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主人公は夢を叶える 2

 一人になれる場所を求めてようやく辿り着いたのは、街から少し離れた所にある小高い丘。

 ここでは小さな白い花が丘一面に広がっている。


「よし! 今なら大丈夫そう!」


 普段は家族連れやカップルで賑わっている所だが、今日は運良く人が見当たらない。

 ミアは腰掛け背負っていたギターを肩に掛け直すと、竜の鱗を使い弦を弾いた。

 すると不思議な事に、力加減で鱗の硬さが変化し、指先が不自由な状態でも無理なく音が出せる。


(竜の鱗って、凄すぎる……!)


 竜王の魔力が込められたギターに竜の鱗。

 きっと相性も良いのだろう。

 ミアは目を輝かせて笑った。

 

 その時、丘全体にざぁっと強い風が吹き抜ける。

 靡く髪を抑えつつ、ミアは風が流れていく方をじっと見つめた。


 思う事は只一つ。


 ミアがこの世界に来て最初に出会い、ウサギの時も人間の時も側に居てくれた人間の事。

 救われた恩義が何時しか恋心へと変わっていた。

 ミアはギターを持ち直すと鼻唄混じりでギターを弾き始める。

 

 竜族の城で、誰にも聞かせずこっそりと歌った曲。

 今もまだ恥ずかしくて鼻唄でしか歌えないが、『いつか彼の為にこの歌を歌える日がくれば』とミアの声に熱が込もる。


(会いたいけど流石に今は来れないよなぁ……) 


 空では太陽が天高く上がり、草花が風に揺れる。

 これまではジルが歌っているミアの居場所を見つけ出し会いに来ていたが、今回はミアから会いたいとその一心でジルがまだ知らない歌を歌ったのだ。


(まぁ、解ってるけどね) 


 ミアは溜息をつくと、気を紛らわす様に再び歌を歌い始めた。


「ミア」


 数曲歌い終わった頃、背後から懐かしい声と共に温かい腕にぐっと抱き締められた。


「ジル! 来てくれたの!?」


「あぁ。 今日は事務仕事だったから抜けてきた」


 そう言ってジルは笑みを浮かべてミアの後頭部に頬を当てる。

 するとミアもくるりと体勢を変え、ジルの首に腕を絡ませ抱きついた。


「来てくれてありがとう!!」


「その反応は、わざわざ俺を呼んだのか?」


「えへへ……」


「何だ、やっと甘える気になったか」


 腕に力を込めて返事をするミアに、ジルもミアを腕の中に収め抱き締め返した。

 

「それにしてもさっきの音はいつもと違うように聞こえたんだがどうした?」


「あぁ、多分コレ……」


 そう言って竜の鱗を出して見せた。


「竜王様の鱗なんだって。 今日ランセル様からの手紙と一緒にこれが入ってたの。 やっぱり今までと違って聞こえるんだね」


「……」


 嬉々として話すミアに対し、ランセルの名を聞きすんと表情を変えたジルを見てミアは一瞬固まる。


「待って待って! まだもう一つ話があって……その、ランセル様との婚約の件は、白紙になりました!」


「……そうか」


 『だからランセル様とは何でもない』と続けるつもりだったが、暗い表情のジルを見て、ミアはそろそろと体を離し、黙り込んだ。

 

「お前はそれで良かったのか?」 


 ようやく口を開いたかと思えば、思いもよらない台詞が飛び出しミアは驚き顔を上げた。


「いや、その……喜ばしいんだが、なんせ相手は竜族の皇太子だ。 それで本当に良かったのか?」


 ジュエルスタンでは竜族、ましてや皇太子に見初められるなど大変名誉ある話である。

 しかしそれを己のせいで破棄させたと負い目を感じたのだろう。

 視線が合わない状況にミアの瞳が次第に潤み始める。


「あのままじっと待ってたらそうなってたよ。 でもそれが嫌でお城を出てジュエルスタンに帰ってきたの。 皆の側に……ジルの側に居たかったから……この選択はダメだったの?」


 ポロポロと涙を零すミアを見てジルはグッと奥歯を噛みしめる。


「あの時単独で戻ってきたのはそういうことだったのか……なら悪かった」


 再び抱き寄せられそうになるが、ミアは首を振って泣きながらそれを突っ撥ねた。

 するとジルはその手を掴み、そのままドサリと地面に押し倒した。


「悪かったって。 だから逃げないでくれ」


 苦しそうに眉を(ひそ)める顔に、ミアもグッと泣くのを堪えようと呼吸を整えていく。

 その様子を見てジルは小さく溜息を漏らすと、覆い被さる様にミアに深く口づけた。

 そして宥める様に何度も何度も繰り返す。

 ミアもそれに甘え応じていたが、気持ちも涙も落ち着くと自ら口を開きぷはっと呼吸を求めた。


「泣き止んだか?」


「違う意味で泣きそうだよ……」

 

 口をへの字に曲げて見上げるミアに、ジルは目を細めて笑う。


「お前が俺で良いって言うなら心変わりしないうちにさっさと決めてもらおうかな」


「……何を?」


「ミア、俺の妻になってくれるか」


「妻ぁ!?」


 思わず声がひっくり返る。

 その声を聞きジルはぶはっと笑った。

 

「来年迄に決めないとまた皇太子に狙われるぞ。 まぁ一日も早くしてもらえればそれだけ俺の気も休まるんだが」


 ジルは茹でダコの様に真っ赤になったミアの手を引き目の前に座らせると、側で咲いていた花を一本取りそれを器用に輪っかにした。

 そしてミアの左手をとりその花をすっと薬指に嵌める。

 

「ちゃんとしたのはまた用意するから、今はこれで」


 そのまま手の甲に口づけを落とした騎士によって、耳まで赤くした歌姫はもう一つの夢をも叶えることが出来たのだった。



 

 ――街中を歩いていると、様々な歌が耳に入ってくる。

 ご機嫌に歩く誰かの鼻唄、赤子をあやす母の歌声、高らかと響く子どもの合唱……。

 この国でもようやく身近なものになってきたようだ。

 それは一人の歌姫の強い想いとそれを快く迎えいれた住人達によってもたらされたもの。

 転生前の世界では当たり前だったものがどこでも聞けるようになるのもそう遠くはなさそうだ。


 かつて歌を知らなかったジュエルスタンが、竜の加護と共に歌と音楽に溢れる国と呼ばれるようになるのは、もう少し先の話である。



   

 


 

 

 

 

 


 



  

 

 

 

 

 

 ここまで読んでくださりありがとうございました!

 本編はここで一旦完結ですが、後日番外編も掲載予定です。

 続きが気になる方はブックマークをつけて頂けると嬉しいです。

 この後新作も投稿致します。

合わせて読んで頂ければと思います。

 この度はありがとうございました!

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