかない。

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