小さな主人公は恋をする
本編は完結してますが、おまけでその後を書いてます。
今回はマリエル目線です。
私はマリエル。
飲食店をやっている父と母と三人暮らしだ。
夜に開いているお店なので、その時間は隣りに住むヴィオラさんといつも過ごしている。
そこに一年前にやってきたのがミアだ。
私が男の子達にちょっかいをかけられている時に助けてくれたお姉さんで、話を聞けば行くところがないというのでお店の手伝いをしながら一緒に暮らすようになったのだ。
因みにミアは歌やギターがとっても上手で、初めて歌声を聞いたときは目の前でパチパチと光が弾けたように感動したのを覚えてる。
人を幸せな気持ちに出来る特技があるって羨ましいな、と思った。
だってそうなればきっと、好きな人だって振り向かせる事も出来るでしょ?
まだ大人じゃないけど、私にだって好きな人がいる。
相手は年も離れてるし大人だし、今の私じゃ恋愛対象にはなれない。
それでも諦めたくなくて、今日も姿を見つけたら側に行って捕まえにいく。
「見つけた! ナタン様、お勤めご苦労様でした!」
「また先に見つけられてしまったか。 今日は何処で隠れてたんだ?」
「あのお店の角よ。 そこでは美味しいフルーツがはいったって言ってました」
「そうか。 じゃあ寄って帰るか」
公務が終わる頃を見計らって、私は街中に隠れてナタン様の帰りを待つ。
そして労いの言葉を届けに行くのだ。
いつからかそれがかくれんぼみたいになって、ナタン様も私を探してくれるの。
なかなかステキでしょ?
勿論待つのは日が暮れるまで。
それ以上は危ないからと一度叱られた事があった。
次が無くなるし、ちゃんと約束は守らなきゃね。
でもこの幸せな時間を、最近邪魔してくるのがいる。
「なぁマリエル、話を聞いてくれよ!」
ピョコン、と少しはねた赤い髪。
そしてきれいな金色の瞳の少年の名はルールーだ。
「今忙しいの! もうちょっとでナタン様が帰ってくるんだから静かにしてて!」
「何だよ、今日も『ナタン様』か。 マリエルも物好きだな」
「放っといてよ。 あなたみたいな子どもにはこの気持ちはわからないわよ!」
「あのなぁ、オレだって……」
ようやくルールーが黙ってくれたからこれで集中できる。
今日もナタン様に声をかけて……。
「マリエル?」
「え、何?」
「大丈夫か? 何だか苦しそうだけど」
「そんなことないよ! ちょっと私、隠れる場所変える!」
「おい、マリエル!」
あんな後に会いたくない。
ナタン様がミアと会った後なんて……。
実は知ってる。
ナタン様がミアの事が好きだってこと。
お店を贔屓してくれる様になった時には、既にナタン様の目がミアを追ってた。
ジルさんと婚約が決まってもそれは変わらなくて、さっきだって、優しそうに眉を下げて笑ってる。
きっとまだ好きなんだ。
ミアはナタン様の気持ちに気づいてるのかな?
ーーどちらにしても、あんな顔をするナタン様は見たくない。
私はとにかく遠くに行きたくて走り続けた。
その言葉とおり、気づけばかなり遠くまで来てしまったみたいだ。
(ここ、何処らへんだっけ……?)
確か街中を抜けて、教会近くの草原にきて、それからもっともっと遠くと思って……。
ここはその教会すら見えない草むらだった。
(えっと……どっちの方角だろ……)
キョロキョロと周りを見回しても目印になるものが見つからない。
日も傾き始めてる。
急いで歩いてみるけどやっぱり自分が何処に向かってるのかわからない。
空の色の様に私の心にも暗い空が広がってくる。
早く帰らなきゃナタン様との約束を破ってしまうことになるのに。
怒られちゃう。
嫌われちゃう。
それだけは避けたい。
避けたいのに……。
行き先が決まらず歩くのが怖くなってきた。
とうとう歩けなくなって私は座り込んだ。
「ナタン様……助けて、見つけにきて……」
涙で周りも見えなくなって来た頃だった。
小さな灯りが見えた。
青くてゆらゆらと揺れるきれいな灯り。
あれって……。
「マリエルーー! 何処にいるんだーー!?」
ナタン様の声だ。
じゃああの灯りはナタン様の使い魔の光?
