主人公は夢を叶える
宴から三日が経ち、ようやくミアが目を覚ました。
極限まで疲弊した体を回復させる為だと説明は受けたものの、周囲の者はその間気が気ではなかった。
「ミア! やっと起きたのね!!」
「私、夢を見てた……?」
突然リディとバードに抱き締められたミアはぼんやりと記憶の糸を手繰っていく。
「何言ってるんだ! 宴は無事に終わったよ」
バードが涙声でミアに告げる。
「本当に?」
「えぇ。 ミアががんばってくれたお陰よ」
リディは既に泣いているのか、時折嗚咽が混じる。
そんな二人に抱きしめられたまま、ミアは自分の左手に目を向けた。
中指に嵌められた指輪には幾つものヒビの入っており、この様子だとウサギになることも不可能だろう。
けれどこのヒビこそが、あれは夢ではなかったと証明していた。
「そうだ。 久し振りに具沢山のスープ作ってあげるわ」
ぼんやりと空を見つめるミアを見てリディ達は急いで厨房へと向かっていった。
パタパタと階段を降りていく音を聞き、ミアは小声で呼びかけた。
「クロノ、いる?」
ミアの声に反応してクロノは姿を見せるとミアの膝に上がり体を擦り寄せた。
「ようやったな。 お疲れさん」
「クロノがいてくれたお陰だよ」
ミアはクロノをギュッと抱き締めた。
「怒濤の日々だったけど、これでやっと落ち着いて過ごせるね」
「せやな」
膝の上で丸くなるクロノの背中を撫でていると、ふと手が止まり突然ミアの顔から血の気が引いていく。
「忘れてた……」
「何を?」
「ヴィオラさんへのギター代……」
宴は成功したが、ヴィオラに肩代わりしてもらっていたギター代が未払いだった事を思い出した。
これについて後日訪ねると、宴の後ギターや太鼓など音楽に興味を持った者が急増し、その窓口にヴィオラがたたされ嬉しい悲鳴を上げていた。
「これも皆お前のお陰だよ。 この国でもようやく音楽が生活の一部になる」
ヴィオラはそう言って借金を三分の一まで減らしてくれたのだ。
ゼロとはいかなかったがこれでバイトを掛け持つ事をせずに済む。
ミアはホッと胸を撫で下ろした。
しかし悩みはまだあった。
今回の件ですっかり有名になってしまったミアの元に多くの人が集まり、店が回らなくなっている事。
更には国王に呼び出された際、この度の功績により『ぜひ宮廷音楽家に』と巨額の報酬金を目の前に積まれ延々と口説かれた事。
転生前の自分なら喜んで応じていただろうが、今の自分は『竜王の目覚めを祝う宴の席だけ』で充分だった。
一人で前に立って思い切り歌うよりも、誰かの隣で寄り添う様に歌いたい。
それがミアの理想だった。
◇
「ミアーー! 元気になったぁ?!」
一ヶ月程月日が過ぎ周囲も落ち着いてきた頃、店前を掃除していたミアの元にルールーが走ってきた。
「ルールー! 人間の姿で来たの?」
「うん、ちょっとね。 はいコレ、兄上から手紙を預かってきた」
「ランセル様から?」
あれから再びジュエルスタンへ来ていたようだが、その時はまだ療養中だった為結局会うことが叶わなかった。
ルールーから手紙を受け取ると、便箋にゆっくり目を通した。
竜王が宴の夢を見ようと嬉しそうに眠りについた事。
来年の宴も楽しみにしているという事。
そして、二人の婚約は強制しない、という事。
そしてもう一つ。
キラキラと光を通す大きな鱗が一つ入っていた。
どうやら竜王が落とした鱗の一つのようだ。
『とても頑丈なものだからギターを弾く手助けになるだろう』
そうランセルの言葉が添えられていた。
確かにミアの力では全く曲がる気配はない。
「確かにピックになる!」
ミアは目を輝かせた。
手紙の続きには、ミアへの想いも綴られていた。
『人の心は移ろいやすい。 いつでもミアを歓迎する』
文面上だが初めて名前を呼ばれた事でミアは頬を赤らめた。
どうやら身を引く気がなくなったようだ。
竜の一生はとてつもなくない長い。
その為あっという間に命が尽きる人間との交わりを遠ざけていた所もあったのだろう。
しかしこの一件でランセルの心にも変化が現れたようだ。
(まぁ私も心変わりするつもりはないけど)
ミアはクスリと笑った。
「そういやミアはマリエルがどこにいるか知ってる?」
「マリエル? 多分教会近くの草原に行ってると思うけど……」
「ありがとう!」
そう言ってルールーは人間の足を使って大通りを走っていった。
(あらら……)
どうやらこちらも心に変化があったようだ。
ルールーの後ろ姿を見送り、ミアは手紙をポケットにしまうとまだ包帯の取れない手を見つめた。
(早く使って弾いてみたいな……)
ミアは手早く掃除を済ませると、ギターを抱え一人きりで弾ける場所を探し始めた。
最後まで読んで下さりありがとうございました。
評価、レビュー、ブックマーク等も頂けると大変励みになります!
どうぞよろしくお願い致します。




