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特別だからこそ、頼みたい

次はフライキャット関連の場所だ。

森を出ると、陽が傾きはじめていた。


「ここから遠いの?」


ミカリから聞かれて、僕は地図を取り出した。


「そうですねぇ、歩いて三十分程の距離ですね」


田園風景ばかりが広がっている砂利道を、僕達は進もうとする。

その時だ、チリンっという鈴の音が耳に届いた。

見ると、フライングキャットが待ち構えていた。

オル達が、慣れた動作で武器に手をやる。

なんなら殺気もフライングキャットに向けられていた。


けれど、フライングキャットはくるりと背を向けるとおもむろに歩き出した。

背中にある翼は、普通の鳥のように折りたたまれている。

トコトコと数歩進んだかと思うと僕達を振り返った。


「ついて行けばいいんですか?」


僕はフライングキャットに話しかけてみた。

フライングキャットは、僕を見た。

それから、くぁぁあ~と欠伸をして、体を伸ばして、それからまたトコトコと僕の前まで来ると、その頭を僕の腹に押し付けてきた。

本当の猫みたいだ。

グリグリと、大きな頭が押し付けられる。

ふと、思い出した。


(あ、これ)


僕にとある考えが浮かんだ。


「どうしたん、甘えて?」


言いつつ、首のところをカリカリとかいてやる。

ゴロゴロと、やはり猫がご機嫌の時に鳴らす喉の音が響いた。


「お菓子はないぞ?」


僕は何度も読んだ、小説の場面を再現する。

そう、これは再現だった。

かつて起こったこと。

かつて勇者が、フライングキャットを拾ってしばらくして起こったことの、再現だ。

フライングキャットを撫でくりまわしながら、僕は掲示板でこの事を報告する。

すると、


【強制イベントだ!】


【イベントktkr】


などと盛り上がった。

考察厨さん曰く、決められた手順で課題をクリアすると、こうやって次への道が開かれる仕様になっているとのことだった。

やがて満足したのか、フライングキャットが僕の袖を甘噛みして、クイクイと引っ張った。

僕は続くセリフを口にする。


「どうした?

宝物でも見つけたか?」


フライングキャットは僕の袖を引っ張る。


「わかったわかった。

どこに行けばいい?」


この後、勇者はフライングキャットに導かれ、行き倒れていた子供、後の小間使いと出会うのだ。

生涯、勇者の傍に仕え、その最期を看取った唯一の存在。

後世には、その存在を書き換えられ、消されてしまう存在。

フライングキャットは、僕の袖から口を離すとまたトコトコと歩き出した。

僕達はそれに続いた。

やがて、元々目指していた場所が見えてきた。

そこには、小さな社があった。

ポツンと、小さな石造りの家のような物がある。

大きさは小型犬の犬小屋ほどだ。


この周囲に広がる田園風景。

この田畑の持ち主たちが、お供えしたらしき花や野菜が置いてあった。

フライングキャットを見たら、僕の横でお行儀よくお座りしている。

なにか、お供えした方がいいんだろうな。

僕は、鞄を漁った。

食べ物はない。

僕は考えた。

もし、これが、再現なら。

僕は、オル達を振り返った。


「あの、誰か、水筒貸してください!!」


ウェイチが、まだ中身がたっぷりと入った水筒を手渡してきた。

瞬間、オル達の姿が強制的に森へと遠のいていった。


「おい!!手を伸ばせ!!」


オルが叫んだ。

でも、僕は、叫び返す。


「たぶん、大丈夫です!!」


三人の姿が消えた。

僕だけが、その前に取り残された。

僕は、ウェイチから貰った水筒の蓋を外して、チョロチョロと社の屋根へ水をかけてやった。

水筒には幸いに、まだたっぷりと中身が入っている。

蓋を閉め直して、僕は、


「大丈夫か?

