主人公は外堀を埋められる
ジュエルスタンにも冬が訪れる。
比較的穏やかな気候の国ではあるが、それでも三ヶ月程気温が下がる冬の時期があるのだ。
この日の朝も霜が下りるほどに冷え込み、ミアは分厚い毛布と布団に包まっていた。
転生してから初めて迎える冬。
どんなふうに景色が変わるのか気になる所ではあるが、それ以前に寒くて堪らない。
元々寒さに強い方ではなかったミアは、今朝も布団との別れを惜しんでいた。
(そろそろ起きなきゃだけど、これだけ寒くちゃ出られないな……)
が、そんな自分の心の声とは別に何やら背後から寝息が聞こえてくる。
「ん……?」
その音に耳を澄ますと先程まで夢見心地だった頭も徐々に冴えてくる。
ミアはようやくいつもは別室で寝ている筈のジルに背後から抱き締められる体勢になっている事に気づいたのだ。
(一体いつから!?)
昨晩日付が変わっても帰ってこなかった為、そのまま居室で寝落ちてしまった事を思い出す。
そこへ帰ってきたジルがミアを寝室へと運びそのまま一緒に眠ってしまったと思われる。
(今日って仕事お休みだっけ……?)
予定はどうだか分からないが、余りに近すぎるこの体勢から何とか起き上がろうと、腰に回されている手を掴みとにかく揺さぶった。
「ねぇジル、朝だから起きて!」
「……寒い」
すると再び腕に力が入りギュッと体を抱き寄せられる。
大好きな人の温もりと耳元で聞こえる声と息遣いに、天に召されてしまいそうになりながらミアは再び起床を呼びかける。
「もっ、もう六時前だよ!」
「え……?」
「今日はお仕事はお休みなの?」
「いや……七時から稽古が入ってる……」
ジルはようやく目を覚ましガバッと布団から抜け出すと、支度をしに慌てて自室へと戻っていったのだった。
一ヶ月程前。
ミアはジルの妻となり、結婚式を春を迎える三ヶ月後に控えていた。
夫婦となったということで二人は共に暮らすようになったのだが、未だに寝室は別である。
それは多忙なジルがしっかり眠れるようにする為なのだが、夫婦となった自覚が芽生えず気持ちが追いついていないミアの事も考慮してだった。
「じゃあ行ってくる!」
「はい、いってらっしゃい!」
外套を羽織り慌ただしく家を出ていったジルの背中を見送ったミアは、朝日が昇ったばかりの空を見上げて白い息を吐いた。
(あんなことになってたからかな、何だか寂しいや……)
ジルが忙しいのは日頃から変わらないが、先程迄あった温もりが恋しくなる。
寒さのせいなのか、何なのか。
二人での生活が当たり前になってきた頃の事だった。
◇
結局その日の晩も、その次の日もジルの帰りは遅く、気づくと朝迄一緒のベッドで寝ている日が続いた。
そして四日目の夜。
この日ようやく日付が変わる前に帰宅したジルは、食事も湯浴みもさっさと済ませると『明日は休みだから』とだけ告げて一足先にミアのベッドに潜り込んだ。
さすがにミアもこれは何かあるとにらむ。
「えっと……そこは私が寝る所なんですが」
「それぐらい知ってるさ。 ホラ、寝るぞ」
ミアが入れる程の場所を空けて、ここに来いとジルが手招きをする。
色々と聞きたい事があるが、一先ず布団の中に潜り込み向かい合う様にして横になった。
(まぁ一応夫婦なんだし、一緒の布団で寝るぐらい普通だよね……)
必死に冷静を装いじっとしていたミアだったが、不意にギュッと抱き締められ心臓が大きく跳ねた。
「ジル!?」
「やっぱり温かいなぁ……」
「え?」
「ミアを抱いてると温かくてよく眠れる」
「……ジルって寒がりなの?」
「あぁ」
どうやら湯たんぽ代わりだったようだ。
ホッとしたような寂しいような。
梳くように髪に触れるジルの胸元に、ミアは複雑な表情で擦り寄った。
「どうした、寒いか?」
「違う」
「あんまり可愛いことしてると襲うぞ」
「!」
ジルの一言にピシリと体が硬直する。
それを感じとったジルはミアの頭元でクスクスと笑った。
「冗談だ。 何もしないからそう固まるな」
子どもをあやすように頭を撫で、ミアの緊張をゆっくり解していった。
「ねぇジル、明日はお仕事お休みなんだよね?」
「そうだが、どこか行きたい所でもあるのか?」
「朝も一緒にゆっくり寝られる?」
「え? まぁ……そうしたいなら」
「最近あんまり一緒にいられなかったからたまには朝寝しても良いかなと思って。 お出かけはその後でいいよ。 どう?」
「最近忙しくてあんまり会話もしてなかったもんな。 寂しい思いさせて悪かった」
「お仕事なんだし気にしないで。 じゃあ明日の朝は時間気にせずゆっくりしよう」
少しホッとしたミアは、ジルの胸元に再び顔を埋め嬉しそうに笑った。
「……」
その後様子を伺い暫く黙っていたジルだったが、ミアの額にちゅっと口づけるとそっと上半身を起こした。
「何もしないと言った手前なんだが……ってあれ?」
よく見るとミアは既に穏やかな顔をしてすうすうと寝息をたてていた。
あの時『何もしない』と言った自分に少し後悔してしまう。
「まぁここまで来たらあと一押しかな」
実はこの寒さを理由に一つのベッドで眠れる様になればと目論んでいたようだ。
しかし幾ら忍耐強い騎士団長とはいえ一人の男。
この三日はなかなか大変だったようだ。
「まぁこれぐらいは許してくれよ」
ジルはミアの頬と唇にキスを落とすと再びミアの体を抱いて眠りについた。
二人で寒い朝を微睡みながら過ごせるのを夢見ながら。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
一旦完結ですが、またどこかで続きがかければと思います。
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