主人公は宴を始める 2
大通りが賑やかになってきた。
最初は戸惑っていた住人達も、ミアとマリエルが竜王に付き添い歩く姿を見ていると、恐怖心が徐々に薄れていくのがわかる。
「ねぇミア、広場に戻ったらまた歌ってよ! 私踊れるようになったんだよ?」
「もしかしてあの曲?」
「そう!」
以前リディ達の前でギターを弾いた時にマリエルとバードの二人で踊っていたあの曲が思い出される。
(そういえば、色んな曲を歌ってきたな……)
ミアは広場へと向かいながら歌と人との思い出を思い起こす。
「ねぇナタン、広場で竜王様をおもてなしするのはダメかしら」
「広場で? 城内ではダメなのか?」
「城内だったら街の人達が入れないでしょ? 広場なら色んな人が竜王様の顔を見れるじゃない。 どうかな」
「それは俺一人の一存では決められんな」
「いや、そう長居は出来ん。 座るところさえあれば外だろうと構わんぞ」
竜王の言葉にナタンは驚くと、顎に手を当て少し考え込んだ。
「竜王様が良いと仰るなら宰相にも掛け合ってみましょう。 ミア達は一緒に広場で待っててくれ」
「分かった!」
ナタンと別れ広場まで戻ると、そこにはまだ大勢の人達が道をあける様にして立ち、こちらの様子を伺っていた。
ランセルはその様子に少々ピリピリとしていたが、竜王の方はそんな視線も気にすることなく広場の中へと入った。
「これはミアのギターか?」
すると竜王は階段に立てかけてあったギターに気づきそっと手に取った。
「そうですけど、重くないですか?」
「いや、この重厚感が良い。 ずっと触れてみたかったものにようやく触れられた」
すると竜王はギターを持つ手を淡く輝かせた。
それを見ていた住人達から小さなどよめきが起きる。
その光がやがてギターへと移り、流れ込んできた光を吸収したボディには蔦が伸びていくような美しい模様が刻まれた。
「竜王様、一体何を?」
「使い魔の力だけではしんどいだろう。 このギターに魔力を注いでおいたからよく響くようになる」
「竜王様、このような時に魔力を他に与えるなどすれば貴方様の身が危険です!」
「大丈夫だランセル。 物に魔力を込める程度では大した疲れはでんよ」
そしてミアへとギターを手渡す。
ミアはギターを抱き、申し訳なさそうに竜王の方を向いていた。
「お主までそんな顔をするな、案ずる事はない。 それでその少女の踊りを見てみたいのだ。 さぁ弾いてみてくれ」
パァッと顔を輝かせたマリエルを見て、ミアは気持ちを切り替える様にギターをゆっくりと弾き始めた。
確かにこれまでよりも音がよく響く。
クロノの負担がぐんと減りそうだ。
「竜王様、ありがとうございます。 一生大切に使いますね。 では、この子の踊りを見てあげて下さい」
ミアはジャンッと鳴らすとマリエルが踊っていた曲を弾き始めた。
するとマリエルは以前の様に思い付きで体を動かすのではなく、曲調に合わせて腕や足を伸ばし軽やかにターンする。
時折流れてくるこの曲を聞き逃さず、鳴れば踊れるようにとずっと練習していたようだ。
『踊るなら家の中で出来る』と思いついたらしい。
その愛らしさに、広場に集まっていた住人達も大きな拍手を送った。
「すごいな、君の妹君は」
「えぇ、私の自慢です」
ランセルの言葉にミアは嬉しそうに笑った。
そして竜王も目を細めてマリエルを見つめている。
「ねぇミア! 私達も一曲お願いしていい?」
声を上げたのは、以前ミアに恋の歌を催促していた女性達だった。
希望に応え曲を弾くと、何と歌い始めたのだ。
歌詞を書きとめ必死に覚えたというのだ。
そうしていると、曲に合わせてバケツをリズミカルに叩く青年や、手を取り踊る子ども達が次々と現れる。
その間、竜王達の元には深紅のビロードが張られ美しい装飾を施した特等席が用意された。
まさに宴が開かれた。
ミアは指が痛むのも忘れてギターを弾き続けた。
◇
小一時間経った頃だろうか。
一通りのパフォーマンスが落ち着いた頃だった。
「竜王様、如何でしたか?」
額に汗を浮かべたミアは竜王の方を振り返った。
「誠に楽しい時間だった。 ……願わくば、来年もここへ来れる事を願う」
すると、ミアの左手に嵌めていた指輪に埋め込まれていた赤い石にピシッとヒビが入った。
「誠に良い夢を見ることができた」
竜王は席を立つと、持っていた杖でカンッ!と勢いよく地面を叩いた。
それと同時に指輪の石がパキンッと割れた。
ゴォッと風が吹き抜け辺りが光で覆われる。
その瞬時の出来事に皆それぞれに目を伏せた。
ミアは顔を覆っていた腕をゆっくり下ろすと、竜王が居た場所にはランセルしか残っておらず、そのランセルも驚いた表情で空を見上げていた。
その視線の先に目をやると、体からキラキラと細かな光を零す大きな竜の姿があった。
見覚えのあるその体は確か黒ずんだ赤褐色だった。
しかし今目に映る姿は燃えるような紅色に染まっている。
「私も実際に見たことはなかったんだが、あれは竜王様の体から鱗が落ちているんだ」
「それってどういうこと?」
「竜王様の力が完全に戻ったんだ」
竜の姿に戻った竜王はキラキラと光を零しながら頭上を周回する。
翼を力強くはためかせ空を飛ぶ姿は高揚感に満ちている。
ミアはホッとした表情でその様子を見ると、ふと自分の左手に嵌めていた指輪に目をやった。
ガーネットの様に輝いていた宝石は跡形もなく指輪自体にもヒビが入っていた。
以前女神様から頂いた、一度だけ奇跡が起こせるという指輪。
これが竜王の力を蘇らせる程の力を与えたのだろう。
「もしかしたらこのまま眠りにつくかもしれない。 私も付き添いにいってくる」
「じゃあ私も……」
「いや、君は充分役目を果たした。 だから戻る必要はない。 君が次に居るべき所はここだ」
ランセルはミアの手をとった。
「数日後にまたここへ来る。 竜王の様子もその時に伝える。 だからもう休んでいい」
初めて穏やかな笑みを見せたかと思った瞬間、ミアはランセルに魔法をかけられすぅっと眠ってしまった。
「……お疲れ様。 君も幸せな夢を見てくれ」
眠るミアを抱えたランセルは、そっと頬に口づけを落とした。
「これほど迄に素晴らしい宴は他にない。 心から感謝する」
騎士団長らにミアを預けると、ランセルも竜となり後を追うようにして広場から飛び去っていった。
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