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再会のようなもの

でも、それは一瞬だった。

息が詰まったのは、一瞬だった。

僕は、アーサーとジェニーから視線を外し、足元を見た。

二人を視界に入れたくなかった。

僕はさらにフードを引っ張って顔を隠した。


もしかしたら2人は、僕のことなどとっくに記憶から消し去っているかもしれない。


「誰かと思えばオルフェウスじゃねーか」


そう声を掛けてきたのは、冒険者クラン【夢幻剣士】のリーダーだ。

クランの名前は有名だけれど、リーダーの名前を僕は知らなかった。

クマみたいに大きなひとだ。


「スコアボードに載るとは、どんな汚い手を使いやがった?」


クマは喧嘩腰でそう言ってきた。

それに続く形で言葉を投げたのは、冒険者クラン【聖騎士同盟】のリーダーである金髪碧眼の女性だ。

こちらも、クランの名前が有名でリーダーの名前については、少なくとも僕は知らなかった。


「こちらとしても知りたいですね。

本当、どんな小狡い手を使ったんです?」


金髪碧眼もそんなことを言ってきた。

その二人の言葉を受けて、オルはくつくつと笑った。


「汚い、そして小狡いねぇ」


僕は、少しだけオルを見た。

ミカリの陰から、見た。

オルと、ウェイチは楽しそうに肩を揺らして笑っていた。


「それって、盗みや人さらいをする、冒険者クランとは名ばかりの犯罪者クランのこと言ってるのか??

それなら、他を当たるんだな。

少なくとも、俺たちは真っ当なパーティだ」


昨夜、大神殿を襲撃して僕を連れ去った人がなにか言っている。

続いてウェイチが、


「先を越されたからって、嫉妬か?

どっちも見苦しいな」


そんなことを口にした。

クマと金髪碧眼が、ムッとした表情になる。

と、金髪碧眼の視線がミカリ、ではなくその陰に隠れていた僕に向けられる。


「初めて見る子ですね?

新人ですか?」


言いつつ、スコアボードに視線を移す。


「それにしては、スコアボードに名前が載っていないようですが」


「そりゃ、ここに来る途中で仲間にしたからな」


いけしゃあしゃあと、オルは言った。

金髪碧眼は、こちらに歩いてきたかと思うと僕へ声をかけてくる。

ミカリが僕の盾になるかのように立つ。


「あなた、名前は?」


「ヴぇっ!?」


怯えすぎて、僕は変な声を出してしまった。


「いいよ、言わなくて」


きっぱりと、ミカリが言った。

と、金髪碧眼の顔が意地悪そうに歪んだ笑みを作った。


「あら、言いたくないの?

それって失礼じゃないの?

私がわざわざ声を掛けているのに」


僕はその言葉に記憶をひっくり返した。

まるで、自分の方が身分が上だと言わんばかりだったからだ。

だから、冒険者としての功績を認められてこの人は貴族位をもらったのかなと思ったのだ。

たまにそういうことがあるのだ。

でも、そんな記憶は出てこなかった。

そんなことが起これば、それこそ新聞の一面に載る大ニュースだからだ。

金髪碧眼の言葉に、ミカリが呆れた声で返した。


「何様のつもりよ、貴族でもなんでもない。

たかが冒険者の一人のくせして」


「いえ、あなた達がわざわざ仲間にした子ですので。

どれほど優秀な子なのか、念の為名前だけでも聞いておこうかと考えただけですよ」


ここでクマが口を挟んで来た。


「つーか、怪しいな。

スコアボードに名前が乗った日に、わざわざ新人を入れるなんて。

そんで、その新人は鍵を手に入れていない?

おかしくないか?」


クマの言葉に、オルが淡々と返した。


「なにがいいたい?」


クマはスコアボードを見上げて、言った。


「誰も彼もが、あの【パーシヴァル】を探してる。

けれど見つかっていない。

本人も名乗りを上げていない。

そうすれば、一躍ヒーローになれるのに、だ。

そして、あのパーシヴァルの登場からたった二日でお前たちがスコアボードに載った。

んで、お前たちほどのパーティが、俺たちですらノーマークだった新人を連れている。

おかしいと思うだろ」


続いて、クマの言葉が僕に向けられる。


「おい、お前、名前はいいからそのフードをとれ」


僕はあからさまに、ビクビクしてしまう。

しかし、ここで意外にもミカリが僕に言ってきた。


「仕方ない、フード、取ってみて」


僕は、怯えたままミカリを見た。

ミカリは、


「大丈夫だから」


と続けた。

そういえば、僕は魔法で姿を変えていたのだ。

僕は震える手で、目深に被っていたフードをゆっくりとった。

周囲から、一瞬ざわめきが消えた。

僕は怖くて、視線は下に向けたままだ。


「ほぅ?

