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主人公は新ルートを解放する

 ウサギの姿をしているのに、ヒトの言葉が話せることが人間にバレてしまった。


 このまま〈食用ルート〉に進むのだろうか。

 自分の不注意が招いた事態に、ミアは革袋の中で気落ちするのだった。

 


「やぁジル。 珍しく嬉しそうな顔をしてるけど、魔物を誑かすという噂のウサギでも捕まえたのかい?」 


「レオも来てたのか。 その件なら今回は多分ハズレだ。 でも面白い事はあったよ」


「へぇ、何だいそれは」


「実は捕まえようとしたら顔に蹴りを入れられてね。 そのウサギを飼うことにしたんだ」


「ウサギを? また何でこんなタイミングに」


「意思疎通を図ろうと思って」


「いくら人付き合いが好きじゃないからって、ウサギはないだろう」


「はは、確かに」



 別の男性の声が聞こえた。


 ミアは自分がヒトの言葉を話せる事を言いふらすのではと心配していたが、会話を聞くと今のところ大丈夫そうだ。

 そして本当にペットにされるらしい。


(『安全寝床』ってこのことかしら……)


 ミアは、自分がどこにいるのか、先程の電子音は何を知らせていたのかが気になっていた。

 クロノが側にいないので、確認する手段がない。


 それにしても、先程まで命懸けで走っていたからか、ユサユサと心地よい揺れが眠りを誘う。

 ミアは一旦思考を止め、睡魔に体を預けることにした。



 ◇



 あれからどれ位眠っていたのかわからないが、気づくとミアはベッドの上にいた。

 眠っている間に連れてこられた場所は、どうやらミアを捕らえた青年の部屋らしい。

 先程の装いから一変、軽装に着替えて何やら机に向かい書き物をしている青年が見える。

 

「あぁ、目が覚めたか」


 ミアに気づき、その手を止めて近づいて来る。


「ここは俺の部屋だから誰も来ないし、机の引き出し以外は自由にしていいから」

 

 自由にしていいとはいえ、男性の部屋であるのは間違いない。

 これからここで一緒に過ごす、そう考えただけでも顔から火が出そうになった。

 しかし相手は、自分をウサギだと思っている以上は開き直らないと益々怪しまれるだけだ。

 

「だからほら、喋っていいぞ」


 話せることもやはりバレているみたいだ。

 けれどミアは、聞こえない振りをした。

 すると青年は、ミアを抱き上げ膝の上に乗せると、背中をゆっくり撫で始めたのだ。

 

「こんな騒動の中でまた森の中に放されたら、次はどうなるかわからないぞ。 どうする?」


 ミアの心臓の心拍数はグッと上がった。

 確かに大勢の人間に襲われ、何度も捕まりそうになり怖い思いをした。

 あんなもの、できれば二度と味わいたくない。



 だからといってこの青年を信用しても良いものだろうか。

 ミアは選択を迫られた。




 ミアは転生してから、使い魔のクロノ以外頼れる者はいなかった。

 それはそれで良いのだが、獣二匹だけではやれる事にいつか限界が出てくる筈だ。

 人間に味方ができれば、世界も広がる上に、人間ルートへの近道に繋がるのではないだろうか。



 人間不信になってる場合ではないのかもしれない。



 ミアはチラリと自分の背中を優しく撫でる青年の方を見上げた。

 ハチミツ色の瞳は、やはりミアを見ている。

 それは単なる好奇心だけではなく、何かを求めているような、少し寂しさも混ざっている様だった。


 けれどミアは耳をパタパタと動かすだけで、青年に話しかけることはしなかった。


 その様子に青年は溜息をつくと、静かに話し始めた。


「一週間ほど前から魔物達の様子がおかしくてな、探っていたらそこにウサギが関わっているって話になったんだ」


「……」


「そのウサギはどうもお前みたいに白い毛皮らしくてな、魔法も使えて、危険な魔物さえも従えると聞いてる」


(そんなウサギ、見たことあったかしら……)


「一体どんな魔法を使うんだろうな。 実は興味があってこの眼で確かめてみたいんだ。 俺達人間が知らないような魔法なんだろうか。 とにかく話がしてみたい」


(この人、そのウサギに自分がやられるとか考えないのかしら。 とんだ自信家ね)


「……そういえば、前にドラゴンを見つけた時も確かウサギが関わっていたな」


(え?!)


 ミアの耳がピクリと反応した。


「……あのドラゴンが、あの時のケガが原因で病を罹っていると聞いたら、どう思うだろうか」


「ウソ! それって大丈夫なの!?」


 ミアは思わず青年に聞き返した。


「………………」


 すると青年は目を見開き、撫でていた手を止めた。


「あ……」


 その顔を見て、ミアはさぁっと青ざめた。

 今まで誘導尋問されていたのだとやっと気づいたのだ。


 そして青年もまた、『喋るウサギが本当にいた』という事実を目の当たりにして固まってしまう。

 

 二人の間に、長い沈黙が流れた。


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