目があったのだろうか、光が私の方へ勢いよく向かってきた。
「フォルテ、そっちか!?」
「ナタン様……!」
私はナタン様と使い魔のお陰で何とか見つけてもらえたのだった。
「こら! 日が暮れるまでだと約束してただろう! どうしてこんな所にいるんだ!」
「ごめんなさい……」
怒られたのと、見つけてもらえて嬉しかったのと、感情がぐちゃぐちゃになって涙が溢れた。
「こんな事になるならもうやめるぞ?」
「やだ! ちゃんと気をつけるから許して!」
するとナタン様の使い魔が側に来て私の頬をペロリと舐め、涙を拭いてくれた。
そしてじっとナタン様の方を見上げる。
それを見てナタン様は大きく溜息をつくと、私を優しく抱き上げてくれた。
「ミアもルールーも心配して探してたぞ。 後でちゃんと謝るなら許してやる」
「はぁい……」
ナタン様に抱き上げられたのと使い魔の灯りもあって、私にもやっと教会が見えた。
「ナタン様は、何でここだって分かったの?」
私は鼻を啜りながらナタン様に尋ねると、ナタン様はすっごく優しい顔で私を見てくれた。
「マリエルはよく花や草の匂いをさせて迎えてくれるからな。 だからここらへんじゃないかと思ったんだ」
「え……そうだったの?」
「俺もこんな所でよく遊んでたから、マリエルが来てくれると懐かしくて安心するんだ。 『帰ってきたな』って」
私の心臓が大きな音を立てて動き出す。
「あとはフォルテがマリエルの事を好きみたいでな。 いなくなったって話してたらそわそわしてたぞ」
「そっかぁ……」
私は目の前でふわふわと浮いてる使い魔の額を撫でると、すごく嬉しそうな顔してスッと姿を消した。
「さぁ、帰ろうか」
「うん」
家につくまで、ナタン様はずっと私をかかえたままだった。
ナタン様は大きいから揺れるんだけど、それがすごく心地よい。
大きな体も、強くて太い腕も、笑った顔も、全部大好き。
これが私だけのものになったらいいのに……。
「マリエルーー!!」
街に着いた頃、向こうからミアが走ってきた。
「こんな時間までどこ行ってたのよ! すっごく心配したんだから!」
前にナタン様と助けに来てくれた時と同じ顔。
夜のように真っ黒な目から、涙が今にも溢れそうで私は申し訳なくなった。
「ごめんなさい……」
「ナタンもフォルテも見つけてくれてありがとう。 これ以上はリディさん達にも心配かけちゃうし、早く帰ろう」
「うん……」
「……ねぇナタン、この後予定ある?」
「いや、ないけど」
「じゃあお店でご飯食べていってよ。 マリエルはナタンにお礼を兼ねて一曲踊って見せたら?」
「え、いいのか?」
「最近の踊りは可愛いだけじゃなくてすごく綺麗なの。 ぜひ見てあげてよ。 ね、マリエル?」
「うん! ナタン様、一生懸命踊るから見ていって!」
ミアは私が名残惜しくなってるのに気付いてくれたみたいだ。
やっぱりミアには敵わない。
でも私の味方だからこれでいいんだ。
「それは楽しみだな。 じゃあお言葉に甘えようか」
ナタン様が笑ってくれた。
思わぬチャンスに私も嬉しくなった。
「マリエルーー!」
「ルールー!」
「お前、探したぞ!って……何だよ、ナタンが先に見つけたのか?」
「マリエルの行きそうな所は分かるんだよ。 それだけ一緒にいるからな」
ナタン様がニヤニヤと笑ってるの見たルールーは、何故かすっごく悔しそうだ。
「これで勝ったと思うなよ! 今日はもう帰らなきゃだから行くけど、今度マリエルを泣かしたら許さないからな!」
そんな言葉を言い放ってルールーは竜に姿を変えると、暗くなった空へと向かって飛んでいった。
「かわいい所あるよなぁ、ルールーって」
「ホントに」
ミアとナタンが顔を見合わせて笑ってる。
あのルールーのどこがかわいいっていうのよ。
あ、でも謝りそびれたな。
今度会ったら心配かけた事謝らなきゃだ。
その後、私はミアのギターに合わせて踊りを披露した。
ナタン様が見てるって思うとすっごく緊張したけど、ミアの音がそれを解してくれる。
最近はミアだけじゃなくて、私の踊りを楽しみにしてくれる人も出てきたのよ。
いつかナタン様も、そうなったら良いな。
ねぇ、一年待っててほしいな。
踊りも沢山練習して、もっと上手くなって、ナタン様が私から目が離せなくなるぐらいになってみせるから。
そして、あと四年待っててほしいの。
その頃には私も十六歳になる。
今よりずっときれいな女の子になって、追いかけたくなるような女の子になってみせるから。
それまでは、私がナタン様を追いかけるから。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
また後日アップしようと思っているので、気になった方はぜひブックマーク等よろしくお願い致します。