こんな上玉、どこで見つけてきたんだよ?」


どうやら、上玉、と言う程度には今の僕の顔は整っているらしい。

下宿にいたカーリーさんに比べると、物凄く子供っぽい顔立ちだと思っていたから、この反応は意外だった。

そう、僕はオルの魔法で女の子に姿を変えていたのだ。


「普通に冒険者ギルドにいたぞ」


またも、オルは言った。

堂々とした嘘つきだ、この人。

クマは納得しなかったのか、さらに続けた。


「それはそうと、なんで【鑑定阻害】までかけてるんだ?」


カンテーソガイ??

何の話だ?


「お前みたいな変態の魔の手から守るためだ」


その横で、ウェイチが楽しそうにニヤニヤしてる。

オルは、話は終わりだとばかりに、二人に背を向けこちらに来たかと思うと、


「帰るぞ」


そう言った。

ウェイチがそれに続く。

そして、ミカリに支えられながら僕も歩き出した。

フードを被り直す。

ふと、怖気の走る視線に気づいた。

何気なく、【夢幻剣士】と【聖騎士同盟】を見る。

アーサーとジェニーが物凄く怖い顔で、僕を見ていた。

まさか、バレた?

いや、そんなはずは無い。

この時は、そう思っていた。


宿に戻ってきた僕達は、その食堂でささやかな祝杯をあげたのだった。

食堂はちょうど混む時間だったらしい。

ざわざわとそれなりに騒がしかった。

適当な席につき、食事を注文する。

やがて届いた食事に、三人は手を付け始めた。

しかし僕は、全く食欲がわかなかった。

それどころか、自分でもわかるほどソワソワと落ち着かなかった。

きっと、幼なじみ達の顔を見たからだ。


「少食?」


ミカリが聞いてくる。


「いえ、あまりお腹減ってなくて。

さっきのことも、あるし」


僕はそう答えた。


「大丈夫だ。

あの馬鹿が言ってただろ、鑑定阻害がどうのこうのって。

簡単に言えば、お前がどこの誰か分からなくなるよう魔法をかけておいたってことだ」


オルがそんな説明をする。

説明をしてから、


「ちなみに、鑑定ってのは知ってるか?」


「聞いた事があるような、無いような」


オルはさらに鑑定について説明した。

それは、鑑定士という職業の人が与えられるギフトらしい。

早い話が対象物や人を調べることができる能力らしい。


「便利なものがあるんですね」


なんて返した僕に、オルが聞いてくる。


「それはそうと、お前、何をそんなにビクついてる?

攫った時とは全然違うじゃないか」


「……っ、その、さっきの場に知り合いがいて。

なんていうか、ちょっとアレなことをされたのが思い出されたというかなんというか」


三人は、それぞれ顔に疑問符を浮かべる。


「あんまり愉快な話じゃないんですけどね」


とくに先を話すようすすめられた訳ではなかったけれど、僕は気づいたらこの数日間のことを話していた。

ほんと、祝杯の場で言うことではないとわかってはいたんだけれど。

一度吐き出した言葉は止まらなかった。

全てを聞いたあと、なんとも微妙な空気になってしまった。

ウェイチとミカリは、言葉を探しているようだ。

しかし、オルは、


「なんだ、一緒にいたヤツらの目は節穴だったってことか」


と一笑した。

そう言って貰えたからか、なんとなく、気持ちが楽になった。


「まぁ、でもお陰で俺たちは鍵を手に入れられたからな」


食堂が騒がしいので、誰もこの会話をきいていなかった。

そして、ここは食堂だ。

皆、他人の会話より自分たちの会話と食事に集中している。

だから、オルが第一の鍵を出しても、誰も気に止めていない。


「このまま節穴でいてくれた方が好都合だ」


オルは言うと、アルコールを煽った。


「あの、万が一にもさっきの変装が見破られたってことはないです、よね?」


「あ?」


流石にオルに睨まれた。


「いえ、さっき言った二人が僕のこと睨んでたんで。

もしかしてって思ったんです」


僕の言葉に、


「それはない」


オルは断言した。

なら、僕の気にしすぎかな。

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― 新着の感想 ―
[一言] ビクつき方って、性格、個性が出るからなぁ。
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