ゆっくり飲め」


勇者が行き倒れていた小間使いへ掛けた言葉、それを口にした。

瞬間。

社が、フライングキャットが、光の粒子となって消える。

夕陽に照らされてキラキラと、別の形を作っていった。

そうして現れたのは、獣人だった。

うさ耳を、した獣人。

兎人族だ。

兎人族の少女だ。

キングラビットではなかった。

流れからして、キングラビットが出てくると思っていたのに。

少女は口を開いた。


「本当は、私なんかより適任がいるはずです。

なぜ、私なんですか??」


なんの話だ?

この話は知らない。

僕はセリフが言えずにいた。

焦ってしまう。

その横から、少年の声が聴こえた。


「僕は、なんにも力がないからね。

彼女の力になれない。

勇者である彼に選ばれ、ついて行く、アルンを止められない。

でも、君は、君たちは違う。

獣人は人の何倍もの筋力や魔力がある。

ホダレやタマはモンスターだ、それも物凄く強いモンスター。

でも、僕は彼女と一緒に行けてもなんにも出来ないから」


「そんな、そんなことないです!

だってご主人様は、いつも貴方のことを見ています。

いつだって、貴方のことを」


僕は何を見せられているんだろう。

そして、これは何の話だ??


「……好きな子の、足でまといにはなりたくないんだ」


そう言った直後、時間が止まった。

兎人族の少女の動きが止まる。

かと思ったら、少年はまっすぐ僕を見てきた。


「ごめんね、こんなものを見せて。

でも、君は特別だ。

僕と同じくらいアルンが好きなんだろう?

そうでなければ、これを見れないはずだ。

何年、何十年、もしかしたら何百年も先の人かもしれない君。

君に頼みたい。

どうか、聖杯を壊してくれ。

あんなものさえ与えられなければ、アルンはただの英雄で終われたはずなんだ。

彼女が泣くことは無かったはずなんだ。

もしかしたら、家に帰ってのんびりと残りの生涯を過ごせたはずなんだ。


お願いだ」


僕は、少年を見た。

そして、聞いた。


「あの貴方は、誰?」


少年は口を開いた。


「僕は……」


そして、名乗った。

その名前に、僕は愕然とする。

たまたまだ、偶然だ。

でも、なんで、どうして、その名前なんだ。

少年は、【小間使いのパーシヴァル】だと名乗った。

勇者の幼なじみで小間使いの少年。

この少年の名前は伝えられていない。

小間使いの少年が、晩年書き残したとされる小説にすら出てきていない。

ずっと、小間使い表記のままだ。


「本当は色々話したいけれど、アルンに内緒でこれを仕込んだから。

あんまり長くは話せないんだ。

それじゃ、頼んだよ」


そこで、何もかもが消える。

消えてしまう。

光の粒子になって消えてしまう。

気づくと、僕は最後の目的地予定だった場所に立っていた。

そこは、古い墓地だ。

テイムされたモンスターや、家畜、そしてペット達専用の墓地だ。

その墓地の中でもいちばん古い墓石の前に僕は立っていた。

陽は沈みかけていた。

暗闇がすぐそこまで迫っている。

僕が墓石を見上げると、その墓石が光り輝いた。

そして、勇者が現れた。

その手には、竹林の時と同じように鍵がふよふよと浮いている。


「これはこれは恐れ入った!

まさか、ここも突破されるとは!!」


勇者はとても楽しそうだ。

僕は、鍵を受け取る


「さてさて、ここから先はさらに難しくなるぞ!

頑張れ!!」


と言って、勇者は消えてしまった。

後には、第一の鍵の時と同じように、報酬が残されていた。

僕は鍵を握り締める。

勇者の笑顔と、小間使いの少年の悲しそうな顔が交互に浮かんだ。

知らないことがあった。

調べ直さなければならない、そう思った。

勇者は聖杯を後世に遺した。

次の王様を決めるために。

でも、小間使いの少年は、その聖杯を壊してくれと言った。

見ず知らずの後世の人間に、そう頼んだ。

どうして、キングラビットではなく出てきたのが兎人族だったのか。

どうして、僕だと特別なのか。

僕が好きなのは勇者伝説だ。

勇者個人については、憧れはあるけど好きとは違う気がする。

とにかく、考察厨さん達に報告だ。

自分一人で考えて居ても、ろくなことにはならない。


僕はひとまず、オル達と合流しようと決めた。

墓地を出る。

もしもはぐれても良いように、あらかじめ宿で落ち合おうと決めていたので、僕は宿を目指そうとした。

その時だ。


「やっと一人になったな」


「見つけるのに苦労しちゃったね」


なんて、聞き覚えのありすぎる声が耳に届いた。

声のしたほうを、見る。


「まさか、姿まで嘘をつくなんてな。

ちょっと悲しいぞ、パーシヴァル?」


アーサーがそんな言葉を投げてきた。

続いてジェニーが、


「でも、ほら昔から詰めが甘かったもんね。

だから、直ぐにわかっちゃった」


なんて言ってきた。

二人とも気さくで、優しい声だ。

でも、小馬鹿にしているのがすぐにわかった。


「なんの、事ですか?」


「とぼけんなよ、パーシヴァル」


アーサーはニヤニヤと楽しそうだ。

ジェニーも楽しそうに、言ってきた。


「靴よ」


ハッとした。

そうだ、服も、外見もほとんど変えた。

けれど、靴だけはずっと同じものだ。

下宿にいた頃から使っている、履き潰したボロボロの靴。

遠目から見ても、僕のものだと一目瞭然でそれだとわかる靴。

二人は靴を見て、大神殿にオル達と現れた新人が僕だと看破したらしい。


「ついさっき、またスコアボードが更新されたと連絡がきた。

一位は変わらずパーシヴァルだ。

あれ、お前だろ?」


アーサーがそんなことを言った。


「……っ」


どうしよう、なんて答えよう。

言葉に詰まった僕を、どう取ったのかアーサーはさらに続けた。


「お前さ、どこまで嘘つきで卑怯なんだよ?」


「ひ、ひきょう??」


「だってそうだろ?

お前は、本当は最初の謎も解けてたんだ。

にも関わらず、俺たちにすらそのことを言わなかった。

で、ギフト発現の儀式の直後に鍵を手に入れた。

聖杯探しは、15歳以上でギフト発現の儀式を受けた奴じゃないと出来ないからな。

ずっと待ってたんだろ?

この条件が揃うのをさ。

そして、謎の答えと鍵の在り処を知っていながら、俺達にはなんにも言わなかった。

俺やジェニーを出し抜こうとしてたんだよな?

聖杯には興味ありませんって顔しながら、ほんっと汚い奴だよ」


「そうそう。

だからね?

最初の謎とこの二個目の謎の答えを教えてくれれば、私たちはパーシヴァルのこと許してあげてもいいよ。

ズルをしたこと。

嘘をついたこと。

なにより、私たちを出し抜いたこと。

全部、水に流してあげてもいい。

教えてくれるよね?」


そう言った二人の目が、澱んでいた。

泥水のように淀み、歪んでいる。

そのなかに、妙な輝きがあった。

まるで、何かに取り憑かれているようだ。

2人は口を揃えて、さらにこう言ってきた。


「「だって俺(私)たち、友達だもんな(ね)」」



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― 新着の感想 ―
[良い点] モンスターフレンドかな?と思ったけど操られてる? そして転移先を知ってたって事は何かあるなこれ。 [気になる点] おらわくわくしてきたぞ [一言] 聖杯も聖剣も聖槍もなんでも聖ってつければ…
[一言] 気持ち悪っ! どの面下げて友人(笑)とか抜かすのか。 なんというか異様に気持ち悪いな。 もと友人という建前すら見せず、お前は下で俺たちは上とあからさまに言い募る嫌悪感が俺の胸を気持ち悪くさ…
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